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#王子
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アイゼン様はゆっくりと身体を起こし、何度か瞬きをして状況を確かめるように辺りを見回した。
それから、まるで信じられない奇跡を目の当たりにしたかのような眼差しで
私の顔を真正面から見据えた。
「まさか……あれほど深く、安らかな眠りを得られるとは思っていなかった。……すごいな」
「ふふ、少しでもお役に立てたなら良かったです」
控えめに微笑んで返すと、彼はそこで初めて
自分の片手がまだ私の手の中に収まっていることに気づいたようだった。
小さく、息を呑む音が聞こえる。
「……ずっと、寄り添ってくれていたのか」
「はい。途中でお邪魔でしたら離れようと思ったのですが……あまりに気持ちよさそうに眠っていらしたので」
言い訳めいて聞こえないかと心配になりつつ口を開くと、アイゼン様は黙って首を横に振った。
「いや。礼を言う。そのおかげで、久しぶりに地獄から戻ってこれた気分だ」
それは、昨日までの虚勢や冷徹さとは違う
感情を抑えきれなくなった素の声だった。
握り合った手が不意に熱を帯びる。
「これから毎晩……そう何度も世話になるわけにはいかんだろうが、暫くはこうして、添い寝してくれると助かる」
アイゼン様の少し不器用な提案に、私は迷うことなく頷き返した。
「もちろんです。アイゼン様の顔色が、もっと良くなるまでは、ずっとお傍にいます。だから、いくらでも私を頼ってくださいね」
「……随分、前向きだな。今更だが……嫌じゃないのか?こっちから頼んだことと言えど、こんな俺の傍で寝るなんて」
「……えっ?」
突然の問いに、私は言葉を詰まらせた。
嫌か、嫌じゃないか。
そんなことを考える暇もないほど、私は夢中だったのだ。
「嫌なわけありません!あんなところで倒れていた人を見たときは本当に衝撃で…。私、実家では『出来損ない』と言われてばかりでしたけど、そんな私でも人を救えるんだって……それが、とても嬉しいんです!」
半ば本音が溢れた私の言葉に、アイゼン様が僅かに眉根を寄せた。
その瞳に、鋭い怒りのような色が過ぎる。
「──そうか。お前のような貴い力を持ちながら……お前を『出来損ない』と呼んだ者たちは、よほど目が眩んでいるんだな」
低い呟きには複雑な響きがあり
それは私に対する深い感謝と、隠しきれない情けが混ざり合ったようにも聞こえた。
私は少し恥ずかしくなって、ぺこりと頭を下げた。
「ふふっ、そんなふうに励ましてもらえるなんて光栄です。ありがとうございます」
私の言葉に、彼は安堵したように、そして愛おしむように目を細めてくれた。
そこには、民を統べる恐ろしい皇帝ではなく
ただ一人の少女の温もりに救われた、一人の人間の素顔があった。