満腹で歩くのが大変そうなルティを連れて、おれたちはミルシェを探し歩いている。ルティの口ぶりではミルシェがどこにいるのか知っているようだったが、把握していないらしい。
イデアベルクに帰って来てから、おれは初めて国内を歩き回っている。ルティのこぶし亭がある居住区ばかりいたので、正直な所、他はまだ見ていなかった。
まだ再建途中というのもあるが、また国を離れることになるかもしれないのでこの機会に歩くことに。
「ミルシェさん、どこにいるんでしょうね~?」
「待ち合わせもしていないのか?」
「忙しいみたいで声をかけられなかったんですよ。アック様はテレパシースキルは持ってないんですかっ?」
「あるわけないだろう……」
色んなスキルを備えているとはいえ、さすがに心の声までは習得していないし試してもいない。彼女たちは一度、ガチャによる恩恵を受けている。そうなると魔石を介して意思の疎通が出来ても何らおかしくは無いが。
「アック様アック様っ!!」
「――ん? どうした、ルティ」
「向こうの方から何か争いのような声が聞こえます! 誰か揉めているかもしれないですよ!! 早く行きましょう!」
「こ、こらっ、急に走るなって!」
居住区の隣は確かギルドだけを集めた区画。まだこれといったギルドは揃っておらず、元々あった建物の修復を終えただけに留まっている。
ギルドマスターを募るにしても人手が足りないのが現状だ。
「――あっ! アックが来たのだ!! アックに決めてもらえばいいのだ!」
「それがいいニャ!! 獣人だけで決めるからおかしくなるニャ!」
騒がしい所に目を向けると、そこにはネコ族と獣人たちで溢れ返っていた。何故かそこにシーニャがいて、お互いに何かを主張し合って言い争っている。
「シーニャ、そこで何を揉めているんだ?」
「違うのだ! シーニャ、ここに狩人ギルドを作りたいだけなのだ」
「反対されたのか?」
「それも違うのだ。建物は出来上がっているのだ! でも長いこと留守にされるのが駄目みたいなのだ」
シーニャとネコ族たちがいる場所にはすでにいくつか建物が並んでいる。かつては工房が建ち並ぶ区画だったが、半分以上は廃墟か全壊されたままだ。
森林区ほどでは無いにしろ外壁には苔がこびりつき、屋根には鳥の巣があったりと自然の中に建ち並ぶ小屋にしか見えない。そこに各々が得意なスキルのあるギルドをここに作ったようだ。
だが、人の気配は感じられない。ギルドマスターだけ、またはマスターだけがいないといったところか。
「シーニャがギルドマスターなのか?」
「そうなのだ!」
「でも旅に出かけることが多いからいなくなる……それが問題なのか?」
「ウニャッ!」
イデアベルクは人間よりも獣の方が多い。ギルドと言ってもピンと来ないのかもしれないが、どうするべきか。小屋や工房は人の出入りが無いと老朽化しやすい。だからといっていつも常駐出来るとは限らないわけだが。
「ヌシさまはここをどうしたいのニャ?」
「そうだニャ!」
「聞かせて欲しいニャ!!」
ネコ族の勢いがありすぎて圧倒されそうだ。シーニャや他の獣人は、やや大人しいようでなかなか厳しい。
そう言えばネコ族と言えば、ギルドのことは確か彼女に任せていた気がする。ミルシェ以上に彼女とは連絡がつきにくいが、今はどこにいるのか。
「アック様~! 奥に来てくださ~い!! 大漁ですよ!」
「――ん?」
どこに行ったかと思えば、ルティはギルド街の奥の方に移動していた。しかも楽しそうに何かをしているらしい。
「ドワーフもいたのだ? シーニャはそれどころじゃないのに、何をしているのだ?」
「ルティのことだからあまり期待は出来ないが、シーニャもついて来るか?」
「ウニャ! もちろんなのだ!!」
ギルド街の問題解決に結びつくかは不明だが、ルティがいる所に向かうことにした。