日本、午前7時。
5人の家では、北斗が樹と慎太郎を起こそうとしていた。
「早く起きろー」
慎太郎はすぐに目覚めて1階に下りたものの、樹がベッドから出てこない。
「なんで優吾じゃないと起きないんだよ。病院遅れるぞ?」
「だって…昨日も当直だったもん…」
そう言われると、一応双子の弟として兄を案じざるをえない。
「まあ…疲れたよな。毎日よく頑張ってるよ、お前は」
樹は渋々起き上がった。
「あっ慎太郎、3人が帰ってくるのって何時だっけ?」
北斗が訊くと、「明日の午後5時到着予定らしい」
わかった、と答えた。
一方、アメリカ。
まだジェシーと優吾が寝ている中、大我が目を覚ました。
慣れないホテルではあるが、いつものように朝の身支度をする。
と、優吾も起きた。「お…早いね。おはよう」
おはよう、と返す。
「まだ7時じゃん。もう一回寝ようかな…」とベッドに身体が戻りかけたが、仕事を思い出して準備を始める。
ジェシーも起きてくると、朝食会場に行って3人で朝食をとった。
相変わらず、初めてのバイキングだけれどここぞとばかりにトマトを取る大我にくすりと2人も笑う。
部屋に戻ると、優吾はスーツに着替えた。
「よし、取材行ってくる」
ニューヨークの企業にアポを取っていて、そこに向かうのだ。
優吾を見送ると、大我が思いついたように口を開いた。
「もう一回、あそこに行きたい」
え、とジェシーが訊き返す。「どこ?」
「…お父さんの家」
「いいけど、なんで?」
「お母さんのことを知りたい」
その水色の瞳は、真剣だった。
もしかしたら、戻ってきたけれど確信のない記憶があるのかもしれない、と思った。それを聞きたいのかも、とジェシーは考えてうなずく。
「わかった。じゃあ行こうか」
その後、再びジェシーの父親宅を訪れた2人。
「ちょっと知りたいことがあるんだ」と説明した。
大我はゆっくりリビングを進み、ジェシーの母親の写真立てを見つめる。それを眺めていたジェシーは、あることを考えた。父親に向かって伝える。
「ママの最初に結婚した相手のことってわかる?」
ちょっと待って、とスマホを出して操作する。
「お義母さんにもらった手紙だよ。亡くなったとき、心配してくれたんだ」
「え」
ジェシーは初耳だった。
「翻訳アプリを使って読んだよ。ジェスは読めるでしょ?」
見せられた画面には、日本語で書かれた手紙の文面が写っていた。スマホを受け取って読む。大我ものぞき込んできた。
「お義母さん、ってことは俺のおばあちゃんか。でも知らないんだよな…」
ジェシーが幼いころに離婚してしまったので、母方の祖父母は会ったことがない。
しかも、4人兄弟の両親と祖父母も遠いところに住んでいるので、いとこのジェシーはそちらもまだ会ったことがなかった。
すると、文中に1か所だけ記されている名前に目が留まった。
どうやら母親の前の夫のことが少し書いてあるらしい。
その方にもお知らせしました、とあった。
「京本…」
そうつぶやいてから、自身の発した言葉の重要性をやっと理解して顔色を変える。
「え、は、ちょっと待って、京本!?」
大我も「僕の名前…」と小さく言った。でも理解はできていないようだ。
そこには、大我と同じ名字だけど見知らぬ男性の名前があった。
「この人知らない?」
ジェシーが訊くが、大我は首をひねる。
「もしかしたら、聞いたことはあるかもしれない。でも覚えてない」
「そっか…。だけど珍しい名字だし、たまたまじゃないはず」
驚きと混乱で支配された頭を必死に落ち着かせ、手紙の続きを読む。そんなに長くなかった。
そちらもお元気で、という趣旨で手紙は締めくくられていた。
しかし一番下の差出人の名前には、
「……嘘だろ」
まだ顔は見ていない兄弟の祖母の名前だった。4人の会話にたまに出てくるから、名前だけは知っていた。
「え、何で…!?」
それには大我もついていけない。不思議そうな顔でジェシーを見ている。
慌ててスマホを取り出し、優吾に電話をかける。
しかし耳に届くのは着信音ばかり。それもそうで、彼はちょうど仕事中だ。
そしてジェシーは次に、日本にいる北斗に発信する。
出てくれ、そう願いながら。
呼び出し音が切れて、北斗の「はい」と答える声がした。
ジェシーの心臓は、今までにないほどにバクバクと大きく音を立てていた。
続く
Happy Birthday Jesse !!!!!!
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