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「世界の真実を知れ」
その言葉が脳内をこだまする。まるで心臓の奥に刻まれた呪文のように、深く、深く染み渡っていく……
温かな日差しが瞼に差し込み、私はゆっくりと目を開けた。頭上には若葉の天幕がかかり、やわらかな風にサラサラと揺れている。木々の隙間から覗く空は、どこまでも澄んだ青。遠くからは小鳥のさえずりが響き、それはまるで平和の証そのものだった。
けれど、その美しさとは裏腹に、私の胸を占めたのは不安だった。
私は誰だ?
名を思い出そうとする。けれど、どれほど手を伸ばしても霧に包まれた記憶は掴めない。自分の姿も、年齢も、好きだったものすらも思い出せない。あるのは、ただ「ここにいる」という虚無感だけ。
風が吹き、木々がざわめいた。その音が、さっきまでの安らぎを脅かすように、心臓を握った。心を締め付けるのは、恐怖と孤独、ただそれだけ。
私は誰? これからどうすればいいの?
問いかけても答えはなく、まるで私一人だけが真っ白で、何もない空中に取り残されたような、感覚だった。
「どうしたらいいの……」
掠れた声が漏れた。幼く弱々しい声。その声は今にも消えてしまいそうだった。けれど、それを慰めてくれる存在はどこにもいない。自分で立ち上がるしかない。再び、あの孤独感が体をきつく蝕んだ。
助けて…!
そう思った時、再び心の奥に響いたのはあの言葉だった。
「世界の真実を知れ」
不思議な言葉。意味も、意図も、なぜ聞こえるのかすらもわからない。それでも、なぜか懐かしく感じてしまう、そんな言葉。
その言葉は、蝕まれていた体を溶かすように、温かく、優しく浸透した。私を前に進ませるその力は、まるで使命のように、暗闇を照らす小さな灯火のように輝いていた。
「……行かなくちゃ」
私はゆっくりと立ち上がった。揺れる木々の隙間から広がる青空に手を伸ばす。その澄み渡る青を見つめていると、胸に渦巻いていた不安は少しずつ形を変え、恐怖から期待へと変わっていく。
名前も、姿も、年齢も、好きなものも、何一つ思い出せない私。
けれど、確かにここから新たな冒険が始まろうとしていた。
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