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しばらくすると、列車は東京駅に到着した。
人混みに流されるように歩きながら、気づけば足は新居の方向へ向かっていた。
もう何度か来たはずなのに、構内の広さにも、人の多さにも、まだ慣れない。
電車を乗り継ぎ、芝公園で降りる。
駅を出ると、街の空気が少しだけ変わった。
新居までは、徒歩8分。
一階にアトリエのあるマンションを選んだ。
学生が住むような場所ではないことは分かっていたが、父と母は快く仕送りを決めてくれた。
鍵を開け、玄関を抜ける。
部屋の中には、まだ最低限の荷物しかなかった。
段ボールがいくつかと、ベッドと、机。
手に持っていた荷物を下ろし 歩夢はまた外へ出た。
向かう先は、もう決まっていた。
東京タワー。
理由ははっきりしない。
ただ、どうしても見たかった。
芝公園の街を歩きながら、歩夢は何度も視線を上げる。 建物の隙間から、赤と白の鉄骨が少しずつ姿を現す。
漠然とした東京への憧れ。
子どもの頃にきたようだがはっきりは覚えていない。
近づくにつれて、タワーは想像以上に大きく感じられる。
見上げると、首の奥が少し痛くなった。
歩夢は立ち止まり、その姿をじっと見つめた。
観光客が写真を撮り、誰かが笑い声を上げている。
それらの音が、遠くで混ざり合って聞こえた。
——ここに来たんだ。
そう思った瞬間、胸の奥が静かに満たされる。
特別なことは、何も起きない。
それでも、この景色を自分の足で見られたことが、これから何度も見られることが確かに嬉しかった。
歩夢はもう一度だけ東京タワーを見上げ、
ゆっくりと息を吐いた。
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橘靖竜
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