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今日も今日とて💚💙
第十話 美肌日和〜夜
亮平side
今日も今日とて、念入りに。
テーブルに鏡を置き、床に座る翔太。
ソファのクッションの角度が、朝家を出た時より少し整っている。
ブランケットの端が、手を伸ばせばすぐ掴める位置に揃えられていた。
さっきまで俺、ここに座ってたっけ。
そう思うほど、体が自然に収まる位置だった。
理由は分からない。
でも、落ち着く。
……まあいいか。
なぜか、ほんのり温かい。
夜の光が頬に落ちて、疲れの影さえ柔らかく見せていた。
いつもより少し疲れた顔に、手際よくスキンケアをしている。
指先でクリームをすっと伸ばすたび、白い肌が光を受けて柔らかく揺れる。
「……リョウヘイ、ちゃんと見てて?」
子供みたいに褒めてもらいたそうで……
でも、恥ずかしそうに、小さな声で聞いてくる。
――つい、頬がゆるんでしまう。
いつもの夜の静けさの中、ただ隣で彼を見守る。
ブランケットから、いつもより自分の匂いがする気がした。
洗い立てのはずなのに、落ち着く香りが残っている。
……気のせいか。
でも、不思議と安心する。
翔太の指先が滑るたび、顔の輪郭がやわらかくほどけていく。
瞼の下で瞬きをすると、微かな笑みが口元に浮かんだ。
照れ隠しに、髪を耳にかける仕草まで、すべてが愛おしい。
「いつだって見てるよ」
そう言った俺に、耳まで真っ赤に染めた翔太は、〝やっぱ見ないで〟なんて言って──可愛すぎる。
小さくぷっと吹き出すと、頰を膨らませて、少し拗ねた。
でも、目の端で光る真剣な瞳は、ちゃんと俺を見ていてくれる。
静かな夜の空気の中、二人の距離は変わらず、だけど確かに温かく寄り添う。
翔太の手元の白いクリームも、夜の光を受けて少しだけ輝く。
そのひとつひとつの動きが、今夜の小さな幸せを静かに刻んでいく。
「亮平は?もうスキンケア終わった?」
小さな声が、耳元に届く。
ソファで蹲る俺に、少し離れて座った翔太は、
肩が少しだけこちらに傾くのを感じて、そっと距離を詰めた。
「もう終わったよ」
「そう……」
低く落ち込んだような声音。
首を傾げて〝どうしたの?〟と尋ねる。
俺も大概意地悪だ。
きっと翔太は、俺に触れたいのだろう。
分かっているのに、彼が意地らしくモジモジとする姿が見たくて少し惚けて見せた。
「最近、手の…手の乾燥が気になるんだよね」
そう来たか――
素直じゃないんだから……
乾燥なんて口実だ。
触れてほしいときの、翔太の声の重さを、俺はもう知っている。
「おいで――クリーム塗ってあげる」
パッと華やいだ表情に胸の奥がじんわりと温かい。〝なんて可愛いの〟……は俺だけの秘密。
お尻をズリズリと滑らせながら近付いてきた翔太は、子犬がお手をするみたいに左手を俺の掌に乗せた。
指先が少しだけ冷たい。
けれど掌の奥は、じんわり温かい。
まるで、どこかで温もりを抱えてきたみたいに。
ソファに座る俺の事を上目遣いで見上げた。
あぁ勘弁してよ――可愛すぎる
触れる距離は近いけれど、まだ優しく空間を残す。
クリームを伸ばすたび、指先に残る体温がゆっくり混ざっていく。
触れているのは手のはずなのに、
胸の奥がほどけていく。
「……気持ちいい」
その一言で、指先の力が少しだけゆるむ。
小さく漏れる声に、思わず笑みが浮かぶ。
そっと手を止め、ブランケットの端に触れる。
持ち上げた瞬間、折り目が不自然にきれいなことに気付く。誰かが丁寧に整えたみたいに。
……翔太、ここまで几帳面だったっけ。
視線を向けると、当の本人は何も知らない顔で瞬きをしていた。
……まあ、いいか。
温かいから。
「入ろうか」
軽く声をかけると、翔太は小さく頷き、自然と腕をこちらに回した。腕が回るその小さな重さに、選ばれたみたいで、息が少しだけ浅くなる。
翔太の肩が、力を預けるみたいにわずかに沈む。
触れる距離のまま、二人でブランケットの中へ。
温もりがぎゅっと包み込み、静かな夜がさらに濃くなる。
「もう潤った?」
もっと触って欲しそうに……そうとは言えない愛しい人。
「どうかな?」
なんて、意地悪な俺。
夜は静かに裏返り、ふたりの呼吸がそっと重なった。
ブランケットの中で頬を寄せ合い。唇を重ねる。
「唇は問題なさそう」
「ふふっ……おでこは?」
「欲しがりだな///」
柔らかなおでこにキスをする。
静かに耽るリビングに響いたリップ音。
「幸せ」
小さく呟く翔太の肩を抱き寄せた。
今日も、部屋の空気が少しだけ整っている気がした。
理由は分からないけど――
こういう夜は、なぜかよく眠れる。
今日も今日とて念入りに。
スキンケアの時間は、ただ肌を整えるだけじゃなく、 夜のやわらかさが、
ふたりの距離を静かに整えていく。
コメント
2件
2話ペアなの可愛いね💚💙