さようなら。
流れゆく景色はハリボテみたいだった。
このまま電車に揺られてどこまで行くのかなんて自分ですらも知りえなかった。
気づいたら銀河を走っているのか?気づいたら存在しない駅に着いているのか?気づいたら自分の番が来ているのか?否、行先に夢などなく、あるのは終点だけである。
忘れたい思い出がありました。
「さようなら、どうか、忘れてください」
忘れてください。多くは望みません。
あなたが忘れなければ、私だって忘れることが出来ないでしょうから。
別れなんてものはいつも唐突で、前触れなんて何もなかった。私の存在ごと常識から切り離された気分だった。
いくら寝ても終点に着くことはなかった。電車は変わらず揺れ続けるだけで、何も変わっていなかった。
何も変わっていなかった。全て。
携帯も圏外というのを示し続けているだけだった。
悟った。夢幻の類は存在したのだと。
忘れてください。これは全て私の幻だったのだろうと思います。
私が信じるのですから、あなたも信じてください。
最初は絶対に夢だと思っていた。いくら頬をつねっても、舌を噛んでも、足を叩いても、痛かった。
景色はもう何も見えなくなっていた。外側からねずみ色のカーテンを付けられているみたいだった。
お願いです。忘れてください。
あなたに言っています。忘れて。
私はその存在を知っている。所謂都市伝説だと思っていたというのに。実際に存在したなんて、誰が予想出来たのだろう?
やっと止まった駅の名前は、きさらぎと書いてあった。一文字の狂いもなかった。
やめて。
駅に降り立った際に転んで、まだ現実だと、まだ生きていると、感じさせられた。
やめて。
重い足を必死に前に動かしているうちに電車は消えていた。帰れなくなってしまった。
お願いだから。
きさらぎ駅という都市伝説自体は知っているが、存在がどういうものなのかは分かっていない。
ねえ!
体験したと思っている人が広めた怪談なのか、インターネットで誕生したフィクションなのか、クリーピーパスタなのか、集団で見ている幻覚なのか。あるいはただの噂話から本当に生まれてしまったのか?
やめろ。
または。こちらの常識が通用しない世界?別の世界とでも言うのか?可能性があるとすれば、黄泉の世界?
空は雨上がりの空みたいだった。駅の周りの草むらから虫が鳴いていた。風は冷たかった。夜みたいだった。駅は古かった。長らく使われていないように思えた。人はいなかった。遠くは暗闇があるだけだった。この虫は鈴虫?蛙かもしれない。空は世界が終わるときみたいな空だった。駅の周りの草むらから虫が泣いていた。風は私の体に少しの浅い傷をつけた。夜だった。駅は壊れそうだった。あれから電車なんて来ていなかった。人は私しかいない。一寸先は闇だった。この虫は蟋蟀?蛙でもい
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
さようなら、どうか、忘れてください。
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タチバナ