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父の目は泳いでおり、私になんと声をかけたらいいのかと迷っている様子だった。


「元帥殿、親子の会話に割り込んで申し訳ございませんが、帰還する時刻でございます」

「……カルスーンの侵攻状況は?」

「はっ! 報告いたします!」


助け舟を出すかのように、部下の一人が私たちの会話に割り込んできた。

父はその兵士にカルスーン王国の侵攻状況を聞く。


「遠隔兵器の影響により、王都は壊滅。作戦は予定通りに進んでおります」

「我らの援護は必要ないのだな」

「はい。別部隊の救援信号は出ておりませんので」


父の他にも別部隊がいたようで、彼らは王都の攻略をしているようだ。

作戦の内容は告げられていないが、混乱に乗じて王城を占拠し、カルスーン国王とその家族の拘束するのだろう。

無論、マジル王国が戦争に勝利した証として公衆の門前で打首にするためだ。


「では、同胞と我が娘を連れ、マジル王国へ帰還する!! 皆、飛行船へ搭乗せよ」

「はっ」


父の一言を合図に、兵士たちとグレン、メリル、拘束されたブルーノが飛行船に乗る。


「帰るぞ」

「嫌です! 私はーー」


もう祖国へ帰る道しかないが、私は父の言うことを聞きたくなかった。

父は私の腕を掴む。

その力は強く、抗うことは出来ない。

強引に引っ張られる形で、私は父とともに飛行船に乗った。



全員が飛行船に搭乗すると、轟音を上げて空を飛ぶ。高度を上げ、マジル王国を目指す。


「エレノアさま」

「メイド長……」

「もう、私はソルテラ伯爵家のメイドではありません。メリルとお呼びください」


私は個室に閉じ込められた。

ブルーノとは違い、拘束はされていない。

けれど、自由に船内を歩くことは許されず、メリルが私の監視に就いていた。

メリルの、父の許可が無ければ部屋から出られない。

私がメイド長と呼ぶと、彼女は名前で呼ぶようにと訂正された。


「メリル、オリバーさまはどこにいるの?」

「……それはお伝えできません」


父に口止めをされているらしい。

オリバーはマジル王国軍に保護されているが、私であっても居場所を教えてくれないようだ。


「私、オリバーさまに会って話したいことがあるの」

「……」


私はオリバーに会いたい旨をメリルに伝えた。

メリルは首を横に振る。


「エレノアさま、彼はもう、ソルテラ伯爵ではないのです。呼び方には気をつけたほうがよいかと」

「爵位なんて関係ない! オリバーさまは私にとって大切な人なの!!」

「大切な人……」

「っ!」


私の本音がとっさに出てしまった。

今後、オリバーは爵位を失い、マジル王国の捕虜になる。採掘所での強制労働はないだろうが、監視下に置かれるのは間違いない。

秘術について吐けと拷問を受けるかもしれない。

他国の戦争に駆り出され、秘術を放つことを強要されるかもしれない。


誰に対しても優しい彼が、戦争の兵器としてマジル王国に飼われるなんて。

オリバーは突然の婚約破棄や父の心無い言葉に傷ついた私の心を太陽のように暖かく包み込んでくれた存在。


私はオリバーを一人の男性として愛している。

大切な人、かけがえのない存在。

その気持ちが溢れ、ついメリルの前で口にしてしまった。

私はあわてて口元をおさえた。


「エレノアさま、あなたは、オリバーさまに恋心を抱いているのですか?」

「ち、違うわ」

「……嘘ですね」


メリルは私の嘘をすぐに見抜く。


「女の顔になっていますよ」

「っ!?」

「お顔が真っ赤です」

「……あなたには誤魔化せないのね」


顔に出ていたらしい。

頬が熱くなっていて、メリルの指摘通り、顔が真っ赤になっているみたいだ。

私は嘘を突き通すことを諦め、メリルに本心を打ち明けた。


「ええ。私は、オリバーさまをお慕いしております」

「でしたら尚更オリバーに会わせるにはいきません」

「……マジル王国へ戻ったら、私、結婚するのよね」

「その通りでございます」


父が他国へ家出した私を連れ戻す理由。

それは婚約者との結婚しかない。

相手が変わらないのであれば、私は十歳離れた少佐と結婚する。

彼は優秀で父のお気に入り。

婚期に恵まれなかった彼に私をあてがうのだ。


「マジル王国に到着したら、すぐにドレスに着替えてもらいます」

「そう……」


私が逃げられないように、飛行艇がマジル王国に帰還した直後に、結婚式を行うつもりなのだ。

純白のドレスを着て、誓いを立てる。


「ドレスは貴方が着せてくれるのよね」

「はい。そう、アリアネ元帥に命じられております」


もう、結婚は受け入れるしかない。

ならば、次の行動を考えなければ。


「……メリル、あなたにお願いがあるの」

「なんでしょうか?」

「このバック、預かっていてほしい」


私は【時戻り】の水晶が入った肩掛けバックをメリルに預けることにした。

これを預けられるのは上司として共に働いたメリルしかいない。彼女なら信頼して預けられる。


「かしこまりました」


私からバックを受け取ったメリルは、素直に私の願いを聞き入れた。


「中身はアリアネ元帥も確認することになりますが、それでもよろしいですか?」

「ええ」

「その前に、中を確認させていただきます」


メリルはバックの中に手を突っ込み、【時戻り】の水晶を手にする。

水晶はまだ青白く光っていない。

手にしても初代ソルテラ伯爵の声が響いてこない。

条件を満たしていなければただの水晶だ。


「これはただの水晶玉……、ですね」

「家に持ち帰りたいの」

「検品のため、お届けするのに数日かかると思います」

「ただの水晶玉よ、検品が必要かしら?」

「魔導具の可能性も否めませんので」


事実、それは魔導具だ。

マジル王国で精密検査をされたら、【時戻り】の機能を秘めていると暴かれてしまうのではないか。それは予想外だった。

私は検品の必要性をメリルに問うが、彼女は必要だと即答した。


(……私のもとに戻ってくるかしら)


戻ってこないと困る。

私は、【時戻り】の水晶がマジル王国の検品から逃れることができるようにと切に願う。

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