テラーノベル
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病院での事件が解決し、再び少しだけ静けさを取り戻したキャンパス。私は、オカ研の部室の窓辺で、冷めてきたカモミールティーのカップを両手で包み込みながら、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
一度は消えたはずの、私の「霊感(サイコメトリー)」。
それが大学の入学式で突如として再覚醒し、さらにはあの大学病院での「透明な殺人事件」まで引き寄せてしまった。
(もう……「普通の女の子」には戻れないのかな……)
胸の奥で、小さな溜息がこぼれる。
高校時代の私は、この力が消えることだけを願っていた。両親の未練を晴らし、事件が解決してただの女子高生に戻れた時は、心から嬉しかった。
だけど、二度目の覚醒を果たしてしまった今、私は薄々気づいている。この力はもう、私という存在から切り離せない「体質」なのだと。
なら——これから先、私はどう生きていけばいいんだろう。
将来のこと。大学を卒業した後の、私の「居場所」のこと。
一般の企業に就職して、自分の力を隠しながら「普通の社会人」として生きていく?
ううん、きっと無理だ。街を歩けば死者の残香に当てられ、職場でも人の強い情念に触れて倒れてしまうかもしれない。そんな日常は、私にとっても周りにとっても不幸でしかない。
「……だったら」
ぽつりと、自分でも驚くほど静かな声が口から漏れた。
(自分で……作っちゃえばいいのかな)
頭の中に、おぼろげな、けれど妙にリアルな映像が浮かんできた。
街の小さな雑居ビルの2階。
看板にはシンプルに——『皐月探偵事務所』、あるいは『皐月霊能相談所』。
警察の手には負えない、科学では証明できない「死者の声」や「残香」が絡む事件。
それを、私の力で解き明かし、傷ついた誰かを救う場所。
「……ふふ、何考えてるんだろ、私」
思わず苦笑いがこぼれる。
女子大生が「霊能探偵事務所」を開業するなんて、まるでフィクションの小説か、九条先輩の好きな怪奇ドラマの世界だ。
だけど——不思議と、悪くない気がした。
私はもう、自分の力を呪って逃げ回るだけの「身代わり」じゃない。
峯岸さんや佐藤さん、九条先輩たちと出会って、自分の足で立つことを覚えた。
だったら、この過酷な力を「誰かの無念を晴らすための仕事」として受け入れて生きる道だって、きっとあるはずだ。
「おや、一人で思い出し笑いかい? 皐月さん」
パイプの煙の匂いとともに、九条先輩が古書を手に近づいてきた。
「あ……九条先輩」
「随分と真剣な顔をしていたと思ったら、なんだか晴れやかな顔になったね。何か良いアイデアでも閃いたのかな?」
「……うーん、まだナイショです。すごくバカバカしいって笑われそうだから」
私がカップを置いて微笑むと、九条先輩は面白そうに目を細めた。
「フッ、君の言う『バカバカしいこと』なら、大歓迎だよ。もし起業するなら、うちのオカ研の卒業生ネットワークをフル活用して、経営と法務のサポートくらいはしてあげるがね?」
「……ちょっと先輩、エスパーですか?」
「伊達にオカ研の部長はやっていないよ」
クスッと笑い合ったその時、部室のドアが勢いよく開いた。
「渚——!! 探したぞクソガキ!」
いつもの荒い息遣いと、煙草の匂い。
くたびれたスーツを着た峯岸さんが、後ろに佐藤さんを従えて入ってきた。
「峯岸さん? どうしたの、そんなに慌てて」
「事件だ、事件! 隣県の警察から極秘の協力要請が入った。……旧家の蔵で見つかった『呪われた遺品』に触れた人間が、相次いで原因不明の記憶喪失になってるらしい」
峯岸さんは不機嫌そうに悪態をつきながらも、どこか誇らしげに俺を振り返った。
「またお前の出番だ、渚。……準備はいいか?」
「……うん!」
私はソファーから立ち上がり、ブレザーの裾をぴっと正した。
霊能探偵事務所の開業なんて、まだまだずっと先の話。
だけど、今こうして頼りにしてくれる大人たちがいて、救える命がある。
未来の「皐月探偵」は、小さく胸を張りながら、いつもの相棒たちの元へと歩み出した。
コメント
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寺島あおいです🌷 第12話、拝読しました。 「普通の女の子には戻れない」と静かに受け入れた上で、自分の力の使い道を模索する渚さんの変化が胸に沁みました。特に「自分で作っちゃえばいいのかな」という気づきの瞬間、すごく好きです。九条先輩との軽妙なやり取りも、いい距離感で温かい気持ちになりました。峯岸さんからの新たな事件の知らせで、次が気になる終わり方もグッときますね。
キュルノ
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蒼月
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