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雅也は江戸の山奥にある寺に足を運んでいた。辺りは深い霧に包まれ、静寂が一層の不気味さを漂わせている。この場には誰も知り得ない秘密が隠されていた――「異能」。存在してはいけない力だとされるその能力を、雅也は宿していたのだった。
雅也が持つ「異能」は、切断。刃を振るうだけで、どんなに硬い物も、どんなに強固な結びつきも一瞬で断ち切る力だ。触れるものすべてを物理的にも精神的にも切断し、不可視の領域まで影響を及ぼすその力は、まさに異質であり、恐怖の象徴ともいえた。
「江戸の橘と渡り合うためには、いよいよこの力を使わなあかんか…」
雅也は低く呟き、刀を見つめた。表面上は冷静に振る舞っているものの、その心の奥には、この力を使うたびに何かを失うかもしれない恐怖が渦巻いていた。
山奥の寺にて、雅也が思案に沈む一方、橘は雅也を追ってその地に辿り着く。彼もまた、雅也との再戦を望んでいた。江戸と京都の誇りをかけた戦いは、いまだに決着がついていない。そして、雅也が「異能」を持つと知った橘は、驚愕と同時に強い敵意を感じていた。異能の力を用いることが、江戸の武士道に反するからだ。
「異能…あの刀で何でも切れるだと?」
橘は拳銃を握りしめ、その重みを確かめるように構え直す。
雅也が姿を現すと、二人の視線が再び交錯する。雅也の表情には、どこか諦念と覚悟が入り混じっていた。
「橘、もう一度お前に問う。お前は自分の生き方を、拳銃だけで貫けると思うとるんか?」
橘は冷たい瞳で雅也を見返す。
「江戸の男は、自分の信じたものを貫くのみ。たとえ、相手がどんな力を持っていようと関係ない。」
その言葉に応えるかのように、雅也はゆっくりと刀を構える。だが、今回は以前の戦いとは違う雰囲気があった。雅也の刀には、不気味な黒いオーラが漂っており、それが「異能」の力であることは一目でわかる。
雅也が刀を一振りすると、周囲の木々が音もなく斬られ、地に落ちる。その一瞬の出来事に橘は息を飲む。距離を保っていたはずの彼にも、雅也の異能が届くことが証明されたのだ。
「こんなことを使いたくはなかった。せやけど、これがわしの生き方でもあるんや。」
雅也の声は低く、しかし強い決意が込められている。
橘は異能の恐ろしさに怯むことなく、拳銃を構え直す。
「お前がどんな力を使おうと、俺の信念は変わらない。江戸の男は、誰にも媚びない。ただ、己の信じる道を行くだけだ。」
雅也は静かに笑みを浮かべた。
「それでええ。お互い、背負うもんを守るために、ここで決着をつけようや。」
雅也の「異能」が放つ切断の一撃が、橘を追い詰める。橘は何度も巧妙に身をかわしながらも、雅也の一撃一撃がどれだけ精密で致命的かを感じていた。異能による「切断」は物理的な距離をも無視し、橘の近くにいるだけで斬撃の圧力が身を襲う。
しかし、橘もまた諦めない。隙を見つけるや否や拳銃を撃ち、雅也の動きを制しようとする。だが、雅也はその弾丸を異能の一振りで断ち切り、全く動じない。
「お前は異能に頼りすぎだ、雅也。剣の心はどこに行った?」
橘の声が響く。
雅也は一瞬ためらいの色を見せたが、すぐにその迷いを振り払った。
「そうかもしれん。でも、わしはこれでしか戦えへんのや!」
雅也の異能がさらに研ぎ澄まされ、周囲に何かが切断される音が響き渡る。切断の力を完全に解放した雅也に、橘は最後の決意を込めて突進する。二人の運命をかけた激突は、まるで運命の導きのごとく、天と地を裂く一撃をもって幕を閉じようとしていた。
隅田川の水面には、彼らの壮絶な死闘の残響が静かに揺れ、戦いの終わりを見守るように佇んでいた。