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2 - 第2話 幼なじみとハムスター①

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2025年02月18日

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「妹んトコのハムスターが子供産んでさ、どうしても1匹だけ引き取り手が見つかんねーんだわ。結葉ゆいは、飼えたりしねぇ?」

大学を卒業して地元の縫製工場で事務員として働き始めた結葉ゆいはは、会社にも近いからという理由で実家に舞い戻って居候いそうろう生活をしていた。


大学時代一人暮らしを満喫させてもらった延長で、就職が決まった際にはどこかにアパートを借りようかと思っていた結葉ゆいはだったけれど、両親が「お家賃がもったいないし家に戻って来ればいいじゃない?」と言ってくれて。


元々の流されやすい性格も手伝って、「じゃあそうさせてもらおっかな」みたいな感じで、生家に舞い戻ってしまった。


親は「親子なんだし気にしなくていい」と言ってくれたけれど、一応社会人になったケジメとして、毎月少しずつ家にお金を入れさせてもらうようにはしている。



そんな結葉ゆいはの実家の左隣には、従業員数20名ほどの小さな建設会社があって。

自宅兼事務所になった大きなその建物には、結葉ゆいはより3歳年上の幼なじみ、山波やまなみ そうが住んでいた。


180センチを超える長身に、一重まぶたに三白眼の鋭い目つき。

高校生の頃から髪の毛をベージュとブラウンのダブルカラーに染めたツーブロックにしていた彼は、見た目と喋り方が怖くて誤解されがちだけど、実際は不器用なだけでとても優しいお兄ちゃん気質だ。


一人っ子の結葉ゆいはを、彼の5つ下の実妹――せり――同様、今でも変わらず可愛がってくれる。



そんなそうが、会社帰りの結葉ゆいはを見付けて「おぅ、結葉ゆいは、お帰り」と言うなり、ハムスターを飼わないか?と問い掛けてきたのだ。



時節は、新卒の結葉ゆいは達が、勤め先にも仕事内容にもちょっぴり慣れてきたかな?というタイミングで訪れる、5月の大型連休前。

明日からゴールデンウィークで、結葉ゆいはも久々にゆっくり出来ると浮き足立っている。


「芹ちゃん、いま一人暮らしだよね? ――連休中、帰って来るの?」


結葉ゆいはが今22歳だから、芹は20歳はたち――大学3年生――のはずだ。


親たちから、芹は成人したのを機に、5駅ほど離れた町で、アパート住まいを始めたと聞いている。


記憶を手繰りながら言ったら、そうは「あぁ、何かそんな話」と結葉ゆいはの言葉を肯定してから、すぐにムッとしたように眉をひそめた。


「――しっかし今までだって実家こっから通えた距離なんだしさ、卒業するまでそのまま通えばいいと思わね? 何でわざわざハタチになったからって家出る必要があんだよ」

と、不満たらたらな様子。


芹が帰省してくる際には、くだんのハムスターたちも連れ帰る関係で荷物が多いからと、そうが車で迎えに行く算段になっているらしい。


田舎は都会と違って駅と駅の間隔が広い。5駅分も離れたら、車でも優に30分以上はかかるはずだ。


何だかんだ言って、そうは相変わらず面倒見がいいな、と結葉ゆいはは微笑ましく思う。


「親父には言えねぇけどさ、あいつの一人暮らし、絶対男絡みだぜ?」


お父さん云々は確かにそうかもしれないけれど、結葉ゆいはにはお兄ちゃんであるそうもそのことを気にしているように見えた。


はぁー、と大きく溜め息を吐くそうを見て、「そうちゃんも芹ちゃんのパパみたいよ」と笑ったら「うっせぇわ」と頭を小突かれた。


「――で、さっきの話、どうよ?」


そこで、ハムスターのことについて答えていなかったと思い出した結葉ゆいはは、「家族に聞いてからでいい?」と小首を傾げたのだった――。



***


黒目がちの大きな目に、クッキリとした二重まぶた。

腰まで届くサラサラの髪の毛は、今時にしては珍しいからすの濡れ羽色ばいろ

小さくてプルンとした唇は、何もつけていなくても瑞々しく潤っているのだけれど、外出帰りの今はコーラルピンクの口紅を薄く引いていた。


結葉ゆいはの身長は、そうより20センチ以上低い150センチ台半ば。


そうの妹の芹は165センチ以上あるから、そう結葉ゆいはにキラキラの瞳で見上げられると、いつも何だか落ち着かない気持ちにさせられる。


仕事帰りのようだが、支給された制服は職場で着替えて行き帰りしているのだろう。


目の前の結葉ゆいはが着た白いシンプルなトップスは、袖口がウィングスリーブになっていてとても女の子らしくて。

それに合わせられた、黒いハイウェストのAラインロングスカートも、腰の大きなベルトがアクセントになっていて、華奢な結葉ゆいはにとても似合って見えた。


そんな結葉ゆいはにハムスターを飼わないか?と問うてはみたものの、ハッキリ言って眼前の幼なじみ自身の方がはるかに小動物じみているな、と思ってしまったそうである。



今現在結葉ゆいはは実家住まいの身。自分の一存では決められないの……と申し訳なさそうに眉根を寄せるのが可愛くて、そうは無意識に「ああ、もちろん分かってるよ」と結葉ゆいはの頭をヨシヨシしてしまい――。


「もぉ! 髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃう!」


その手を即座にギュッと掴まれ、睨むように結葉ゆいはに見上げられて、軽く反省。


「あ、わりぃ。つい昔のくせで」


と素直に謝った。



***


別に結葉ゆいはは、そうに、頭を撫でられるのが嫌いなわけじゃない。


決して嫌ではないのだけど。



「そんな気安く他の女の子に触れてたら、彼女さんに叱られちゃうんだからね!?」


そうが、同級生の女の子と付き合い始めたという話を親伝おやづてに聞いていたから、結葉ゆいははそう言うしかなくて。


「は? お前は妹みたいなもんだから気にすることねぇだろ」


即座に返ってきたそうからの言葉に、結葉ゆいはは胸の奥がズキンと痛んだのを感じた。


そうからは、自分が妹のようにしか思われていないことは知っていたけれど、結葉ゆいはは幼い頃から、この口が悪くて見た目の怖い幼なじみに淡い恋心をいだいている。


だから、分かっているつもりでいても、面と向かって女として見てはいないのだと明言されると、それなりに傷ついた。


結葉ゆいはは胸の痛みを誤魔化すみたいに、


そうちゃんも今は家、出てるんでしょ? せりちゃんのこと言えないじゃん」


賢明に軽口を叩いて、そうに、小さくベッと舌を出して見せた。

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