テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

康二の病室を後にした深澤は、他のメンバーとも別れ、一人、溜め息をついた。今日の出来事が、まるでスローモーションのように頭の中を駆け巡る。熱で苦しむ康二の顔と、怒りに満ちた目黒の顔。そして、涙を堪える康二の姿。
(どっちの気持ちも、わからんでもねぇんだよな…)


ポケットを探ってスマホを取り出した、その時だった。画面が光り、着信を知らせる。そこに表示された名前に、深澤は思わず眉をひそめた。


『目黒 蓮』


噂をすれば、だ。意外にも、あいつからかけてくるとは。深澤は一瞬の驚きを悟られないよう、ひとつ咳払いをしてから、わざと少し低い声で通話ボタンを押した。


「…もしもし」

『…ふっかさん、お疲れ様です。今、大丈夫ですか』


電話の向こうから聞こえてきたのは、いつもの落ち着いたトーンとは程遠い、硬く、そして微かに震えているような目黒の声だった。


「おー、お疲れ。どうした?」

『…あの、康二、大丈夫でした?』


やはり、その用件か。深澤は、今日の康二の姿を思い出し、少しだけ冷たい声色で返した。


「良かったわ。もう康二のことなんて、どうでもいいって思ってるのかと思ってた」


チクリと棘を含んだ言葉に、電話の向こうで目黒が息を呑むのがわかった。


『…違うんですよ…』


目黒は、かき消えそうな声で否定した。


『楽屋を出る時…康二が、泣きそうな顔してるの、わかってたんです。わかってて、俺…あんな酷いこと言って、出てきてしまって…』


その声は、明らかに後悔の色を滲ませていた。言葉の端々が震え、今にも泣き出してしまいそうな、そんな危うさを孕んでいる。


『ごめんなさい…俺が泣いていいなんて、思ってないんですけど…っ、でも、どうしたら…』


何度も「ごめんなさい」と繰り返す声は、もうほとんど懇願に近かった。


深澤は、耳を疑った。てっきり、「康二は入院して大丈夫なんですか?」とか、「怒らせてしまったんですけど、どうしたらいいですかね?」といった、もう少し冷静な相談だと思っていた。だが、電話の向こうの目黒は、ただひたすらに自分の不甲斐なさを責め、後悔に打ちひしがれている。


(あ、こいつ…泣くほど後悔してたんだ)


その事実に、深澤は今日二度目の大きな驚きを感じた。普段はポーカーフェイスで、あまり感情を表に出さない後輩の、知らなかった一面。そして、その不器用な優しさに、呆れと同時に、どうしようもない愛おしさが込み上げてくる。


深澤は少しだけ天井を仰いで、それから決心したように口を開いた。


「…目黒、今時間あるか?」

『え…?あ、はい。一応…』

「じゃあ、飯奢ってやる。今からいつもの居酒屋に来い」

『え、でも…』

「いいから、来い。話はそこで聞いてやる」


それだけを一方的に告げると、深澤は目黒の返事を待たずに通話を終了した。スマホをポケットにしまいながら、小さく苦笑する。


「ほんっと、手のかかる後輩だよ、お前らは」


夜の空気を吸い込みながら、深澤は馴染みの店の暖簾へと足を向けた。弟たちのために、今夜は兄貴がひと肌脱いでやるか。そんなことを考えながら。

loading

この作品はいかがでしたか?

153

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚