「――てぇいやあぁぁぁぁ!!」
シーニャを連れてルティがいる所に向かうと、何やら威勢のいい声が聞こえてくる。ギルド街の奥は海崖《かいがい》に面している区画で、あまり用事が出来ない場所だ。
いくら海が見えるからといっても安全ではないはずなんだが。
「盛り上がったモノが見えるのだ! あれは何なのだ?」
「魚……に見えるな」
「ウウニャ……」
虎人族であるシーニャは魚よりも肉が好きなこともあってか、あまり嬉しそうじゃなさそう。魚の山ということは、ルティが釣りを楽しんでいるということか。
「あ~!? 逃したぁ~!!」
魚を次々と釣り上げては釣り逃がしたりと、随分と騒がしい。そんなルティの傍らで指導しながら見守る見覚えのあるネコがいた。
「惜しいニャ。なかなかいいセン行っているニャ! これならアックに次ぐスキルを~」
「やはりシャトンだったか。もしかしなくても、ここが釣りギルド?」
シャトンという名の釣りギルドマスター。東アファーデ湖村からの付き合いで、再建にも協力してくれている優秀なネコ族だ。
「よく来てくれたニャ! その通りニャ! そんなことより、アック! この娘は筋がいいニャ! 新たなメンバーに加えてもいいかニャ?」
釣りギルドでスキルがつくとどこででも釣りが出来る――だったか?
料理と錬金術をするルティなら身に着けておいても良さそうだ。
「それは構わない。ところでシャトン。確か他のギルドのことも任せていたはずだけど、どうなっているのかな?」
「フンフン? それならとっくに出来上がっているはずニャ! 見なかったかニャ?」
「確かに建物は出来ているが……人材確保が出来てない」
「それはアックがやるしかないニャ! アックの言うことなら聞くはずニャ」
なるほど。ある程度のことはすでにやってくれていたらしい。それでもギルドを運営していくのだけは、頼るなということのようだ。
「アック、どうするのだ? ドワーフは魚釣りに夢中で役に立ちそうにないのだ」
「とりあえず戻ろう。そこで話し合いをするしか無いと思う」
「面倒なのだ。アックの国ならもっと簡単にやって欲しいのだ! ウニャッ」
シーニャの言うことはもっともなことだ。ギルドといっても他の国とは勝手が違うのだから、好き勝手にやらせても問題は起きないはず。
「シーニャの言う通りだな。おれが何とかまとめるから、心配しなくてもいいぞ」
「ウニャ!」
釣りに夢中なルティを置いて、シーニャとギルド街まで戻って来た。しかしどういうわけか、溢れかえっていたネコ族や獣人たちの姿がどこにもなくなっていた。
「ウニャニャニャ!? だ、誰もいないのだ? どこに消えたのだ……」
「もしかして何かあったか?」
ここを離れたのは少しの間だったのに、すっかり静まり返っている。脅威となる魔物は全て排除済みなのだが、一体どうなっているのか。
「静かになったならいいのだ。アック! シーニャのギルドに入って欲しいのだ!」
「――入ってって……」
「こっちなのだ。狩りをするギルドは、ここの小屋の後ろにあるのだ!」
そういってシーニャがおれの手を引っ張っている。
「あぁ、建物に入れって意味か。それじゃ、案内してもらおうかな」
人気《ひとけ》が無くなってしまったことに疑問がわくが、まずは落ち着くことにする。おれはシーニャに手を引かれ、奥まった所にある虎模様の建物に着いた。
「シーニャの砦なのだ! ウニャッ!」
「うん、いいんじゃないか?」
ギルドと書かれた木板が打ち付けられているが、外観だけは確かにシーニャの専用砦のようだ。扉を開けて中に入ると、そこには内装作業をしている獣人たちでいっぱいだった。
何故か獣人娘ばかりで男は見当たらないが。
「ウニャ、順調なのだ!」
「シーニャはここをどういうギルドにするんだ? 見たところ男はいないけど……」
「男はアックだけでいいのだ。強い男じゃないと狩りなんて出来ないのだ!」
何やら条件が厳しそうなギルドのようだ。これだと確かに留守にしてしまうのは勿体無い気がしないでもない。作業している獣人娘をギルドに入れてしまえば解決しそうだが――。
「邪魔! どいたどいた!!」
落ち着くどころか邪魔になっているようだ。とりあえず外に出ようとすると、誰かが扉を開けてくる。
「入りますわよ、シーニャ!」
「ウニャ? 何の用なのだ!」
「――って、ミルシェじゃないか!」
「ええ、そうですわ。アックさま」
「君を探していたんだが、ここへはどうして?」
ミルシェは、まるでどこかの現場担当者のような姿をしている。おれたちが留守の間にまとめ役として動いていたのだろうか。
「あたしはアックさまの為に働いているに過ぎませんわ。あなたさまこそ、何故ここへ?」
「ここへはシーニャの――」
「アックは狩りギルドに入りに来たのだ!! お前は呼んでないのだ!!」
「……アックさま。こんな所で遊び歩いているなら、人間たちを何とかして欲しいのですけれど?」
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