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彼は怒りをにじませながらに言う。
「あぁ、もちろんですよ。この瞬間にも、今すぐに迎えに行ってあげたい。だから、邪魔をされると牙を隠せなくなってくるのですよ」
彼は怒っている。早く村へ駆けつけたいのは嘘ではないんだろう。でも、それが復讐心からではないのか。ドルの目の奥には、強い信念のようなものを感じてしょうがなかった。
けど、それを突くことは私にはできない。もし、チタニーの言うとおりであれば、彼は今、妹を黒い集団に殺されたかもしれない悲劇の兄なのだから。その気持ちを、真相も知らない私が止められるものか。と言いつつも、私の足はここまで来てしまった。きっと、私は彼を止めたいんだろう。心で気持ちの整理がついたとき、 ドルは大きなため息をついた。そして。
「言葉で通じないなら、力づくで行くしかないみたいだ」
その瞬間、私の視界はぐるりと世界を回った。
背中に重い痛みが響いた時、花弁が辺りを舞った。私は何が起きたか分からなかった。
「申し訳ないとは思っていますよ。でも、誰かを思う気持ちに、他者が干渉する余地はないかと。少なくとも僕は、そう確信しています」
彼の確固たるものが私を、私の助けたいという気持ちを拒んだ。彼の声には決意が固まっていた。
「うん…っそういう方法も、あるんじゃないかなっ…」
地面にうずくまりながら、呟いた。彼がどんな顔をしているのか見上げることも出来ない。
これでいいんだ。彼は何の犠牲にも替えがたい妹の命を選んだのだから。それが、既に失われていたとしても。私はそれで終わったはずだった。
「待ちなさい、ドルリアン」
彼を呼び、静止させると私の身体は彼を痛めつけていた。
「な、何をするんです!まだ、そんな力が残っていたのか」
彼は四方八方に腕や足を動かしては、宙を舞っている。彼の抵抗は私の力に比べれば、大したものではない。
「酷いっ…あなたは、そんなことをする人でしたか…」
耳に聞こえてくるのは、彼の苦しそうな悲痛の叫び。だからといって、私が行動を辞める理由にはならなかった。
「ドルリアン、あなたの言葉を借りましょう。 あなたの行動は無意味。あなたがそうしたいように、私にもすべき事があるの」
「コリエン、あなたが言っているのですか…それは僕を止めたいからなのですかっ…」
腕の中で衰弱していく彼を横目に、私は告げた。
「誰かの事を思ったまま行動出来る喜びを味わいたいの」
最後を言い終える頃には、彼は眠っていた。最後まで私の言葉を聞き届けてくれていたら良かったのだけれど。
この身体に意識が戻るまでの数分。私は花園を見渡した。それが一瞬にして火の海に包まれる光景は見えなかった。ここは焼け野原にはならない。後にも先にも。
「残るのは…」
そう呟いた時、花園の真ん中で一人静かにうずくまるティニールの姿を見つけた。
「今のままだと、救われるのは一人…」
心寂しく零れた言葉だった。けれど どんな未来であろうと、私は受け入れることが出来る。それは事実だ。
私の視界に入っていたティニールは泣き崩れていた。その傍で、少女の身体が一つ。あの身体を借りる猶予はある。あの娘の運命を。必要であるなら、他の人間の身体も利用して彼女の運命を良くしよう。あの身体が私を拒まない限り。