テラーノベル
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跳ねるようなサックスと、それを賑やかに受け止める軽快なシンバルの音。テーブルの周りには人が集まっている。ディーラーは彼らにカードを配り、機械のように同じ言葉を繰り返し読み上げた。サックスは何度か同じフレーズをなぞり、シンバルはそれを正確に追い続けていた。一瞬、時間が止まったような気がしたのは、同じ調律を刻んでいたディーラーの声が少し上ずったからだろうか。そこに笑っている人間は1人だけだった。彼は卓に置かれたチップを自分の懐にしまい、次の卓へ移動する。残りのチップを握りしめた男もまた別の卓へ移動する。何も得やしない彼らの背中が人混みに混ざっていくのを見ていると、ふつふつと苛立ちが湧いていく。僕はカジノをしに来たわけじゃない。一つの言いつけを守って、人を待っているだけなのだ。彼らを軽蔑するようにワインを口に含む。「ボルドー左岸寄りってとこか。こんなところで飲むにはもったいない。」持っていたグラスから少し視線を逸らすと、異様にシルエットの低い男が僕を見つめている気がした。慌てて視線をグラスに戻す。そこに映っているのは僕で、少し歪み始めていて、陽気な音楽は今も調子を変えずに鳴り続けている。