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あああああ〜〜〜!!!!! マジか! 恥ずかしくて死にそう……!
去り際のジェードさんの「分かってるよ」と言いたげな微笑みを思い返しては、頭をかきむしりたい衝動にかられる。
いやまあ、バレてるとは思ってたんだけどね?
でも、多分バレてるって思ってるのと、こうして面と向かって「分かってるよ」って顔されるのじゃダメージが違うっていうか。
考えても仕方ないって分かってるのに、うだうだとさっきの会話を思い出しては勝手にダメージを受けるのなんとかしたい……。若干憔悴しながら、あたしはとぼとぼと力ない足取りで渡り廊下を抜けて菜園へと向かう。
このままだと恥ずかしさとリカルド様に会えない悲しさで暴発しちゃいそう。これはもう、あたしの可愛い植物たちに、ちょっと慰めて貰わないと。
足取りも重く菜園への角を曲がったら、あたしの目に信じられない光景が飛び込んで来た。
「……!」
リカルド、様……?
目をこすってみたけれど見間違いでもマボロシでもなかった。巨大な木の幹に寄りかかってでスヤスヤと気持ちよさそうに眠っているのは、間違いなくリカルド様だ。
あんなに探しても見つからなかったのに、まさかこんなところに居るだなんて。
なんだってあたしの菜園なんかに居るんだろう。……もしかして少しはあたしのこと、心配してくれてた?
なんて都合のいいことを一瞬考えたけど、この十日間逃げられまくってるわけだから、そんなことあるわけないと自分でツッコミを入れるハメになってしまった。切ない。
順当に考えて、たんに通りすがりに気持ち良さそうな木陰があったから、休んでいたら寝入っちゃったという、普通に起こり得る偶然の産物に違いない。まあ、その木陰があたしの加減知らずの成長促進で爆成長した豆の木だってトコは普通じゃないにしても。
うわー、それにしても久しぶりに見たよ、リカルド様の顔。相変わらず鼻から顎にかけての稜線が綺麗だなぁ。ついついマジマジと見つめてしまう。そして、討伐演習の時とはちょっと違う雰囲気なのに気がついた。
あれ? 目の下、もしかして隈ができてる? それもかなり濃くない?
リカルド様を起こさないように気配を消して近づいて、じっくりと顔を覗き込む。
……やっぱり隈が出来てる。それに、頰も少しこけたみたい。心なしか体も薄くなったかも? もしかして本当に忙しかったりしたんだろうか。
リカルド様が起きないのをいいことにかがみ込んでガン見していたら、リカルド様目がパチリと開いて、至近距離で目が合った。
「うわっっっ!?」
驚きすぎて後ろに飛び退きたかったんだろうけど、そこは残念ながら背後に巨大な豆の木の幹があるわけで、思いっきり後頭部をぶつけていた。鈍い音がしたから、これは相当痛いだろう。
「く……っ」とか言いながら後頭部を押さえてるのが地味に可愛いんだけど。
「ユーリン、なぜ……」
あたしを見上げたリカルド様はなんと涙目だった。
なにこれ、レアすぎない!?
絶対にめちゃめちゃ珍しい光景に、内心テンションが爆上がりするけれど、そんなことはおくびにも出さず、あたしは至極冷静に答えを口に出した。
「なぜって菜園のこのあたりはあたしのスペースですし」
「いや、それは知っているが……ジェードは? 会わなかったか?」
「さっき会いましたよ。なんかめっちゃ励まされました」
なんだ、知ってたんだ。ここがあたしの菜園だって。そしてリカルド様を探してると必ずといっていいほどジェードさんに会うのは、やっぱりリカルド様の差し金なわけね。
「そ、そうか。魔力制御は習えただろうか」
「……」
思わずジト目で見てしまった。あたしが魔力制御で困ってるのも知っていて、会ってもくれずに逃げ隠れしていたわけか。
「いいえ、習いませんでしたけど」
「なぜだ」
「ていうかなんでリカルド様がそれを気にしてるんです? 学園に戻ってきてからこっち、十日も会わなかったっていうのに」
「そ、それは……か、かぜの噂で、魔力制御に苦労していると聞いてだな」
「知ってたんだ。その割に探しに来てもちっとも会えないし。教えてくれるって言ったのに」
思わず恨み言が口をついて出るのを抑えられない。教えてくれるっていうのだって単なる厚意なんだから本来恨み言を言う資格なんかないって分かってるのに。
でも、十日も不安な気持ちでリカルド様を探し続けただけに、気持ちが抑えられなかった。
第一、なんで。
「なんでジェードさんに魔力制御を習うって話になるんですか……!」
「そ、それは」
口ごもってばっかりだな、リカルド様。
「そんなに、あたしに会うのがイヤだったんですか。ジェードさんに押しつけるくらいに」
「ち、違う! 君はジェードに教えて貰った方が嬉しいだろうと思って」
「なんで!? あたしはリカルド様に教えて欲しいのに!」
その言葉を聞いた途端、リカルド様は鳩が豆鉄砲をくらったみたいな、ぽかんとした顔をした。ジェードさんが言ってたとおり、本当にリカルド様はあたしがジェードさんを好きだって思ってるんだな。