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新たな大学生活のことを考えながら、歩夢は少し西へ足を伸ばした。
講義のこと。
新しい友人のこと。
まだ何も始まっていないのに、胸の奥では期待だけが先に膨らんでいく。
東京タワーを眺めながら歩いていると、やがて視界の端に、大きな建物が入り込んできた。
最初は、ただの高いビルだと思った。
散策のついで、という気持ちで、そちらへ向かって歩き出す。
近づくにつれて、その高さに圧倒される。
首を上げても、てっぺんが見えない。
歩夢は立ち止まり、スマートフォンを取り出した。
地図アプリに表示された名前。
――麻布台ヒルズ。
観光客の波に自然と混ざり、そのまま中へ進んでいく。
視界が一気に開け、高級ブランド店が立ち並ぶ街並みが現れた。
ガラス張りの建物。
丁寧に整えられた植栽。
すれ違う人たちの服装も、どこか違って見える。
絵に描いたような家族連れ。
少し距離を置いて静かに見つめ合う容姿の整った男女。
歩夢は、自分の足元を一度だけ見下ろした。
ここにいていいのかどうか、分からなくなる。
それでも、なぜか足は止まらなかった。
都会の景色に圧倒されたまま、歩夢はその足で自宅へ戻った。
部屋に入ると、窓の外はすでに夕方の色に染まり始めていた。
建物の影が長く伸び、昼とは違う静けさが部屋に入り込んでくる。
オレンジがかった光が、床や壁をぼんやりと照らしている。
昼間に見た街のきらめきが、まだ頭の奥に残っていた。
上着を脱ぎ、鞄を床に置く。
ベッドに腰を下ろしたつもりが、そのまま体を倒していた。
天井を見上げる。
さっきまでの明るさが、少しずつ部屋から抜けていく。
東京タワー。
麻布台ヒルズ。
知らない街、知らない人たち。
考えがまとまらないまま、目を閉じる。
日が落ちきる前に、
歩夢はそのまま眠ってしまった