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百鬼清風
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#イケメン
高遠すばる
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#初小説
鬼卍。
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アーサーは学園への襲撃について国王に直訴するため、父親のセドリックを伴って王宮を訪れた。
通された私室で向かいに座るヘンリー・ヴァレンティスは、エルデン王国を治める国王で、王太子エドワードの父だった。
案内した侍従は既に下がり、部屋には三人しかいない。ヘンリーは挨拶を終えると、アーサーへ話すよう促す。
「君が直接来たいと言うからには、学園で起きたことに関わる話だろう。聞かせてほしい」
「陛下。灰狼傭兵団の襲撃には、エドワード殿下が関わっていると疑っております。このままにはできません」
マチルダがまた狙われてからでは遅い。エドワードが関わっているなら、国王に止めさせる必要があった。
「殿下の周囲では、私達への加害行為が繰り返されてきました。今度は脱獄した傭兵達が学園へ来て、私とマチルダを狙った。無関係とは思えません」
「あの者達を牢から出したのが、エドワードだと言うのか」
「その可能性があります。殿下が命じたのであれば、相応の処分を求めます。ナイジェルの件とは違います。今回は学園そのものが襲われたのです。私達だけでなく、他家の子息まで命を落としかねなかった。陛下、今度ばかりは看過していただくわけにはまいりません」
ヘンリーはしばらく答えず、膝に置いていた両手を重ねた。
「本人が関わったと示せるものはあるか」
「ありません」
「傭兵は全員、エドワードに命じられたとは証言しなかった」
「確かに。傭兵団への取り調べには関われませんでしたので、陛下の言葉を信じるしかありません。今回の襲撃については、私の推測の域を出ません」
アーサーはヘンリーから目を逸らさず、返答を待った。疑う理由はいくつもある。だが、王太子の命令を示せるものはなかった。引き渡した傭兵団の証言を知ることも出来ない。
「君達や学園の生徒が危険にさらされたことは、軽くは思っていない。しかし、この話だけでエドワードを主犯と決めるわけにはいかない」
アーサーは膝の上で揃えていた手をほどいた。
「証拠がない以上、処分の要求は取り下げます。ですが、これ以上の加害行為まで許すつもりはありません」
処分を求める話はここまでだ。アーサーは追及をやめたが、王太子に何もさせないという約束は、まだ得られていなかった。
ヘンリーが椅子から立つのを見て、アーサーも立ち上がった。隣でセドリックが腰を上げる。
アーサーは国王の次の言葉を待った。ヘンリーはテーブルを回り、二人の前へ来た。
「エドワードが君達にしてきた非礼については、私から詫びる。息子を止められず、君達に何度も苦痛を与えた。すまなかった」
そう言って、ヘンリーは膝をついて深々と頭を下げた。
セドリックが一歩近づいたが、アーサーは父親を制止して、謝罪を受けた。
詫びているのは、マチルダに手を出した本人ではない。国王が頭を下げても、学園に戻れば王太子はまた妹の近くにいる。それを何とかしなければ、ここへ来た意味がなかった。
「陛下、お顔をお上げください」
ヘンリーが顔を上げるのを待ち、アーサーは言葉を続けた。
「謝罪をいただいても、妹の安全は守れません。殿下を止めて下さい。王太子だからといって、マチルダに危害を加えるのは、許すことはできません」
「私から、改めて厳しく言い聞かせる」
「次に殿下が同じことをなさった時は、その命を保証できません」
アーサーはヘンリーを見据えた。妹が襲われるたびに、ここへ処分を願い出るつもりはない。次があれば自分で止める。その相手が王太子でも、変わらなかった。
「これは最後通告です。私がこの国の敵になることも、覚悟なさってください」
ヘンリーは何か言おうとしたが、すぐには声を出さなかった。その顔から血の気が引いていく。
アーサーは返答を待った。今の言葉を取り消す気はなかった。
「……承知した」
膝をついたまま、再び頭を下げてヘンリーが答えると、アーサーは一礼した。
「失礼いたします」
セドリックも頭を下げた。アーサーは扉へ向かい、廊下へ出る。セドリックが続き、背後で扉が閉まった。呼び止める声はなかった。
扉の閉まる音を聞いた途端、ヘンリーは立っていられなくなった。
テーブルの端をつかんだが、体を支えきれず、再び絨毯の上へ膝をつく。誰もいなくなった部屋で、荒い息を繰り返した。
アーサーは怒鳴らなかった。剣も魔法も使わず、最後まで礼儀正しく話した。それなのに、ヘンリーは今も扉から目を離せなかった。
その腰には、ソードウルフがあった。その意味を十分に理解している。
もし戻ってきて、先ほどの言葉を実行すると告げられたら。近衛を呼んで守らせても、自分もエドワードも助からない。
何より、彼は妹のためなら必ず実行する。
長く尽くしてきた王家に対して、あそこまで言わせてしまうとは。
傭兵団の何人かは、処刑前にエドワードの関与を白状していた。だが、次も同じように隠し通せるとは限らない。
ヘンリーは椅子の座面に手をつき、時間をかけて立ち上がった。腰を下ろして呼吸が落ち着くのを待つ。水差しから注いだ水を飲んでから、ようやく扉へ向かった。
廊下に控える侍従へ、エドワードをすぐに呼ぶよう命じた。
コメント
1件
うわ、重くて良い話だった…! アーサー、証拠がないのにあそこまで堂々と王太子を糾弾する度胸、そして「次は命を保証しない」と国王に最後通告するところ、震えたよ。ヘンリー王が膝をついて謝罪したのに、アーサーが「それでも妹は守れない」と引かないのも分かるし、王が一人残って震えるラストも切ない。立場と覚悟のぶつかり合い、すごく丁寧に描かれてた。続きが気になる!