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『僕、日常組辞めます』
その言葉が聞こえた瞬間に、反応することができなかった。
「……え」
蚊の鳴くような声が喉から出た。
「な、なんで、?なんで急、に?」
俺の声が、たどたどしくなる。
『…ごめんなさい』
しにがみくんは小さい声で謝ってきた。
脳の処理が追いつかない。そんな俺に、追い打ちをかける者がいた。
……2人。
『……実は、俺もそう言おうとしてた、今日』
またまた言いにくそうな声でそう言ったのは、日常組のリーダー、クロノアさんだった。
そして、
『……俺も、ごめん』
と、トラゾーもアイコンをチカチカさせた。
「…は、ちょ、ちょっと待って、みんな急になに、?」
ドッキリか、と困惑する俺に、皆は少し黙ってから、クロノアさんが声を出した。
『…この前、お偉いさんが来るコンサートに出ませんか、ってお誘いが来て』
『お偉いさんの前で失敗はできないと思って、日常組を脱退してクラリネットに集中したくて…さ、笑』
そんなことを彼は言った。
「…日常組よりも、クラリネットを優先するんですか、」
『…日常組ももちろん大事だけど、俺は、とりあえずクラリネットに集中したいんだ』
……そんな。
言葉がでない。
『……僕、は』
続けて、しにがみくんが口を開いた。
『僕は、とあるゲーム会社からのお誘いで、』
『ゲームクリエイターにならないかと言われました』
『日常組の活動も楽しいんですけど…僕はやっぱり……』
そこで言葉が区切れた。
「…トラゾー、は? 」
俺は最後に残ったトラゾーを促した。何となく予想はついている。
『…そろそろ、子供が欲しいなって、俺も奥さんも思ってて』
『子供のために、別の仕事を探したいんだ』
……みんな、そう言った。
「…日常組の、」
気づけば俺は口を開いていた。
「お前らの日常組への熱意、って…それだけだったのかよ、」
顔が見えなくてよかった、と思った。多分俺は泣いていた。
「クロノアさんも、日常組の活動と両立すればいいただろ、」
「しにがみも、日常組でゲームクリエイター出来てんじゃんよ、」
「…トラゾーさんだつて、子供のことが落ち着くまで休んで、戻ってきたらいいじゃんか」
いつも見ている画面が、違って見える。視界が潤んで歪んでいるからかもしれない。
「…お前らが、そんなこと言うなら、もう俺は知らない」
「13周年も、俺一人で祝うから」
「…今までありがとな」
俺は呟いて、doscordを抜けた。
そのままパソコンの画面を閉じて、俺は泣いた。
しばらく経ったあと、俺はふっと顔を上げた。
……嫌だった。
こんな、こんな形で、日常組が終わるなんて。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、
俺は決意した。
絶対、日常組は終わらせないと。