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「ハニー、ご飯にする? お風呂にする? それとも……俺?」
ノリノリになった涼さんが声優みたいなイケボで言うものだから、突っ込む気力も失って、項垂れてしまった。
「……あれ? ウケなかった?」
彼はクスクス笑いながら「いただきます」を言う。
「……スーパー御曹司が、思っていた以上に愉快な人で、戸惑ってるだけです」
溜め息混じりに答えた私も「いただきます」を言ったあと、フォーのスープを蓮華で飲む。
牛肉のお出汁がきいたそれを飲んで、ホッと息を吐いたあと、私はパクパクとご飯を食べていく。
「俺としても、自分の新たな一面に驚いてばっかりだけどね」
彼がそう言うので、私は「ん?」と目を見開く。
「俺、前にも言ったけど、かなり各方面に塩対応だったんだよ。尊とかには冗談を言ったり明るく振る舞う事もあったけど、女性に対してこんなふうにノリノリで接するなんてなかった。……自分でも『なんだ、この浮かれ男は』って思うけど、それぐらい恵ちゃんといると楽しいし、笑わせたいって思うし、自分の知らない自分がどんどん出てくるんだ」
照れくさそうに言われ、私は少し赤面して「そっすか」と頷く。
「……昨晩、恵ちゃんが甘えてくれたのも、俺を特別視しているからって思いたい。……流されたんだとしても、俺はそう思っておくからね」
昨晩の事を思いだしてトロンとした目をする涼さんを見て、私はギョッとする。
そして自分が口にしたであろう世迷い言を思い出し、一気に真っ赤になった。
「あ……っ、あれは……っ、……ぎゅっ……、ぎゅう……、『牛がいい』……と思ったんですよ。牛ですよ牛、牛肉!」
真っ赤になってまくしたてると、涼さんは横を向いて大笑いし始めた。
「どんな照れ隠しなの! しかもエッチの最中に『牛がいい』って……っ! あはははは! ……お望みなら、お昼でも夜でも、牛肉を用意するけど」
涼さんはヒイヒイ笑っていて、私は真っ赤になったままむっつりと黙り、お粥を食べている。美味い。
「こんな毎日なら、結婚しても楽しいだろうね」
彼に言われ、私は鼻から冷や奴を出しそうになる。
「むぷんっ」
「佳苗さんからは一年って言われたから、それはちゃんと守るけど。一年経ったあとは、結婚に向かってグイグイ進めていくからね」
「……そ、その前に嫌いにならなかったら……ですけど」
モソモソと言うと、彼は呆れたように眉を上げた。
「こんなに俺がベタ惚れになっているのに、まだ君は愛されている実感がないみたいだね」
言いながら、涼さんは脚を伸ばして私の足をムニ……と踏んできた。
「……まぁ、仕方ないか。今まで恵ちゃんは俺みたいにだだ甘やかす存在がいなかった訳だし、いきなり『自分は愛されている存在と思って』って言っても、突然には無理だよね」
そう言われ、私はちょっと申し訳なさを覚える。
けれど朝の光を浴びた美貌の御曹司は、私を見て小首を傾げ、とろけるような表情で笑った。
「そんな恵ちゃんを、俺だけが甘やかして、俺だけに甘えるようにできるって、物凄いご褒美だね? あ~……、やり甲斐ある」
涼さんは幸せそうに言い、機嫌良くサラダを食べていく。
「……涼さん、ポジティブモンスターって言われません?」
「そう? ……まぁ……、そうかもね? だって『できなかったらどうしよう』って悩むより、『どうやって可能にするか』考えたほうがワクワクするでしょ。自分が今まで身につけた人脈、権力、金の力にものを言わせて、絶対に懐かない猫ちゃんをデレデレにさせる事を思うと、もう……、楽しみとしか言いようがないね」
「ヒッ……」
私はうっとりとした彼の微笑みを見て、ゾワリと鳥肌を立たせる。
そんな私を見て、涼さんはニヤリと笑った。
「言っておくけど、逃げようと思ってももう逃がしてあげられないからね? 一人暮らししていた家っていう退路は断ったし、実家の位置も把握済み、佳苗さんは掌握済み、朱里ちゃんとも仲よくなったし、…………諦めてね?」
私は毛を逆立てて硬直する猫よろしく、固まって涼さんを凝視する。
「怯えさせて悪いけど、愛が重い自覚はあるから、負担にならないように適度に軽くする努力はするよ。恵ちゃんの自由時間も尊重するし、朱里ちゃんやその他の友達との時間もね」
「……ど、どうも……」
「でも、男友達もいる場に遊びに行くなら、多少は姿を現してアピールしないとだけどね」
笑顔が……、怖い……。
私はタラタラと冷や汗を流しながら、お粥を食べる。
猫たちの遊び場にいきなりライオンが現れたら、皆ビビってちりぢりになっていくだろう。
「そういえば、昨晩の事だけど」
涼さんは話題を変える。