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「なあ、悪かったって」
「……」
「エトワール」
「……」
「どうしたら、機嫌直してくれるんだよ」
何この、喧嘩したカップルみたいなの。
発端は、私だし、でも悪いのはアルベドなんだけど、綺麗な顔に紅葉型の手形をつけたまま歩かないで欲しい。私がやったのがバレバレだから。
アルベドの発言に別にそこまで怒っているわけではない。自分が乙女じゃないっていう自覚もあるし、その言葉があまり馴染まないなあとは思っていたんだけど、あそこまで、はっきりいう必要があった? とは思っている。いや、本当に怒っているわけじゃない。冗談じゃなくて。
「もう」
「エトワール?」
「怒ってないから」
「だが、それは、怒ってる奴が言う台詞だよな?」
「そう言うところが、怒らせてるって言ってんの!もう、怒ってないから、へこへこしないで」
アルベドがそのへりくだってとか、そう言うのが似合わない人間だから、されると気持ち悪かった。別に、高圧的な人間でもないけれど、高貴ではあるし、荒々しさの中に、レディーファースト精神がないわけじゃないし。でも、暗殺者だし……
色々思うところはあったけど、そこまで私に気を遣わなくて良いと、そう言いたいのだ。私のことを思ってくれるのは嬉しいけど、そんな、何か違う。
私がそう言えば、アルベドは、スンと顔から感情をそぎ落として「へいへい」なんて、冷めたような返事をする。だから、さっきの事をつついてやろうかと、私はそういえば、と話を始めてみた。
「そういえば、なんで勝てないの?」
「唐突だな」
「唐突じゃないわよ。さっきの話の続き!フィーバス卿になんで勝てないのって」
「お前、本当に傷抉るの上手いよなあ……才能あると思うぜ」
「誤魔化さないで!」
よっぽど言いたくないらしいっていうのは分かった。アルベドの聞かれたくないランキング三位ぐらいには入るだろう。ラヴァインの話とかも入るんだろうけど。
本気で、いいたくない、なんで聞いてくるんだ、見たいなかおをしてアルベドが睨み付けてくるので、私は「別に話したくないなら良いけど?」と、挑発するようにいってみる。すると、アルベドは、んぐっと、何処から絞ったのか分からない声で、頬を引きつらせていた。
だって気になったんだから仕方ない。これから、あう、フィーバス卿がどれだけ強いのかって気になるし、強さがあって、それから性格が……とか、今の私には、そう言った情報からしか、フィーバス卿のことを考えられないのだから。
エトワールの姿は、可愛い寄りより、綺麗よりだと思っていたが、案外ツインテールも似合うなあ、なんてアルベドが答えてくれるのを待つ間、自分の髪を弄っていた。アルベドみたいに、ストレートじゃないから、ふわっふわなツインテールだけど。
「相性が悪ぃ」
「それだけ?」
「ああ、それだけだよ。それが勝てない理由だ。彼奴の魔法は、隙がねえ。さっきも言ったが、かてえんだよ。どうしたら、そこまでかたくできるのか、謎なぐらいな。勿論、教えて貰う何てことしたくねえし、言ってもくれねえだろうが」
「成る程」
「これで満足か?」
「アルベドの、魔法と相性が悪いってことよね。アルベドの魔法の良点は、早く鋭いってことだろうから……」
「おい、勝手に分析を進めるな」
魔力の密度、と新たな言葉を聞いた気がして、私はそれについて考えた。
自分が、自分の力を持て余しているって思っているからこそ、人から盗める技術は活用していきたい。もし、フィーバス卿が、仲間になってくれたら、その堅い魔法について学びたいと思った。アルベド曰く、口も堅いみたいだけど。
(私の魔法の欠点って何だろう……威力が弱い……とか?)
いやいや、聖女の魔力なんだから、威力が弱いわけがない。でも、アルベドや、ブライトみたいに魔法が出せないのは理由があるんだろう。自分は、イメージ力があると思っていたけれど、そうでもないみたいだった。もしかしたら、此の世界の想像力と、私の想像している想像力というのが違うのかも知れない。そこの、ズレもあるから、100%の力が出せていないのだとしたら……?
「アルベド、私の魔法の欠点って何だと思う?」
「また、急にだな。分析でも始めてんのか」
「そりゃ、戦っていくって考えたとき、アンタの足を引っ張りたくないから。いったじゃん、逃げないし、信じてもらえるように頑張るって。だから、やっぱり、強くならなきゃって思うんだよ……そう思って普通じゃない?」
「まあ、いわれてみればな」
と、アルベドは、目をそらしていう。少し、気乗りじゃないなあって言うのは分かったんだけど、その理由までは聞かなかった。アルベドの中できっと、私は守らないといけない部類に入っているからだと思う。そこを否定したらいけないって分かっているから、あえて何も言わない。
でも、アルベドから盗める技術だってあるし、魔法に長けている彼に、私の魔法の欠点を教えて貰うって正しい事だとは思うんだけどなあ……
「威力か」
「威力。うん、アンタ達と比べて、私の魔法威力というか、何か、ドカーンってしたものがないなあと思って」
「その考えから、アウトじゃねえか。ドカーンって」
アルベドは、小学生を相手にしている大人みたいな目で私を見てきた。確かに、今の表現は子供っぽかった気がする。そんな、冷ややかな目を向けられたのは、今日が初めてじゃないし、アルベドだけじゃなくて、グランツや、ブライトからもそんな目を向けられたことがある。思えば、リュシオルに常日頃から、子供っぽいって言われるから、こういうことのことなんだろう。
反省しているけど、治せるかと言われたらすぐには治らないだろう。
(って、それは良いんだけど!)
何処まで、想像できるか、イメージできるかって、言われたら、今の表現では、全くイメージできていないって思われるかも知れない。そこから、治すのは至難の業というか、時間がかかるし、もっと、具体的なところ、なんで威力がないのか。イメージだけの問題なのか。
「威力の問題は、イメージ不足っつうか、どっちかっていったら、魔力を込めるタイミングか」
「魔力を溜めるタイミング……成る程」
「ほんとに分かってんのか?」
「続けて」
分からないから、それを悟られないように、私は早く言え、とアルベドを急かす。まあ、多分バレているんだろうけど、ここでまた言い合いになっても仕方ないと思ったのだ。アルベドは、頭をかきながら続ける。
「レヴィアタンとの戦いを思い出してみろよ。あの時の槍、槍を生成するときはそれなりにイメージと魔力を使った。だが、振り下ろすときは魔力を込めず優しく手を振り下ろすだけでいい。そして、ターゲットにぶち当てるときだけ、魔力を込める。まあ、この一連の流れを、より細かくしていけばいいが……そう簡単にはいかねえよな。お前だし」
「最後の一言いらない。でも、確かに、最初と最後だけ魔力を……ううん」
言っていることは分かるし、それが正しい使い方っていうのも、理解できた。でも、実際其れができるかと言われたら、やはりノーである。実践あるのみなんだろうが、そう何度も戦闘に立ち会うわけじゃないし。いやだし……
「まあ、一番の問題は、聖女の魔法は、普段使い向きじゃねえってことか」
「え?」
「そもそも元が、強力な魔法、持っている魔力の桁が違うせいで、一回の魔法に使う魔力が、普通の人間よりも多くなる。無意識のうちにやっちまってんだから、きっと、直良ねえと思うぜ」
「普段使いに向いていない魔法」
そうかも。
納得は行く。聖女っていうネームドだから、魔法が、普段使い向きじゃないって。だって、本来なら、混沌を倒すために与えられたような力だから。だから、コスパが悪いというか、燃費が悪いというか。
(根本的な解決になってないけど!)
「そっか……じゃあ、今まで通り、魔力が枯渇しないようにするしかないってことね」
「まあ、抑えられるだけ、抑えればいいとは思うが、お前がそれを出来るかどうかだなあ」
「うーん、精進します」
私は、まとめるようにそう言った。
冷たい空気が流れる、街のなか、私達を気にする人はいなくて、静かに馬車が走っていく。そんな大通りで、私はふと、見慣れた色の馬車を見つけた。真っ白な馬車、黄金の装飾がしてある、ただの貴族じゃない……ううん、皇族の馬車を。
「……っ」
ほんの一瞬だけ見えてしまった、中の景色、人に、私は大きく目を見開いた。
「りー……す?」