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飛空艇に乗って半日、私は祖国マジル王国に帰還した。
着陸するなり、私は用意されていた馬車に乗せられ結婚会場へと連れていかれた。
そこへ着くなり、私の周りにはメリルの他、三人のメイドが付く。
メリル一人だけなら、振り切れるかもしれないが、四人に囲まれているとそれも難しい。
それに、ここで反抗的な態度を取ったら、メリルに預けていた【時戻り】の水晶が私の手に戻ってこないかもしれない。
(私はここであの人と結婚するしかないんだ……)
そう思うと、私はぎゅっと胸が痛くなった。
チャールズさまの時は幼いころから結婚すると決まっていたから、彼とは頻繁に会って話をしていた。
けれど、今の結婚相手は違う。
アルス・ティンバー少佐。
私は彼の名前と年齢が三十であることしか知らない。
父から彼の名前をよく聞いたから、気に入られているのだろうなという認識だ。
「エレノアさま、こちらへ」
私はメリルたちの案内のもと、別室へ連れていかれた。
その部屋には簡易的な浴室と、ドレッサー、そして私が着るのであろうウェディングドレスがあった。
ドレスのデザインは胸元が開いた、マジル王国でも流行りのデザインだ。
白い細かなレースが装飾としてあしらわれている。
(あれが私の……)
あれを私が着るんだ。
「まずは、身を清めましょう」
「……わかったわ」
その後、私は浴場で身体の汗と髪を洗った。
純白のドレスを着て、化粧を施し、髪を結わえる。
「エレノアさま、お綺麗です」
「……」
メリルたちの言葉を聞いても私はちっとも嬉しくはなかった。
「アリアナ元帥がお待ちです、こちらへ」
「分かったわ」
最後に純白のヴェールをかぶせられ、私は父と未来の夫が待つ、式場へ向かう。
大きな扉の前には正装した父が私を待っていた。
父は片腕を腰に当て、腕を組むようにと無言の圧をかけられる。
私はその腕に自身の腕をからませた。
「エレノアさま、これを」
メリアからブーケを受け取る。
閉じられていた扉が、がばっと大きく開かれる。
結婚式のファンファーレが聞こえると同時に、白で統一された華やかな結婚式場の光景が目の前に広がった。
私たちの結婚に参列しているのは父の知り合いがほとんどで、マジル軍の人間が多い。
すぐに分かったのは彼らが正装ではなく、軍服姿だったからだ。
中には正装をしている人もいたが、それは新郎側の親族だろう。
「エレノア」
「行きます。もう、逃げません」
父は私の名を呼び、ヴァージンロードを進むよう仕向けた。
私は父から離れ、教壇の前で待っている新郎、アルスの元へ進む。
(大丈夫、オリバーさまは許してくださる)
進みながら、私の頭の中は新郎ではなく、主人だったオリバーのことでいっぱいだった。
もし、この先にいるのがオリバーだったら。
私は幸せに満ちた気持ちで式に挑めただろう。
「エレノア、綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
私はアルスの横に立った。
彼は長身で、背はオリバーと同じくらいだと思う。
黄色がかった淡い茶髪を短く刈り込み、藍色の瞳のほどよい筋肉がついた中肉の男性。
鼻が高く、目もぱっちりとしている。どうみても十代後半の若者に見え、実年齢の三十歳には見えない。
整った顔立ちをしており、外見だけで好意を抱く異性もいただろうに、何故今まで結婚をしなかったのだろうと疑問が浮かぶ。
式は順調に進み、互いに誓いの言葉、指輪の交換が終わる。
そして、誓いの口づけ。
ヴェールが外され、私の顔が露わになる。
アルスはにこりと微笑んでいた。どこか肖像画に描かれた昔のオリバーの面影を思わせる。
(この人は、少しオリバーさまに似ている)
私の両肩にアルスの大きな手がそっと置かれる。
「ずっと、貴方をお慕いしていました。僕の妻に迎えられて光栄です」
「……」
アルスの顔が眼前に近づき、互いの唇が触れる直前、彼は私だけに聞こえる小さな声でそう呟いた。その言葉は本心なのだろうか。父に取り入るために私を利用しているのだけではないのか。
行き遅れと陰口を叩かれ続けた私を愛すなんて、うわべだけの言葉に決まってる。
(オリバーさまは戦死せず生還できたけれど、この【時戻り】は正しかったのかしら?)
私は九回目の【時戻り】が正しいものなのかと思いながら、アルスと誓いの口づけを交わした。
そして、私が結婚した日、オリバーが二つの秘術を放った日から五年の月日が流れた。