「なんじゃこりゃああああぁああぁっ!!」
翌朝、私は巨大なベッドの中で目覚め、お手洗いに行こうと思って起き上がろうとし、妙な痣だらけになった自分の体を見下ろして悲鳴を上げた。
全身のあちこちに赤い痕だらけになっていて、何かの病気になってしまったんじゃないだろうか。
真っ青になった私は、慌ててスマホに手を伸ばして【肌 赤い斑点 大量 いきなり】と震える手で打ち込んだ。
――と、ゆったりとした足音が聞こえ、「どうしたの?」と涼さんが現れた。
どうやら彼は朝食の仕込みをしていたらしく、白Tにグレーのスウェットの上に、黒いエプロンをつけている。
髪はまだ整える前らしく、スポーツメーカーのヘアバンドで無造作に留めていて、不覚にも「格好いい」と思ってしまった。
「……なんか、某|刑事《デカ》の殉職シーンみたいな声が聞こえたけど……」
有名刑事ドラマの有名シーンを出され、リアタイで見た事はないけど、その叫び声は今でもネタとして使われる事があるから、私でも知っている。
……というか、無意識にそんな叫び声を上げてしまっていたのか。
「結構古いっすね」
「父がよくネタで使うんだよ」
「っていうか、見てくださいよ! これ! ……何の病気だろう……。あっ、うつったら困るから、近づかないで!」
私は涼さんに腕を見せながら言い、途中でハッと気づいてモソモソとベッドの上を移動する。
すると、涼さんはポカンとして顔をして言った。
「病気って……。それ、俺が昨日丹念にこさえたキスマークだけど」
「へっ!? キスマーク!? これが!? 痣じゃん!」
なんか……、赤っていうか、紅色っていうか、ヒルでもついてるんじゃないかっていう痕が転々とついてて……。
「本当にキスマーク? 病気じゃない?」
「生産者は私です」
「農家さんか」
私は思わず涼さんに突っ込みを入れ、深い溜め息をつく。
「目立たない所にって言ったじゃないですか」
「職場で困るような、分かりやすい所にはつけてないつもりだよ」
そう言われ、私は深い溜め息をつく。
「だからって……、服で隠れるからって……、耳なし芳一逆バージョンか!」
私は心からの突っ込みを入れ、コロンと横に倒れた。
知らんけど、寝ている間にお股は綺麗に拭かれ、パンツを穿かされてキャミソールを着せられている。悔しい。恥ずかしい。許さん。
「はぁ……、メイク落としてなかった……」
起き上がりつつ、昨晩からの流れを思い出して溜め息をつくと、涼さんはニコニコして言った。
「クレド・ポー・ボーテのメイク落としシートで丹念に拭っておいたよ。あとは恵ちゃんのもちもちお肌を堪能しながら、フェイスケアさせていただきました」
「…………塗ったくられながら爆睡してたとか…………」
私は自分の危機感のなさに、ふかーい溜め息をつく。
「キスマーク|刑事《デカ》、お腹は空いてる?」
「やめてくださいよ、その呼び方。むしろつけたほうが妖怪キスマークなんじゃないですか?」
「妖怪キスマークは、中国風のお粥とフォーの希望を聞きに来たんだけど」
「ぐっ……、…………どっちも美味しそう……」
私はしばし、ベッドの上で胡座をかいたまま悩み、困った顔で涼さんを見て答える。
「ハーフ&ハーフ」
「OK。着替えておいで」
涼さんはニコッと笑ってから、静かにベッドルームを出て行った。
朝の身支度を終えて、適当な服を着てキッチンに向かうと、テーブルにはホカホカのお粥の上に葱と鶏肉がのったお粥がある。
その隣の小さめの丼には、丁寧にもフレッシュパクチーがのったフォーがあった。
「美味しそう……」
クルクルとお腹を鳴らした私は、今にも涎を垂らしそうな勢いでご飯を見つめ、ストンと席に座る。
「炭水化物多めだから、寄せ豆腐の冷や奴とサラダもね」
冷や奴の上にはオクラとしらす、刻んだ梅干しとごまがのっている。
サラダも具だくさんのコブサラダで、細かく切ったサラダチキンと半熟のゆで卵、アボカド、フルーツトマトがのっている。
「ヘルシーだけど、結構ガッツリですね。美味しそうですけど」
「恵ちゃんが食べてくれると思うと、嬉しくて張り切っちゃった」
「新妻か!」
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