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なあ
2,015
♡ - ♡ - ♡
「ん、すち何見てんの?」
ひまちゃんが俺の携帯を覗いてくる。俺のスマホには吐きそうなほど甘い言葉が散らばっているトーク画面が照らし出されてて。
「あ〜、またみこと?お前ほんと懲りねぇな。笑」
「…うるさいよ」
みこと。その名前を耳にするだけであの子の声と顔が鮮明に俺の頭に浮かび上がってくる。天然なところもちょっとおばかなところも、全部。それはきっと、半年経った今でも変わってないんだろうななんて無駄な妄想をしてしまう。
「……みこちゃん」
無意識だった。本当に無意識。
「ぅわ、重症じゃねぇか。笑」
半年前に別れた恋人、みこちゃん。今もたまにメッセージでやり取りするくらいの仲。
別れたのに、なんでまだやり取りしてんのって思うかもしれないけど。そんなん俺だってわかんないよ。だって喧嘩別れでもなければ、みことちゃんの事を嫌いになりたい訳じゃないんだもん。
…よく分かんないな、感情って。
そんなことを思いながら、 自宅の鍵を開ける。玄関にはまだ、あの子が好きだった香水が置いてあって。少しあの時のことを思い出しながら、靴を脱いでゲームチェアに座った。
今日は依頼されてたイラストを完成させないとなので、結構長丁場になりそうだ。思考がまとまらないまま、俺はデジタルペンを握った。
「ん”〜〜、」
軽く肩を伸ばして、描き始める。
描いてる最中も、あの子の全てが頭から離れなかった。でも現実は俺の思考にペースを合わせちゃくれなくて、時間だけがどんどん過ぎていくだけ。
そんな時間すらもどこか愛おしく感じてた日々を思い出しながら、なんとかイラストが完成した。
達成感と共に寝る準備をしていると、スマホのバイブ音が机の上で鳴り響く。公式ラインとかだろうと思いながらスマホの画面を見ると、そこには見慣れた猫のアイコンと、気だるげで可愛い文章。
『すちくん起きとる?』
それだけ。たったそれだけで、俺は救われたのかもしれない。すぐに通知を押してしまった、トーク画面が晒し出される。
「…すぐに返信したらきもいかな。」
「でももう既読つけちゃったし…」
流石に既読スルーは申し訳ないので、何か送ることにした。ただ、その肝心の何かが決まらない。
起きてるよって普通に返せばいいのかな?でもそれだと素っ気なさすぎ?スタンプは可愛いけど会話終わっちゃいそうだし…。んん、もう普通に起きてるよでいっか。
『起きてるよ』
送った。送ってしまった。そもそも何のために連絡してきたのだろうか。思考が頭の中を辿ってる時、ピコンと無機質な音が俺の心臓の音でうるさい脳内に2回響いた。
『んわ!良かった。』
『お友達が来れなくなちゃって、明日水族館一緒に行かへん?』
それを見た瞬間、一瞬脳がフリーズした。
水族館。スイゾクカン?一緒に?みこちゃんと?2人っきりで?
頭の中がこんがらがる。そもそもお友達が来れなくなったとして俺を誘う意味あるのか。元恋人とデート…いや遊びに誘ってくるなんてどんだけ鈍感なんだこの子は。そんな考えが色々浮かんできたけど、答えはもう俺の中で決まっていた。
『いいよ。どこの水族館?』
その後は、いつも通り?というか、みんなが話すであろう集合場所とか、時間とかを決めて、夜は更けてった。
翌朝。俺は思いっきり寝坊した。せっかくみこちゃんと久しぶりに会うのに、髪のセットも、かっこいい服も着ていない。
付き合っていた頃は、それが当たり前で特別だったのにな。
そんなことを思いながら、水族館の中に入る。チケットが売られているところの横に、見覚えのある人物像があった。
「わ、すっちぃ。 久しぶりっ、笑」
にへっと柔らかい笑みを浮かべる君。昔なら可愛いとか言っていたんだろうな。笑
「ん、久しぶり。チケットってもう買ってある?」
「今からっ!」
並ぼ並ぼと言って、俺の手を引っ張ってきた。その行動すらも、昔を思い出させて。
それからは何だか一瞬だった。
クラゲを見たり、カニも見たり、イルカショーを見てびしょ濡れになったりして。
そのかけがえのない瞬間だけは、昔に戻れたような気がした。
『お魚食べたくなってきたなぁ』
『え、食べるの!?笑』
とかいう馬鹿らしい会話も、全部。
水族館を出たとき、夕方に入館したからか辺りはもう暗かった。夜風の肌寒さと、無機質に光る街灯が俺らを急かしているような、そんな気がして。
でも、俺らは2人とも言い出せなかった。何も話していなかった。隣を歩いているだけ。もう、何でもない関係性なのに。こういう何でもない時間が、続いてくれることが嬉しくて。もっと、この時間が永遠に続いていけばいいのにと願ってしまうのは、俺だけ何だろうか。…いや、違うと思っていよう。
…寒くなってきたから、帰る?って聞いた方がいいんだろうけど。
ちら、とみこちゃんの方を見た。俺の視線に気づいたようで、目と目が合った。その瞬間、口が勝手に動いてしまっていた。
「ッみこちゃ、」
俺の方をキョトンとした顔で見てくる。言ってしまった。発してしまった。でも、言ってしまったのにはもう止まれなくて。
「…っその、」
「もうちょっと、どこかで時間潰さない?」
「…でももうカフェとか閉まっとらん?」
確かに、そうだ。時間を潰せる都合のいい店は、この時間やっていないことがほとんど。でも。それでも。
「……ほら、あそことかでさ」
自販機の横にあるベンチを指さす。水族館帰りにしてはちょっと暗い場所。でも、一緒にいる理由作りには十分だろう。
「…コンポタ好きだったでしょ、奢るからさ。」
「…んふ、えーよ、?」
「!……ん、やった。」
ちょっと嬉しさが声に滲み出てたかもしれないが、関係なかった。1秒でも、このこといる時間を伸ばしたかった。
成人男性2人が夜に道端のベンチで無言でコンポタを啜っている。側からすれば変かもしれないが、その”変”すらも俺の中では特別に変換されていく。
「…みこちゃん、口についてるよ。髭生えてる。笑」
くす、と揶揄う様にして笑うとみこちゃんは照れたように口元を拭って。その姿が、どうしようもなくって。どうしようもないほど。
「…可愛い、笑」
と言うと、照れながら拗ねてくる。その姿すら可愛くって。
次の瞬間、みことちゃんが俺の服の袖を掴みながら小さな声で、喋り出した。
「…なぁ、すち。」
「俺、やっぱり……」
「すちのこと、忘れられへん…」
「っえ、」
時間が止まったかと思った。まだ、ちょっとの情でたまにメッセージのやり取りをする関係。そう、思っていると思っていた。
その言葉を聞いた瞬間、とんでもなく嬉しくって。俺だけじゃなかったんだって、どんどん救われる気がしてって。
「…俺も。」
この言葉を交わした時から、いや、もしかしたらその前にも。俺は既に甘い嘘によってコントロールされていたのかもしれない。
♡ - ♡ - ♡
「それで?急に呼び出してどうしたん、みこっちゃん。笑」
「すちくんと復縁したんよ、!笑」
「ふーん。良かったやん。」
「へへ、なっちゃんも協力ありがとうな!笑」
「ん、俺はお前の考えてることが怖いわ。」
「純粋なすちくんは気づかんよ、永遠にな」
「やって、ずぅーっと俺だけの掌で踊る子羊ちゃんやもん…笑♡」
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コメント
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うわ、読んだ読んだ!第1話、めっちゃ良かった…! 元カップルが水族館で再会する流れ、すごく自然で「ああ、こういう距離感あるある」って思った。主人公の未練がましいけど素直になれない心情描写が繊細で、特に「コンポタ奢るからさ」って無理やり時間伸ばそうとする感じ、胸にきたよ。 で、ラストの「掌で踊る子羊ちゃん」のオチ。あれ一瞬で空気変わったよね。最初から“甘い嘘”って伏線貼ってあったのか…やられた、って感じ。設定の組み立てが巧いなあ。続き、どう転ぶのか気になる!