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「『次の締め切りは厳守で』『数字が落ちているからトレンドを意識して』。あなたはいつも合理的で、正解ばかりを口にする。だけど……そんな言い方じゃ、モチベーション上がりませんよね?」
「……っ」
「あなたが自分にも厳しくてクソが付くほど真面目なのはよく知ってます。けど、全員が全員同じとは限らない。違いますか? それに、佐伯先生、本当はweb漫画に移行したいって――」
語尾を濁し、芹沢はわざとらしく小首を傾げた。
「……前作の連載中、何度か匂わせておられたんじゃないですか? 例えば『縦スクロールのテンポ感も勉強しないと』とか、『若い読者の反応がダイレクトに見えるのが羨ましい』とか……」
「……な」
「なんだかんだ理由をつけて、先延ばしにして来たから見切りつけられたんじゃないんですか?」
「っ……」
胸の奥に、重い痛みが走る。
確かに、そうかもしれない。何度か打ち合わせの際、今後はWebへの移行も視野に入れたいと打診があったこと。現場の担当者からそう報告を受けていた記憶が、嫌なリアルさで思い出される。
だが当時、編集部はWeb事業の新規開拓に追われていた。新人作家の発掘や新規連載の立ち上げにリソースを割かれ、実績のある佐伯の打診には、常に後回しの札を貼り続けてしまっていた。
十年間、うちの看板を背負ってくれた大御所だ。長年の信頼関係もあるのだから、少しくらい待たせても大丈夫だろう――そんな身勝手な甘えが、自分の中に一切なかったとは言い切れない。
「『長年の付き合いがあるから理解してくれる』なんて、甘い期待をしてたんでしょう?」
心の内を見透かしたように、芹沢が冷ややかな声を潜ませた。踏み出された靴音が、静まり返った会議室に響く。
「会社が新規のWeb開拓に夢中になっている間、ずっと放置されていた先生がどんな気持ちでいたか……想像すらしてこなかったでしょう。他社はそこを突いてきたんですよ。『うちなら数合わせではなく、先生をWeb事業の真ん中に据える』とね。あなたが慢心して後回しにした隙に、先生の居場所を奪われたんです」
淡々とした問いかけだからこそ、反論の余地がない。
ぐうの音も出なかった。
佐伯が他社に移籍したがっているのは、ギャラのためでも、引き抜き工作のせいでもない。
長年の信頼に甘え、一番大切にしなければならなかった看板作家を、自分の慢心で後回しにし続けたツケが回ってきただけなのだ。
不甲斐なさと屈辱で、冷や汗が首筋を伝い、シャツの襟をじわじわと濡らしていく。
「ちょっと、ヒントをあげすぎたかな? まぁいいや。ちゃんと約束は守って下さいね、編集長」
コメント
1件
うわぁ…この回、胸がギュッてなったよ😭💔 編集長、ずっと「正しいこと」を言ってるつもりで実は慢心してたんだね…芹沢くんの追及が淡々としてる分、芯にズドンと刺さる感じがして読んでて辛かった〜💦 でも、自分の中の甘えを認めるしかない瞬間って誰にでもあるから、すごくリアルで引き込まれた! 編集長がこの気づきをどう次に繋げるのか、めっちゃ気になる…!!!
#四季総受け
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