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まあ結局、迷子だったわけだけど、ヒカリが来てくれたことで、一件落着かな……と、遠目で見ながら思った。久しぶりに見る光景に、何だか心がじんとくる。あまりにも、つかれすぎているせいか、そういうこれまで当たり前だった光景を見ても、感動してしまうんだな、と感じていた。
「エトワール」
「え、あ、何?何?アルベド」
「いーや。ちょっとばかし、思い出したことがあってな」
「な、何?」
後ろから、肩を組まれたかと思いきや、アルベドは、ヒカリやあの双子を見ながら、何処か遠くを見るように、話し出した。
何の脈絡もないし、何を言おうとしているのか、今回ばかりは分からなくて、きょどってしまえば、アルベドはくすくすと笑った。
「何よ、笑わないで」
「そんな顔出来るだけ、まだお前は、壊れちゃいねえなって思ってな。まあ、んなことがいいてえんじゃなくて、協力者って必要だとは思わねえか」
「でも、皇帝陛下に立ち向かうような、貴族っているの?」
それって自殺行為じゃない。と、私が、彼に冷ややかな目を向ければ、アルベドは、その通りだと首を縦に振る。
確かに、協力者は必要というか、協力してくれる人がいればイイし、かといって、その人達が集まったとしても、エトワール・ヴィアラッテアを倒せるかどうかも……
(ううん、倒すのが目的じゃないんだと思う)
だからといって、話し合いが出来るような奴だとは思っていないし。何が良いのかなんて、さっぱり分からない。でも、協力者というか、理解者はいて欲しいっていう気持ちはあるし。
「その、心当たりがあるっていってんだよ」
「協力者の?でも、そんなことしてくれる人なんているわけ?」
「辺境伯」
「辺境伯?」
聞き慣れない単語……いや、この乙女ゲームの世界で聞いたことがなかった単語だったから驚いた。どんな階級の人かも理解しているし、いるのかも知れないって言うのは何となく分かるんだけど、でも、存在自体を知らなかったから、アルベドの口からそんな言葉が飛び出しても、何て反応すれば良いか分からなかった。
ここに来てから、本来の乙女ゲームではかたられていなかった背景というかキャラが増えてきて、情報がない人間をどう信用するかも考えなければならないな、と思うようになってきた。
けれど、アルベドから与えられる情報は、信じてもいいかなとは思ったりもして。
「詳しく聞かせてよ」
「おっ、乗り気だな」
「乗り気というか、アンタが持っている情報って、確かなものだし、役に立つって理解しているからよ」
私がそう言えば、アルベドは、少し嬉しそうに口角を上げていた。思った以上に分かりやすい? 何て思ったけど、私の目も肥えてきたというか、アルベドを見てきたからこそ分かる、微妙な変化に気付けているだけかも知れない。
「俺の思想を知っていて、尚且つ、レイ公爵家と繋がりがある人間だ。口もかてえし、何より頭がきれる。皇帝派の人間じゃねえってことはまず確かだな」
「アンタと繋がりがあるって事は、闇魔法の貴族?」
普通は、そう考えてしまうものだろう。
だが、アルベドは、首を縦に振らなかった。もし、闇魔法の人間だったら、確かに、皇帝のやり方は嫌いだろうし、力を貸してくれるかも知れない。でも、私が欲しい協力者は、闇魔法の貴族じゃない。勿論、協力してくれるなら誰でも良いし、闇魔法でも、そういう偏見はないから良いんだけど。
「光魔法だ」
「え?」
「だから、光魔法の貴族だよ。お前が考えてることは何となく分かる。だから、そいつを名指しした。彼奴なら、な……」
「レイ公爵家……ううん、アンタってもしかして、顔広いわけ?」
いやいや、暗殺者だし、顔を知られていたらまずいんじゃない? とか、思いつつ、辺境伯はまさかの光魔法の貴族と言うことが判明した。いや、全然情報がまだないから、どんな人物かも分からない。でも、アルベドが言うんだから、きっと信用出来る人間なんだと。
(口かたいって言ってたわよね……)
そして、皇帝派の人間ではないと。
ならば、その人に会って、現状を伝える?
(其れができれば、簡単なんだけど……私のことを聖女って思ってくれるか分からないし……)
そもそも、もう聖女じゃないから、どういう理由で来て、何をして欲しいかってまとめられないんだけど。
でも、協力者になってくれるなら、心強いんだろうなとは思った。
「あいに……会いにいけたりするの?」
「まあ、多分な」
「多分って、何でよ。まあ、アポとってないからあれかもだけど……」
「ここから遠いんだよ」
と、アルベドは、面倒くさそうに言った。
その、あまりにも面倒くさい、見たいな言い方にカチンときて私は、足を踏みつける。これまでは、躊躇われた、攻略キャラに対しての攻撃が出来るようになったのも、距離が縮まったと言うことで。
アルベドは、いてえ、と顔を歪めがなら、私を睨み付ける。反射的に睨み付けられただけなので、私は別に怖くはなかった。いつもの痴話喧嘩……とまではいかないかもだけど、いつもの私達の会話だ。
「面倒くさいって、アンタ、私に協力してくれるんでしょ?」
「人使い荒らすぎんだろ」
「転移魔法使っていけば良いんじゃないの?」
それなら、簡単にいけるじゃん、と私は、名案でしょ? というように彼にいったが、アルベドは、それに納得しなかった。転移魔法は魔力を使うし、惜しいって考えも分からなくはないけれど、二人分だし、それに、私には、あまり時間も無いかもだし……
まあ、私の為に動いてくれる、下部じゃないって言うのも分かっているし、人を操るって、あまりいいことじゃないから、自分の意見が通らないこともあるって十分承知の上なんだけど。
「一つ忘れてんだろ」
「何をよ」
「光魔法と、闇魔法のことだよ。彼奴の領地は、バカみてえに、かてえ結界で守られてんだよ。それも、広範囲でだ。この意味分かるだろ?」
「近くにまでは行けるけど、後は歩かなきゃいけないってこと……よね。でも、近くまでは転移魔法でいけるんでしょ」
「まあ、そうだけどよ……」
乗り気じゃないというのは分かっていた。でも、移動手段は、転移魔法の方が良いのは、アルベドだって分かっている。何を渋っているかはよく分からないけど。
でも、言いたいことは何となく分かって、光魔法と闇魔法の反発の話をしているのだろう。光魔法の方が強い場合、闇魔法は威力を出せないとか何とか。
(じゃあ、その辺境伯って、凄い強いってことよね!?)
アルベドが頭が上がらない……いや、そこまでじゃなくても、あのアルベドが嫌がるってことは、かなりの強者と言うことだろう。これは、仲間にするしかない。
(でも、攻略キャラじゃないのよね……)
攻略キャラであろうがなかろうが、そこまで、変わらないかも知れないけれど。
「ちょっと、エトワール!」
「うわっ、何。今度はどうしたの?」
「今度はって、ずっと呼んでたんだけど?」
服を引っ張られて、ようやく、彼らに呼ばれていることに気づいた。ルクスもルフレも、ぷくっと頬を膨らませて私の方を見ている。かなり長い間、呼んでくれていたようで、なんで気づけなかったんだろう、と自分を恥じつつ、彼らに視線を向ける。
「聖女……エトワール様、お久しぶりです」
「あ、ああ、久しぶり、ヒカリ」
すると、そこまで黙っていたヒカリが私にぺこりと頭を下げ、心配そうに私を見つめてきた。彼女も私が置かれている状況とか、帝都であったことを理解しているからこそ、何て言葉をかければ良いか分からなかったんだろう。
私は、気まずくならないようにと、笑顔で受け答える。私の思いに気づいたのか、ヒカリは、暗い顔をしてはいけないと、笑顔を作った。彼女も色々あって、今の立場でいられるような存在だし、私の辛さというかそう言うのを理解してくれているんだろう。
「まず、エトワール様が、無事で良かったです」
「え、ああ、うん、まあ、色々あって。でも、大丈夫!」
空元気だなあ、と自分で気づきつつも取り繕うことしか出来なくて、笑えば、ヒカリは、言うか悩んだ末に言う、というように、口を開いた。
「リュシオルさんが、心配していたので」
「リュシオルが?」
「はい、エトワール様は、今大丈夫かって……メイドをやめて、探しに行くともいっていたので」
と、ヒカリは、視線を逸らしたのち、目を伏せて、そう言いきった。