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『透明な夜に、声がした』
—🍵side.
静かだった。
何も聞こえない、っていうのがこんなにうるさいなんて思わなかった。
息をしてるだけで、胸が苦しい。
心臓が、存在を主張してくるたびに、俺は自分が生きてることを思い知らされる。
でも、それが耐えられなかった。
「……まただ」
指先に冷たい刃が触れる。
肌に押し当てれば、簡単に沈んでいく。
じわりと滲む赤。
その瞬間だけ、世界が静かになる。
「……はぁ……」
安堵と罪悪感が入り混じったため息が、部屋に落ちて、すぐに消えた。
誰にも見せられない。
こんな自分、見られたくない。
表では笑ってるし、ふざけてもいる。
でも、全部嘘だった。誰にも見せられない、ほんとの俺がずっとここにいた。
わかってほしいのに、見られたくなくて、
助けてほしいのに、嫌われるのが怖くて。
手首に増えていく線だけが、俺の“本当”だった。
今日も、また一つ、刻んでしまった。
自分でも、もうどれくらい繰り返してるか分からない。
みんなにはバレてない、と思ってる。
バレてたら、笑われる。引かれる。離れていかれる。
だから俺は、何も言わなかった。
言えるはずがなかった。
「……俺、なにやってんだろ……」
ふと鏡が目に入る。
映っていたのは、疲れた顔をした俺だった。
目の下には隈、感情のない瞳。
唇は乾いて、顔色は悪い。
“アイドル”の俺とは、まるで別人。
「……もうやだな……」
手首から垂れる赤が、床を汚した。
その染みが、俺の罪そのものみたいで、目が離せなかった。
そんなとき、
ドアが「コン」と軽くノックされた。
「……すちくん?」
小さな声。
聞きなれた、優しい声。
――みこちゃんだ。
心臓が跳ねる。
背筋が、凍る。
「……ちょ、待って、入んな――ッ」
間に合わなかった。
扉がゆっくり開いて、
みこちゃんが、俺の部屋の中に足を踏み入れた。
そして、
俺の手首と、床に落ちたカッターと、赤い染みを見て――
「……っ」
小さく息を呑んだ音が、耳に刺さった。
「……見ないで……っ」
俺は思わず袖を引っ張った。
でも、もう遅い。
全部、見られた。
「……なんで……すちくん……」
みこちゃんは震える声で言った。
俺はうまく声が出せなくて、ただ俯いたまま、唇を噛み締めた。
「……どれくらい、こんなことしてたの……?」
「……分かんない。……もう、何日目とか、そういうの、考えるのもやめた」
「どうして……俺、すちくんのそばにいたのに……全然気づけなくて……」
「違うの。……みこちゃんが悪いわけじゃない」
喉が焼けるくらい、苦しかった。
「……俺が弱いだけ。誰にも言えないくらいには、情けなくて、怖くて……。だから、誰にも見せないようにしてた」
「……死にたい、って思ってたの?」
「……死にたいっていうより……消えたいって思ってた。誰にも知られずに、ふって、消えられたらいいのにって……」
「……」
みこちゃんは黙って、俺のそばに来た。
そして、傷だらけの俺の手を、そっと包むように握った。
「……怖かったよね。しんどかったよね。……よく今まで、頑張ったね」
その言葉で、何かが壊れた。
「……俺、もう、無理だったんだ。何かしなきゃ、壊れると思ってて。でも……何しても、壊れてる感じがして……」
涙が、止まらなかった。
気づいたら、声をあげて泣いていた。
「……俺なんか、いなくてもよかったじゃん……。役に立ってる気もしないし、なんかどんどん置いてかれてて……。笑うのも、しんどくて……」
「――すちくん」
みこちゃんが、俺の頭をそっと引き寄せて、抱きしめてくれた。
その体温が、あたたかくて、優しくて、
まるで「生きてていい」って言ってくれてるみたいで。
「俺ね、すちくんがどんな姿でも、大事だって思ってるよ。……全部、抱えてなくていいんだよ。俺がここにいるから」
「……ほんとに、嫌じゃない……?」
「嫌どころか、今すちくんの本音を聞けて、俺は……すちくんにやっと触れられた気がするよ」
苦しいくらい、嬉しかった。
誰かに肯定されるなんて思ってなかった。
「……ありがとう、みこちゃん……」
その夜、俺は初めて誰かに「助けて」を言えた気がした。
声にはできなかったけど、
それでもちゃんと、みこちゃんは気づいて、ここに来てくれた。
もし、あの時みこちゃんが来てくれなかったら――
俺は、きっと、もういなかった。
でも今、俺はここにいる。
まだ、生きてる。
それは、きっと――
あのとき、みこちゃんが俺を、見つけてくれたからだ。
初めてのすちみこでした 、✨
ノベル慣れてないから読みにくかったらごめんなさい、