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黒視点、桃視点、黒視点と変わります。
自衛は各自でお願いします。
風が吹き抜ける。夜空がよく見える。
だけど星は見えない。
今日は新月だから遮る光なんて無いはずなのに。
東京の夜空はあまりにも明るすぎて星はその明るさに身を潜めてしまった。
ほぅ、と一息ついてみる。
行く宛をなくしたそれは少しだけ当たりを彷徨ったあと暗闇に溶けて消えた。
暗闇。部屋の明かりをつけなくてもある程度の状態が分かるほど明るさがあるのに、まるで暗闇が部屋中を覆っているように感じる。
あれ、俺なんで電気消してるんやっけ…窓、開けっぱやし。ああ、そうだ、あいつらと星空見に行くんやったっけ。なら呆けてないで集合場所行かんと。ん?みんながここに来てくれるんやっけ?
スマホを見て確認すればいいだけの事なのにそれすらも億劫だ。
なんだか、何もしたくない。
体が上手く動かない。
ヴヴ、と机上のスマホが振動を伴いながら部屋に小さな明かりを灯す。
そこで漸く体を動かす気になってスマホを手に取る。
「な、ぃこ、から……?」
内容はもうすぐ俺の家に着くけど準備は出来ているかといったもの。
そういや1度俺の家に集まってからみんなで星空を見るスポットに行こうと言っていたのを今更ながら思い出す。
「準備、準備…できてる…いつの間にやったっけ。」
ダメだ、記憶が無い。歳か?歳なのか?ボケが始まっているというのか?そしたらアニキじゃなくておっさんに改名した方がいいのか?それは嫌だな、うん。
開けてあった窓を閉める。身を包む空気が一段と重くなった、気がする。
スマホといつの間にか用意してあった道具を確認した後、手に持って玄関に向かう。
現在時刻、7時半。
帰ってきたら10時を過ぎるかもしれない。
場所はそう遠くはなかったはずだけど、あいつらといたら5分10分で終わるものも1時間とかかってしまうから。
顔を揉む。うん。笑顔は作れる。
口を開く。うん。声も出る。
さて、行きますか。
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桃side
ちょっとした、本当にちょっとした違和感だった。ずっと意識して見ていないと気づかないくらいの。
(アニキ、最近元気ない?)
いつもと変わらない。変わらないけど何かが違う。
だから計画した今回の星空鑑賞会。
少しでも気が楽になってほしくて。
これにはみんな大賛成で。もしかしたらみんな少なからず俺のように感じていたのかもしれない。
酒とかジュースとか軽くつまめるものを用意して、念の為を思ってその場集合じゃなく一旦アニキの家に集合して行くようにした。
杞憂だったらそれでいい。それに越したことはない。
でも、もしアニキが何か気に病んでいることがあったなら、それを少しでも軽くしたい。
サポートしたい。
だって、俺たちになかなか頼ってくれなくて、全然弱みを見せてくれない、全てを抱え込んじゃう不器用な人だから。
少しは、俺たちが甘えるんじゃなくて、甘えさせたいんだよ。
自己満足かもしれない。
余計なお世話かもしれない。
でも、それでも、
「ないこ。もうおったんか。」
馴染み深い声を背にかけられて振り向く。
「まろ。早いね。」
「お前には言われたくないわ。」
「あはは、他のメンバーはまだかな。」
「あ、ないちゃん、いふくん!!」
「噂をすれば、やな。」
まろと苦笑しあってほとけの方へと走る。そこにはりうらと初兎ちゃんもいて、3人で来たのがわかる。
「おいほとけ、それ何やねん。」
「え?金平糖。金平糖って星みたいでキラキラしてて今回のイベントにピッタリじゃない?そう言ういふくんはお酒ばっかなの?」
「甘いのは好きやけど酒のつまみにはならへんやろ!お前、夜空の下で飲む酒のうまさ知らんのか!」
もはや恒例となりつつある青組の喧嘩。
それを無視してりうらと初兎ちゃんの方へ向く。
すると、りうらが少し心配そうに口を開く。
「ねぇないくん、アニキ、大丈夫かな…?」
やはり、気にかかっていたのだろう。心配させないように笑顔を作る。
「大丈夫だと思うよ。だって俺らがいるじゃん。」
「はは、何その自信。……うん、そうだよね。俺らがいるし…。大丈夫。」
最後はもう自分に言い聞かせているかのように言葉を反芻するりうら。
喧嘩していた青組もいつの間にかこちらを見て、表情が曇っている。
その空気を断ち切るようにパン!と手を鳴らす。
「さ、早く行こ!」
この空気感は、あまりにも耐えられなかった。
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アニキの家まであと10分程というところでそういえば、と初兎ちゃんが口を開いた。
「悠くん、最近心ここに在らずって感じやったけど今日星見に行くって覚えとるかな…」
斜め横から殴られた感覚になる。
その考えは完全に頭から抜け落ちていた。
「…もうすぐ着くってライン入れたほうがいいかな。」
「そうかも。」
1度立ち止まってスマホを取りだしラインを開く。
アニキのアイコンをスクロールして探す。結構下の方にあったことに自分で驚く。
こんなに個人で連絡取り合っていなかったっけ。
そういえば確かに、グループ絡みで集まって話すことはあっても2人きりで話すことは何ヶ月前だったか、と考えてしまうくらいには話していなかったような…。
(リーダー失格、かもなぁ。)
自嘲気味の微笑みが顔に張り付く。
まろだけそれに気づいて俺の方に手を置いてくれる。まるで、俺だけが悪いのではないと言ってくれるように。
いや、実際そうなのだろう。
全員、何もすることが出来ず、アニキが疲弊していることに気づくことすら出来なかった自分が歯痒いのだ。
だから、今日、人に頼るということを遠く昔どこかに置いてきてしまった彼にもう一度思い出させてやるのだ。
彼がいつから苦しくなったのかも、どれだけ苦しいのかも分からないけど。
全員違和感を感じているのだからこの線は薄いが、もしアニキが何でもなかったなら、まあ息抜きも出来るからそれはそれでいい。
とりあえず、全て吐き出させて背負っているものを俺らも一緒に背負う。それが今日の任務だ。
「アニキ、既読ついた?」
「うん。」
こんなに早く付くとは思っていなかったが。
返事は来ないけどとりあえず寝てるとかではなさそうで一安心。
大丈夫、俺達ならきっと。
根拠もない言葉だけが俺を慰める唯一の存在となっていた。
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黒side
外に出た。いつぶりだろうか。
いや、昨日も一昨日も、今日だって外出はしている。
でも、何故か外に出たのは久しぶりな気がしてならない。
「もうそろそろ、って言うてたけど…」
きょろ、と周りを見渡す。
けたたましい音が溢れていて、耳を塞ぎたくなる。
「…うるさい、」
意味をなさない言葉であるが発せずにはいられない。
「ぁ、」
遠くに、見慣れた容姿の5人組が近づいてくるのが確認できた。
荒れている心に少しだけ優しい風が吹いた。
5人もこちらに気づいて駆け寄ってくる。
「アニキ!」
「外で待ってたの?部屋で待っててくれてても良かったのに。」
「いや、それやと面倒やん。」
どこか安堵したような表情で話しかけてくる5人に、玄関で練習した笑顔を見せる。
「アニキ!アニキは何持ってくの?」
「ん、まぁノンアルジュースと団子。」
「お団子?なんで?」
「やって、月見みたいなもんやん。」
「全然違うよ!もう!僕みたいにセンスあるものにしてよ!」
「ほとけのそれはセンスのあるもんやなくて自分の食いたいもんやろ!」
「何持ってきたん?」
「金平糖だって。ほとけっちらしいよね」
金平糖、金平糖か。
確かにほとけらしいかもしれない。
「ええやん。俺にも分けてや。」
「!!うん!もちろん!」
嬉しそうに破顔するほとけと、なんでや…と訝しげに俺を見るまろ、そのくだらないやり取りを心底楽しそうに笑うみんな。
とても愛おしくて、離したくなくて、目が痛くなる。
「さ、行こうか」
雲が、出てきた。
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大人組と子供組で分かれてタクシーに乗り、ほんの数分で目的地まで着いてしまった。
「うわぁぁ!!すっごーーーーい!!!」
「星めちゃくちゃ見えるやん!すげーー!!」
「あ、あれ!オリオン座!こんな綺麗に見えるんだ!」
「はいはい、子供組〜?はしゃぎすぎないの。」
「とか言ってないこもうずうずしとるやんか。」
「あ、バレた?でもしょうがないでしょ。こんな綺麗なの初めて見るし。」
「まあなぁ、ここも東京ではあるけど、あんま来ぉへん場所やし。俺らの住んどるとこやと星なんてはっきり見えへんからな。」
「ね!はぁ〜、星で癒されることなんてあるんだぁ…!」
「おっさんかよw …ん、アニキ。ボーッとしとらんで。アニキもこっち来ぉへんの?」
「ぁ、おう…」
みんなが思い思いに叫ぶのが遠くのことのようで、それをただの傍観者のように眺めていたらまろによってそちら側へと手を引かれた。
既にレジャーシートが敷かれていて、酒もジュースもツマミも菓子も、行儀悪くバラバラに整列していた。
6人用のレジャーシート、
6人用の飲料水と軽食品、
輝いているのは、5人なのに。
「さ、座って!」
「俺が真ん中なんか…」
「当たり前じゃん!ママなんだから、俺たち子供の目を離さないでね〜」
「動物園なんやから園長が真ん中いくべきやと思うで?」
「いれいす動物園は既に閉園致しました〜。またのお越しをお待ちしております。」
「……はは、そか。ほんならしゃーないわ。真ん中お邪魔させてもらいますぅ。」
ポンポンと会話が弾んで、あれよあれよと真ん中に座ってしまった。
右は初兎で、左はないこ。初兎の隣はほとけとまろの青組。ないこの隣はりうらで、見事に色分けで座ることになった。
みんな黙って、上を見上げる。
息をすることすら忘れてしまいそうなその絶景に、空いた口が閉じない。
瞬きすら許されない。
綺麗、とポツリと落としたのは誰なのか。
やっと我に返った俺は自分の頬に暖かいものが流れるのを感じた。
あ、泣いてる、と気づいたのは、みんながこちらを凝視してる時だった。
これじゃあもう、誤魔化しようがないではないか。
「あにき…」
「あ、はは、あまりに感動してもうて、涙、止まらへんわ…」
「あにき」
「ただの星なんになぁ。心に響くって、こういうことなん…」
「あにき!」
「ッッー!」
「違うでしょ」
哀れみ
憐れみ
同情からの、
軽蔑
やめろ、そんな目で見ないでくれ
もっと、もっとちゃんとするから
いれいすという、夢の塊に相応しい、そんな輝く色を発する星に、
俺もなってみせるから…
だから、お願いだから…
「すてないで…」
こんな、何もない俺を鬱陶しいくらい勧誘してきて、まさかこちらが折れるなんて思ってもいなかった。
まさか、こんなにも夢が見られるとは思わなかった。身が切れる程の努力をして、それでも掴みきれなかった大舞台に、立たせてくれた。俺を応援してくれる声がこんなにも多くなって、ライブで黄色いペンライトを見ると何度だって嬉し咽びそうになる。あぁ、俺の選択は間違ってなかった。ないこの言っていたことは、ないこの選んだ仲間達は、信用出来る。そう思えた。色々なやつと組んで、その度方向性や意識の違いで解散し一種の人間不信になっていた俺が、心から思えた事。
この場所以外、俺が輝いてもいい場所なんてもうないのに。
俺が渇望して、やっと手に入れたこの場所を失うのがあまりにも恐ろしい。
そんなの絶対、
「ぃ、やだ…いやや、お願いお願いお願い…捨てんといて…また1人になるのはいや、もぅ、どこにも埋もれとうない……」
滲む。
世界が滲む。
光が、滲む。
届かない。どれだけ手を伸ばしても。
もう前を見るのは、辞めようか…
「埋もれさせるわけないでしょ。1人になんて、させない。」
横から優しい温もりに包まれるのが分かった。
「どれだけアニキが俺たちの元離れようとしても、俺たちは絶対アニキのこと手放さないからね。」
「そもそもさ、ないこが半強制的にアニキのこといれいすに入れたんに、手放すはずないやろ。例えアニキから離してくれって言ってもな。もし、アニキが俺らの元から離れるって言うなら、俺無理矢理でも着いてくで。」
苦笑しながらまろが言う。最後のは本音…なのだろうか。
「俺らはさ、悠くんが何に対して辛い、苦しいって思ってるのか分からん。俺らの言動かもしれへんし、リスナーさんの言葉とか、全然違うこととか。でも、これだけは言える。俺らいれいすは、悠くんおらんかったらここまで大きくなれへんかったで。悠くんは俺たちの進む道照らしてくれる、一等星や。あそこで、光る、一等星みたいな。」
初兎が指さした先には、どの星よりもいっとう眩しく光る星があった。
「今のいれいすと最初のいれいす。比べるまでもなく歌もライブのパフォーマンスのレベルも段違いに良くなってるでしょ。それはね、アニキが色々教えてくれるから。支えてくれるからなんだよ。アニキがいなかったら、僕達はここまで大きくなれなかった。大きな舞台に連れていってくれたのは、アニキの道標があったからなんだよ。」
えへへ、とはにかむほとけ。
「りうら、アニキと2人で歌うまペア、なんて呼ばれてるけど、りうらなんてまだまだだよ。アニキから学ぶこと、いっぱいある。いつもアニキが言ってる、この年でこんな経験はなかなか出来ないから感謝しろって言葉、本当に感じてる。でも、その景色はアニキと、みんなと見れて良かったって思ってる。」
アニキの身の切れる程の努力を軽く見ているわけじゃないんだけどさ、と申し訳なさそうに軽く俯くりうら。
分かってる。俺だって、あの無数に光るサイリウムを、こいつらと一緒に見れてよかったって、大舞台には、こいつらと一緒に立ちたいって思ってるから。
「ね?俺たちは、アニキのこときっと死んでも離さないよ。死なば諸共、墓場まで、って訳じゃないけどさ。初兎ちゃんが、一等星って言ってたでしょ。本当、俺もそう思う。でもね、俺は、アニキが俺たちの一等星であるように、俺たちもアニキの一等星でありたいって思うの。」
トン、と胸をないこの人差し指で突かれる。
「いっつも頼ってばっかな俺たちやけどさ、アニキが辛い時くらい、俺たちに頼って欲しいねん。泣いてもいいんよ。苦しいって、助けてって、助け求めてもええ。そしたら俺たちはどんなことしてでもアニキのこと助け出す。」
それだけで、たったそれだけの言葉で、俺の感情を塞き止めていたダムは決壊した。
「ぅ、あ、あぁ、うぁ、あぁぁ〜〜」
抑えていたものは余りにも多く、涙は止まることを知らないまま流れ続ける。
声にならない声たちは風が攫っていく。
「大丈夫。ここにはアニキのこと否定するやつはいないから。もっといっぱい、俺たちに頼って。」
ないこの優しい声。耳から胸にできていた大きな亀裂に染み渡る。
「おれ、おれっ、こ、ここに、おっても、ええの…?みんなと、隣立ってても、おかしくあらへん?」
嗤われるだけの、道化では無いだろうか。
「まったく、こんだけ俺らが悠くんが如何に大事かって聞かせたってのに、まだ分かってへんの?ここおって、ええんよ。逆に俺らの中には、悠くんがおってくれんとあかんのや。」
呆れたように、だが子供に言い聞かせるようにひどく優しい声で俺を肯定してくれる初兎。
「アニキがりうら達のこと家族って言ってくれたんじゃん。りうら達がアニキのこと家族って思ったらダメなの?」
あぁ、あぁ、りうらが、最年少でまだまだ子供だと思っていたりうらが、こんなにも頼れる大人になっていたなんて。
俺の臆病な心が、こいつらを見るのを諦めていた。
捨てないで欲しいなんて願いながら、捨てようとしたのは俺じゃないか。
「っおれ、みんなが俺に出会って、毎日支えられてる、とか、リプとかDMで言ってくれて、いつも、あぁ、やってて良かったって思えるのに、たまにっ、ほんとかなって、疑ってまって、そんな俺が、俺自身が嫌で、」
うんうん、と、それ以上のことは言わずにただ黙って聞いてくれる優しさが本当に暖かい。
こんなこと、こいつらに言うのは違うだろって、分かっているけど。
それでもここまで吐き出してしまうと、もう頼ってしまいたくて。
「もう、なんにもやりとうなくて、やる気も起きんくて、っ、きえて、しまいとうてっ、」
素直な気持ち。
初めて伝えた、「辛い」「苦しい」。
正直、怖くてたまらない。こうなった時はいつも、1人で過ぎ去るのを耐えてたから。
「ありがとう。教えてくれて。」
返ってきたのは非難する言葉じゃなくて少しの心配と安堵の混ざった言葉だった。
「アニキ、全然俺達のこと頼ってくれないからいつも気づけなかったけど、いっぱい我慢してきたんでしょ?だから今日、俺たちに弱いところ見せてくれて凄く嬉しいよ。」
「ないこ…」
「アニキ!口開けて?」
「…?」
「はいっ、あーん!」
唐突に言われた言葉に疑うことなく従うと、から、という軽快な音と甘い味が口内に広がった。
「えへへ、金平糖、美味しいでしょ?」
歯を見せて自慢気に笑うほとけ。
「辛い時はさ、無理せず好きなことしようよ。自分にちょっと甘くなってさ、美味しい物食べたりゲームしたり。アニキの場合は歌歌うことかな?そうしたら自然と、自分のやりたい事、やってる事、その行為が誰かのためになってるって気づけるよ。」
こんなにも単純なこと、やっと気づけたなんて。
やっぱりこいつらは、眩しいなぁ。
「俺、みんなと一緒に輝けとる?」
「あったりまえじゃん!!”悠佑”は誰よりも明るく、強かに輝いてるよ。」
星がよく見える。
その輝きは、何よりも美しかった。