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こんにちは!こうちゃです。
第3話になります。 注意事項は第1話をご覧下さい!
カークランド家の過去が大変暗くなっちゃいました…兄弟同士での暴力表現あるので注意です!!私の作品は🇬🇧が不幸体質になりがちです…でもその不幸をかき消すほどに包容力ある🇫🇷がいるのでご安心ください(?)今回も楽しんで貰えたら嬉しいです✨️
「案外早かったね、雨大丈夫だった?」
「……アーサーは?」
「もー、ちょっとは俺と話してよね」
入ってと声をかけると律儀に靴を揃えて家に上がる。案外真面目な男なのだ、スコットは。部屋に入ると彼はその手に握られていたビニール袋を机の上に置いた。
「……ゼリーと冷えピタ…あとポトフの材料で良かったか?」
「うん、ありがと〜そこ置いといて」
「……熱は」
「それが40あってさー…スコット何か知ってる?」
頭のいい彼のことだから俺が言わんとすることを理解したんだろう。バツが悪そうにそっぽを向いたスコットに苦笑しつつ言葉を待つ。
「……昨日、揉めたんだ」
「揉めた…?なにで?」
「……俺たちのところに来いって言った」
「はぁ!?」
思わず出てしまった俺の大声にスコットは不機嫌そうに顔を歪める。
「来いって…アーサーの学校はどうすんのよ」
「……あいつ今3年だろ。都心の高校を受験させる。」
「……それ、坊ちゃん嫌がるでしょ」
図星だったのだろう。スコットの眉間にますます皺がよる。
「はぁ…そもそもなんて言って誘ったの」
「……お前はここにいるべきじゃない。都心の高校受験して俺らと住め…って言った」
「あのねぇ…そんな言い方して坊ちゃんがはいそうしますって言うと思う?」
「……言ったぞ、あいつ」
「でもそれ絶対本心じゃないってスコットだってわかってるでしょ…? お前が心配の一言でも言ったらどう?」
「…チッ……どんな言い方しようがあいつはこっちに来るって言うだろうが。いつまでもビクビクしやがって…」
スコットたちとアーサーの仲が良くないのには 血は繋がっていないことに加えていくつかの複雑な事情がある。聞くにアーサーは彼らの母親と不倫相手との子だったそうだ。もちろん父親と母親は離婚したが、アーサーをどちらが引き取るか大変揉めたらしい。元々夫婦仲がそこまで良くなかった2人は大喧嘩の末、今後母親は一切カークランド家に関わらないという約束の元、父親がアーサーを引き取った。幼い頃はまだ良かったようだが、問題はアーサーが小学生になった頃からだった。父親からの暴力が少しずつ酷くなり、兄達とアーサーが仲良くすることを許さなかった。具体的には兄達にアーサーを殴るよう指示したり、アーサーを気にかけるような真似をすれば連帯責任で全員殴られたらしい。両親は共働きでほとんど家にいなかったが、愛情たっぷりに育てられたお兄さんからしたらとても考えられないことだけれど、現にアーサーは今も…特にスコットを前にすると恐怖で体が動かなくなってしまうのだ。
「……スコット」
傷ついたような顔をするスコットの背中を軽く押してアーサーのそばに連れていく。
「ちゃんとアーサーなりに受け止めようと頑張ってるんだよ。頑張ってるけど、少し、時間がかかるんだ。」
スコットはしばらく俺とアーサーの顔を見比べたあと、そっとアーサーの頬に触れた。
「……高いな」
そう呟いて顔を歪めるスコットはまさしく兄そのもので、アーサーの前でもその優しい顔をすればいいのにと思う。兄弟揃って意地っ張りだから難しいんだろうけど。
「……フランシス。こいつを頼む 」
「……んっ!?」
そう言って立ち去ろうとするスコットを慌てて引き止める。
「え、もう帰るの?てっきりスコットも泊まってくかと思ってたんだけど…」
「……こいつの気が休まらんだろ」
「でも……」
「……こいつが元気になってからもう一度話をする。だから心配するな。……あぁ、そうだ、これ。」
別に心配してた訳じゃないけどと思いつつ話を聞いていると手のひらに何かを握らされた。
「……ん…?…はっ!?」
「受け取れ」
「いやいやいや…!?こんな大金受け取れないってば!!」
「…お前には愚弟が世話になっている。食費やタクシー代だ。」
「…なんでタクシー乗ったことバレてんの…」
「雨が降ってるから、お前ならそうするだろう。」
見透かされたことに苦情しつつ、スコットの気遣いに感謝する。 最初は突き返そうとしたけれど、正直ありがたい。この坊ちゃんはよく食べるし、よく体調を崩すので意外と出費が多いのだ。それにスコットはプライドが服を着て歩いたような男だ。俺が受け取るまで頑としてここを動かないだろう。
「メルシー…受け取っておくよ」
「……そうしろ」
スコットは満足そうに笑ったあと俺の頭に手を乗せてかき混ぜる。
「うわ、ちょっとぉ…!?ヘアセットが崩れちゃうじゃん!!」
「ふん、お前にはそっちの方が似合いだ。 じゃーな」
かき乱すだけかき乱してさっさと帰ってしまったスコットへの怒りも程々に、ポトフを作るかぁとビニール袋から材料を取りだした。
どうして、おれは殴られてるんだろう。
「…す…こ兄……ごめん、なさっ…」
「……黙れ」
きっとおれが生まれてきちゃいけなかったのに生まれてきたせいかなぁ。だからスコ兄はこんなに悲しい顔をしてるのかなぁ。
「……ウェールズ、今日はお前が殴れ 」
「……ぇ…」
「なんだ、父親の言うことが聞けないのか?」
「……いえ…そんな…ことは……」
ウェールズがゆっくりとおれを見る。なんだろう?遊んでくれるのかな?
「……ウェールズ…?」
不思議に思って手を伸ばすとパンッと鈍い音がした。
「……っ…!?」
ジンジンと痛みを主張する手を驚いて見つめていると今度は頬に鋭い痛みが走る。
「……ぁうっ…」
なんで、どうして…ウェールズは今まで俺を殴ったことが無かったのに。
「…うぇ…るず…?」
ウェールズの顔を見上げるとぽたり、と俺の頬になにか冷たくて悲しいものが落ちてきた。辛そうなウェールズの顔が見ていられなくてそっとその頬に手を伸ばす。
「……っ…うあああああ…!!!」
聞いた事のないウェールズの絶叫が耳に木霊する。直後、頭に酷い痛みが走り息ができなくなる。怖い。痛い。苦しい。
「…っウェールズ!!」
スコ兄が慌てて駆け寄ってくるのを見たあと、おれは意識を手放した。