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「重い、重すぎるのよ! どうなってんの!?」

「そりゃあ、重量増して、魔法使ってんだから、当たり前だろうが。お前も試してみれば良いじゃねえか」

「絶対無理だからあ!」


受け止めた、アルベドの剣は、同じ大きさなのにかかわらず重くて、ギリギリと痛い金属音が目の前で響いていた。どうして、そんなに重量があるのか。見た目からは分からなかったけれど、そのひとふりが重いことに気がついた。

アルベドは、重量を増した、と言っていたが、そんなことが可能なのだろうか。

受け止められると思った私が馬鹿だったと後悔した。このまま横になぎ払うことが出来れば、どうにかなるのだろうが、仮になぎ払えたとしても、次の攻撃が来る。だから、なぎ払った後に、どんな魔法を使うか、それか、押し返すことが出来なければ、勝ち目がないのだ。

全く、訓練だというのに、本当にただの戦闘ではないかと思ってしまう。


(イメージがぶれないって事なんだろうな。二重に魔法を掛けても、全然ぶれないから……意識をどれだけ研ぎ澄ませれば、そうなるの)


こなしてきた場数が違うこと、そして、魔法のことを知り尽くしているアルベドだから出来る工程だと思った。私にはとてもじゃないが真似できない。

感覚で真似できれば、それまでの話なのだろうが、生憎この状況で、反射で出来るわけが無いのだ。


「うぐぐ……」

「え、エトワール様!」

「アルバ大丈夫だから。それに、アルバが、手を出したら、訓練にならない!」


後ろの方で、アルバが慌てふためく声が聞えたが、私はそれどころではなかった。でも、助けてもらおうにも、別にこれは本当の戦闘じゃないし、自分で切り抜けなければならない気がしたのだ。

アルバには悪いけど、これは私の戦いだから。

そう、言い聞かせて、私はどうにかアルベドの剣を押し返そうとする。でも、力さがあって、びくともしない。


「このままだと、お前押し切られるぞ?言ったみたいに、魔法を付与しろよ。それでも聖女かよ」

「聖女よ、後笑わないでよ。私だって、必死になってるんだから。アンタみたいに、戦闘慣れしてないだけなの!」

「あっそう」

「ひっ、さらに重い……!」


アルベドは、笑っていたが、一瞬にして、真顔に戻ってその闇色の剣にさらに魔法を付与し、私は、押されてしまう。重量が違う。私は、自分が持つために、軽い剣を選んだ。魔法はイメージが継続できれば、折れることが殆どない。だから、普通の剣だったら、この攻撃を受けて、折れていただろうと思う。それは良いのだが、重量の違いで、どうも押し返すことが出来なかった。


(そもそも、どうやって、重量加算するのよ!? 重くなったら持てないし……)


思考を巡らせるが、良い方法が思いつかなかった。自分が持てない剣を生成するんじゃ意味ないと。だからこそ、ためらっていたのかも知れない。

目の前のアルベドは、つまらなそうに、私を見ていた。何か言いたげに。


「何か言いたいことでもあるの!?」

「ああ、言いたいことは一杯あるぞ。これじゃあ、話にならねえとか」

「悪かったわね!」

「まあ、怒るなって。お前は一つ勘違いをしているんじゃないか?」

「勘違い?」


私が聞き返すと、アルベドは、コクリと頷いた。

勘違いとは、何を勘違いしているのだろうか。ヒントをくれる余裕があるアルベドは腹立つことこの上ないが、ここは、聞いておくのがベストだろうと、私はアルベドを見つめ返した。


「重量増やしたら、自分が持てなくなるっていう考え方がまず間違いだ。そもそも、魔法はどうやって発動するんだよ」

「魔力と……イメージだけど、それが何か?」

「そう、イメージ。イメージさえあれば、魔法は自由自在にその形を変化させることが出来る。感情と、イメージ、それら全て魔法に影響を与えることが出来る素材なんだよ。だから、つまり?」

「つまり……そうか、自分が持てる剣の重さと、相手に与える重力と別々に考えれば良いって事……だよね」

「ああ、そういうことだよ。やってみろよ。エトワール」


上から言われたのは腹が立ったが、私は、アルベドに言われたとおり、イメージを膨らませた。魔法の根本的な発動の仕方を忘れていたからだ。

イメージさえあれば、魔力がある限り、どんな魔法でも発動、再現が可能なのだ。そこが、此の世界の魔法のルールであり、良いところでもある。難しい呪文を覚えるとか、そういう過程がないからこそ、何処までも、イメージで強くなれるのだ。

私は、自分が持つ分には軽く、そして、相手には金属のように重い攻撃をとイメージする。すると、少しだけ、剣が重くなった気がしたが、その重量はあまり変わらず、アルベドの攻撃と互角程度に持っていくことが出来た。本当に、持った重量と、見た目が変化したのだ。


「やれば出来るじゃねえか」

「こ、このまま押し切る!」


額から汗が流れる感覚がしつつ、私は、このまま押し切れればと思って柄を握る手に力を入れた。そうして、ギリギリと音を鳴らしながら、こちら側が優勢に見えたが、アルベドはカキンと剣を横に振るった。

私は、その衝撃で前へ頭からつっこみ、地面に倒れる。その衝撃で光の剣は消滅してしまった。


「いったぁ……!」

「は、ハハッ、頭から突っ込む奴がいるかよ」

「分かってたんなら、受け止めてくれても良いじゃない。酷い。私のことなんだと思ってるの!? こっちは、真剣だったのに」

「悪い、悪い。そりゃあ、押し切られるなら、その力を横に流した方が適切だと思ってな。いやあ、お前のその根性には、大分圧倒されたぞ」

「絶対誉めてないし、笑ってるでしょ。分かってんだからね」


私がそう言ってやれば、アルベドは、悪びれた様子無く、クククと喉を鳴らしていた。確かに、アルベドならそうすると、冷静であれば分かっただろう。私が出来なかった剣を払うという動作はアルベドには出来たのだ。でも、私は力のまま剣を振るった。だから、その力を霧散できずに、前へと倒れたわけだ。

冷静さが戦闘中に掛けるのは、かなりの欠点だ。

私は、服についた土埃を払いながら、立ち上がってアルベドを見た。まだ、若干笑みが残っているアルベドの顔を見ながら、私は、次に行こうと目で合図を送る。

今のは、魔法の使い方を一つ学んだだけだった。これだけじゃ、戦場に出たとき足手まといだと思う。他にも、アルベドから吸収できるところは、吸収しないとと思ったのだ。


「まだ、やんのか?」

「当たり前でしょ。それに、まだやれるし。今ので終わったとは思ってない」

「その根性、嫌いじゃねえけど、女に思えねえんだよな」

「ド偏見過ぎるのよ。失礼だし……その口いつか縫い付けるから!」


ビシッと、指させば、何が面白いのか、アルベドは再び笑って、私の元に近付いてくると、頭を乱暴にポンポンと撫でた。子供扱いされているのかと、頬を膨らませば、少しだけ顔を赤らめて、ニッと笑う。悪戯っ子のような笑みに、私も拍子抜けして口が開いてしまった。


「間抜け面だな」

「だから、口悪すぎるの、失礼すぎるの! 後、子供扱いしないで!」

「子供扱いなんてしてねえよ。ただ」

「ただ?」

「何でもねえ。次やるか。俺も時間が無いんでな。時間は有限だろ?」


と、アルベドは私に言ってきた。


時間は有限。その通りである。いつ、ラジエルダ王国に攻めるのか分からない今、少しでも強くなって、足を引っ張らないようにしないと、と。

私は、アルベドと再度向き合って、フッと笑ってやった。

アンタの技術を盗んでやるから。そんな意味も込めて。

乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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