幕府会議室の中は、煙草の煙とともに重苦しい空気に包まれていた。幕府の重臣たちが集まり、進むべき道を討論している最中、その中でただ一人、吉良上総介の死を報告した者がいた。
「加藤清政、あれはどうするつもりだ? 我々の手の届かないところで暴れ続けるつもりか?」
その言葉に対し、誰もが言葉を発することなく、重く黙っていた。加藤を討つため、数々の精鋭が送り込まれたが、どれも失敗に終わっている。その上、加藤が雅也と手を結んだという情報が広がっていた。さらに、橘真治という異能を持つ若者が、その動向に加わっているという噂まで流れていた。
「どうする、どうするんだ、幕府は!」一人の老武士が怒鳴った。
その時、突然会議室の壁が切り裂かれ、明るい光が一瞬にして広がった。全員が驚き、身を震わせた。
「お待たせ! みんな元気してるかー?」
声を上げたのは、予想もしていなかった雅也だった。彼はにっこりとした笑顔を浮かべ、空気を一変させながら堂々と会議室に登場した。破られた壁の向こうには、彼が切り裂いた部分が残されており、その開いた穴を通り抜けて登場したその姿に、誰もが唖然とした。
「えっと、幕府の会議を邪魔しに来たんだよ~。雅也。覚えてる?」
雅也の声が響き渡ると、会議室にいた幕府の重臣たちは全員、顔色を失いながら彼を見つめた。雅也が入ると同時に、会議室の空気は急激に変わり、誰もがその状況に呆然としていた。雅也の不意打ちに、何も言葉が出ない。
その後ろには、加藤清政が堂々と立ち、手には光を放つ天雷剣を握りしめていた。雅也の横には、淡い微笑を浮かべた橘真治が立っている。彼はその場に現れると、会議室の空気をさらに緊迫させた。
雅也はさらに一歩前に出て、会議室の中央に立つと、もう一度その可愛らしい笑顔を向けた。
「今日は、みんなにちょっとしたお知らせがあって来たんだ。幕府の皆さん、いまやってるその会議、実はもう全部見せてもらってるよ? だって、いい場所に穴開けちゃったから。」雅也はにっこりと笑って言った。
加藤がその背後で、無言で天雷剣をゆっくりと振るった。その刃先からは微かに雷鳴のような音が響き、会議室の空気が一層重くなった。
「私たちは、もはや幕府の手のひらの上に乗る気なんて、サラサラない。」雅也は、まるで遊びのように言葉を続けた。「だから、今日は幕府の決定を改めてもらおうかと思ってね。私たちの“新しい道”がどうなるのか、みんなも見ておいてくれる?」
会議室の重臣たちは、怒りや恐れの表情を隠せなかった。これだけ大胆な行動に出てきた雅也たちに、何を言い返しても無駄だと理解している者もいた。
「お前らが倒幕を進めるなら、こっちも同じように進むしかないってわけだ。」加藤が冷徹に続ける。「私たちが新たに作るのは、幕府に代わる新しい秩序だ。お前らにはその役目はない。」
橘真治は、静かに雅也の横で言葉をつなぐ。
「幕府の役人たちよ。あなたたちが持つ力は、もう私たちには通用しない。」橘は淡々と話しながらも、その眼差しは鋭いものを放っていた。「異能を持つ者たちが力を持つ時代が、今まさに始まろうとしているんだ。」
その言葉に、会議室の空気が一層重くなった。橘の言葉はただの挑発ではない。彼の異能はすでに広く知られており、過去の戦いでその強さを証明していた。
「君たちが抱えている全ての力を使っても、私たちには届かない。」橘は少し微笑みながら言った。その微笑みは、まるで勝利を確信した者のものだった。
会議室の中は静まり返り、幕府の重臣たちも言葉を失った。その時、どこからか震えるような声が響く。
「では、何をしようというのか?」
雅也はその声を軽く無視し、さらに自分の考えを告げた。
「幕府の動きを完全に止めてみせる。少し時間がかかるけど、確実に終わらせるつもりだよ。」雅也は両手を広げ、笑みを浮かべた。「ここで君たちがどう出るか、興味津々だね。」
加藤と橘が、静かにその場に立つ。その背後には、雅也の指示に従うため、数十人の異能者たちが控えていた。
その時、会議室内で暗い気配が漂い始める。幕府の最後の抵抗が始まろうとしていることを、誰もが感じていた。