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「コンガマトー討伐……っと。
オトヒメさんの話じゃ、彼女やその子供を
追いかけてきたって話だが」
「はい。
彼女も子供の頃、襲われた事があった
そうで―――
自分が生息地から子供ごと離れたから、
探してやって来たのだろうと」
冒険者ギルド支部で、公都『ヤマト』を襲撃した
飛行型の魔物を撃退した、その詳細を報告する。
「そういや、アルラウネのプリムさんを
追いかけて、ハニー・ホーネットが
来た事があったッスね」
「あっちは敵じゃありませんでしたけど」
ギルド長の後に、次期ギルド長とその妻が
会話に入って来て、
「もう人間だけの住処じゃねえからな。
それなりに不都合な事も起きるだろう。
それが共存するってこった」
アラフィフの筋肉質の男が、軽くため息をつく。
「しかし、ここは常時2体のワイバーン……
『ハヤテ』さん、『ノワキ』さんがいるッス。
その彼らの目をかいくぐって来たというのは」
レイド君が両腕を組んで考え込むが、
「王都や海岸の拠点のように、常に警戒に
あたっているわけじゃありませんからね。
この前、ランドルフ帝国との接触も終わって、
一息吐いていたところでもありますし」
彼らを擁護するように私が説明する。
「シンの世界じゃ―――
こういう場合どうしてんだ?」
黒髪・褐色肌の青年と同じように両腕を組んで、
ジャンさんが聞いてきて、
「レイド君の範囲索敵と同じような性能の
道具がありましたから。
それをずっと点けっぱなしにして、警戒して
いましたね」
「まあ道具なら疲れないでしょうけど……」
ミリアさんが微妙な表情になって感想を述べる。
「ハーピーあたりに周辺警戒頼むか?」
「そうッスねえ。
何らかの報酬を用意して―――」
「地上からも上空警戒を……」
その後、ギルドメンバーで話し合いが行われ、
具体的に話が固まったところで、公都長代理に
案件が持ち込まれる運びとなった。
「なかなか帰って来ないと思ったら、
そんな事を話し合ってたの」
「でもまあ確かに、人間だけでなく―――
人外や亜人まで狙って来る魔物は厄介
だからのう」
「ピュイッ」
夕方、屋敷に戻った私は今日の事を家族に
報告する。
「まあめったにある事じゃないと思うけど、
だからと言って放置出来る問題じゃ
ないからねー」
黒髪セミロングのアジアンチックな方の
妻が、飲み物を口にしながら語り、
「空から地上へはほぼ一方的に仕掛けられる
からのう。
我やワイバーンたちのように、元から
高い土地に住んでおれば別だが」
「ピュウゥ」
抜群のプロポーションを持つドラゴンの方の
妻が、飛行能力を有する者として語る。
「そういえば、ドラゴンの子供たちは
大丈夫かな」
以前、今年の猛暑対策の相談を受けた際、
結局はあちらの巣にワイバーンと同様、
人間の拠点を設ける事にしたのだが―――
(■170話 はじめての どらごんのす
■171話 はじめての こどものくすり
(どらごんよう)参照)
「氷魔法の使い手と料理人が派遣された事で、
冷たい料理も振る舞えるようになったし」
「魔導具も送られたからな。
今年の夏はひとまず安心であろう」
その話を聞くとホッと一息つき……
誰からともなくラッチを撫で始めた。
「ゾルタン様。
そろそろお昼の時間でございますが……
何かご希望の料理はございますでしょうか」
ウィンベル王国王都・フォルロワ―――
その王宮の一室で、ゾルタンと呼ばれた
男は振り返る。
「あ、いや……
ここの料理は何でも美味なのでな。
次はどのような物を食べられるのかと
楽しみにしておる」
「料理人たちにお伝えしておきます。
さぞかし喜ぶでしょう。
ですが、全てお任せと言われましても……
そうですね、温かい物か冷たい物か、
どちらかのご希望はありますか?」
そこで彼は一度天井を見上げ、
「うむ、それなら……
あのメン類と呼ばれるもの以外で、
熱くない料理はあるだろうか?
いや、ここは温度も快適に保たれて
いるのだが、興味があってな」
「熱くない料理―――
麺類以外で、ですね?
かしこまりました。
それでは失礼いたします」
執事ふうの男は一礼すると、そのまま部屋から
退出し……
ランドルフ帝国武力省・副将軍の彼は一人
部屋に残される。
そこでソファに腰かけると、用意された
少し酸味のある果汁が入っている、冷たい水を
自分でコップに注ぐ。
「使用人すらいない……
つまり、監視の目は無いという事。
氷は日に何度か補充され、中には
お湯を出す魔導具もあり―――
風呂まで付いている」
部下たちにも聞いたが、どこも同じような
設備だという。
さすがに外出には制限があるものの、
何かを禁じられるという事も無く、
部下の中には案内人付きで―――
王都の料理店を食べ歩いた者もいると聞く。
一応、事情聴取のようなものは受けたが、
その際こちらから、もし帝国の船団が『捜索』に
来たら自分たちに事情を説明させて欲しい、
という要望はあっさりと通り、
あちら側からは、
『船での生活はどうでしたか?』
『病人が出たらどうするのですか?』
『この前来た、ティエラ王女様や他の方々は
元気にしていますか?』
等々……
世間話のような話題に終始した。
まるで、お前たちから聞くべき重要な事など
何も無い、とでも言うように―――
「……それも当然か」
水中と航空戦力の双方を持っているのだ。
一方的に叩ける戦力に興味などあるわけがない。
そして痛感したのは、文明・文化の差。
捕虜も同然のこの身柄を、
『ご不便をおかけします』と―――
このような快適な部屋で過ごさせる。
しかもこれは特別待遇でも何でもなく、
『一般より少し高い程度の宿屋』くらいだと、
先ほどの執事であろう男から聞かされた。
さらに料理は、帝都、いや皇帝陛下ですら、
これだけのものを食された事はないだろう。
肉、魚、パンに穀物。
酒や甘味に至るまで……
種類も調理方法も何もかもが、帝国とは
比較にならない。
中でも娯楽には―――
今までの価値観をひっくり返されたと
思えるほどの衝撃を受けた。
複雑な性能の魔導具を使っているわけでも、
高価な素材で作られているわけでもない。
製造方法さえわかれば、帝国でも簡単に
再現出来るだろう。
問題はその奥深さと種類だ。
ティエラ王女様一行が持ち帰った物もちらほらと
見た事があったが、
リバーシという、子供でも単純にわかりそうな
ものから、トランプという組み合わせ、方法次第で
何種類もの遊び方が楽しめるものまで―――
囲碁や将棋、チェスといった1対1のものも
充実しており、老若男女はおろか人外までもが
一緒になって楽しんでいた。
その中でも群を抜いていたのが麻雀という遊具。
これはハッキリ言って危険だ。
多少覚える事は多いが、駆け引き、ハッタリ、
予測に組み立て、さらに運……
そしてその中毒性の高さは、部下と一緒に
自分も証明してしまっている。
考えてもみれば―――
軍事力に秀でている国家が、文明・文化が
おざなりだという事は無いだろう。
食事もそう。
常に腹が満ちているという事は、魔法に全力を
振り分けられる。
それは取りも直さず、国力に直結する。
人口や規模においてはまだ帝国の方が、
この大陸の国々より総合力は上であろう。
だが我が帝国はいくつも支配国を従えており、
常に反乱の可能性を抱えている。
それに引き換え、この大陸は今回判明した
だけでも、ワイバーンを始めラミア族、
人魚族、ロック・タートルと連携して
迎え撃ってきた。
力で支配してきた我が帝国が窮地に立たされた
時……
支配国や人外、亜人は黙ってはいまい。
「……時間はある。
あの様子では、大量に渡海出来る手段は
こちら側の大陸にはなかろう。
その間に何としてでも―――
国交と同盟を結んでしまわねば」
「お待たせいたしました、ゾルタン様」
と、そこへあの執事の声が聞こえ、私は一時
思考を中断させる。
「お、おお。それは?」
「チキンカツのみぞれ煮定食でございます。
『熱くない、麺類以外の料理』として
ご堪能頂けるかと。
それでは失礼いたします」
そう言うと彼は料理を置いて退室し、
私は昼食を口に運び始めた。
「おお、やっぱりドラゴンだと、
ワイバーンとはまた違った迫力があるね」
数日後、私は公都『ヤマト』の上空を見上げ、
空に舞う巨大な影を目で追っていた。
「4体ほど来てくれたんだっけ?
アルちゃん」
「うむ。こちらの事情を知ったところ―――
子供たちが世話になった礼にと、子育てが
一段落した仲間が来てくれてのう。
交代制で、公都の空を見回ってくれる事に
なった」
あの後、公都長代理に上空警戒のプランが
提案されたのだが、
ドラゴンの巣に向かった人たちから情報が
伝わったらしく、
さらにこの公都は今までにコンガマトーを始め、
空からの襲撃を何度か受けていると伝えた
ところ、
すでに子供が独り立ちした夫婦が二組、
パトロールを買って出てくれたのである。
「う~ん……
でもアルちゃんやシャーちゃんが来てから
結構経つのに―――
あ、いや。
来てくれた事はいい事なんだろうけど、
ドラゴンってめったに住処から動かないって
思っていたからさ」
メルが言葉を選びながら、頭に浮かんだ疑問を
口にしていると、
「まあのう。
確かにそうだったのだが……
我らの間でも最近、自分たちの代はともかく、
子供の代からは人間に関わらせた方がいいの
では、という意見も出て来ていての。
ラッチという成功例もいる事だし」
「ピュイ?」
アルテリーゼの言葉に、ラッチは首を傾げる。
まあ、ドラゴンである彼女やシャンタルさん、
ラッチはここに来てからそこそこ長い。
それにドラゴンの巣へは、何度もこちらの
料理や酒、魔導具が運び込まれている。
その生活や技術に触れる間に、心が動かされて
いったとしても不思議はないだろう。
「おっ、ハーピーたちも飛び立ったね」
メルの言葉に、彼女の視線の先を追うと、
半人半鳥の亜人たちが舞い上がる。
当初、ハーピーたちに上空警戒を頼むつもり
だったのだが、新たにドラゴンが参加した事で、
彼女たちには公都周辺を―――
ドラゴンには、東の村やドーン伯爵家屋敷、
さらに魔物鳥『プルラン』の生息地を巡回して
もらうよう、分担された。
ドラゴンの方はそんなに遠くまで大丈夫なの
だろうか、と心配したのだが、
そもそもワイバーンといい『人が乗る』前提で
飛行している場合は、それに合わせて速度を
落としているので、
単体で全速力で飛行するのであれば、
それこそ王都はおろか、海岸まで半日で
往復出来るらしい。
「ワイバーンたちはハーピーよりやや遠くの
外周を警戒してもらう事になったけど……
もともと忙し過ぎたしなあ」
ドラゴンとハーピーの中間範囲、という形に
なったけど、そもそも人間を乗せるのが前提
なので、
レイド君の他は、ワイバーンライダー見習いが
交代で練習するような感じになっており―――
それが機動力を落としている一因だったりする。
まあでもこれで、人間や各種族が安心して
子供を産み育てられると思えば……
「あ、シンさん」
「ギルド長がお呼びです」
と、そこへ―――
焦げ茶色の短髪をした長身の青年と、
亜麻色の髪を後ろで三つ編みにした女性が
現れた。
「ギル君、ルーチェさん。
何かあったんですか?」
「はい。王都から呼び出しがあったので、
来て欲しいと」
「内容はそちらで話すという事で」
その説明に私と家族は顔を見合わせ、
「わかりました。すぐ向かいます」
そして私たちはその場を後にした。
「おう、すまんな」
「いえ、それより用件とは―――」
ジャンさんは私に一通の手紙を寄越す。
中に目を通すと、
「王家から……ですね。
今回の処理というか仕上げというか」
それを横で見ていたメル、アルテリーゼは、
「うぉ、魔族領にも連絡したって書いて
あるけど」
「いったい何をするつもりじゃ?」
「ピュ?」
家族から問われ、私は一息つくと、
「今回の終わらせどころ、ですね。
あの人たち―――
ランドルフ帝国から来た方々を帰す前に、
やっておくべき事と言いますか」
そこで同じ支部長室にいた、レイド夫妻も
会話に加わり、
「あー……
確か水中戦力を知られるわけには
いかない、って言ってたッスね」
「でもいつまで経っても帰さないわけには
いかないでしょうし―――
それについて何か考えでも」
二人の問いに私はうなずき、
「はい。
それに遅かれ早かれ、水中対策はなされると
思いますが……
その前に国交、交易、そして大使館を
向こうに作る事を飲ませます」
「タイシカン?」
聞き慣れない単語だったのか、ギルド長が
首を傾げる。
「外交使節の拠点、ですね。
その国に使者や代表を送るための施設と
いいますか。
それは絶対条件です」
すると今度は家族が頭に?マークを浮かべ、
「……それが絶対条件?」
「あまりたいした事の無いように聞こえるが」
「ピュウッ」
まあピンと来ないのも無理は無い。
ランドルフ帝国にしてみれば、ただ外交を結び、
その国の拠点となる建物一つ作ればいいだけ
なのだから。
「いえ、これは―――
帝国の喉元に突き付ける刃です。
そのためにフィリシュタさんにも
お願いするわけですから」
「フィリシュタ……って魔界のアイツか。
あれがどういう―――
って、まさか」
ギルド長が真意に気付いたのか顔色を変える。
「え? 何スか?」
「まさか魔界王と協力して攻め込むとか」
レイド夫妻が困惑した表情になるが、
「そういう事じゃないですよ。
ホラ、公都の魚や貝、プルランの産卵施設が
ある地区に、今『ゲート』があるでしょう」
私の説明に、なおも二人は不思議そうに首を
傾げる。
「あー、確かにあるけど……
え? まさか」
「……なるほど。
アレを帝国の中に作れば―――」
そこでようやくレイド君とミリアさんは、
ハッとした表情になる。
「あの『ゲート』が帝国内に出来れば、
こちらからはいくらでもドラゴン、
ワイバーンを送り込める。
フェンリルや魔界王、グリフォンまでもだ。
単体でもいきなり勢力圏内にそんな戦力が
出現するとしたら―――
敵に取っちゃ悪夢でしかないわな」
ジャンさんが補足するように語ると、
「ホントにシンさん、こういう場合は
えげつないッスねー」
「容赦ないわぁ……
敵じゃなくて本当に良かった」
レイド夫妻が呆れるように口を開く。
「今回の戦力を見ても―――
帝国が大規模な戦力を動員出来る事は
間違いありません。
それに引き換えこちらは、圧倒的に数が
足りていない。
あの規模の水上戦力が上陸地点を4,5ヶ所に
分散して攻めて来た場合、対応は出来ない
でしょう。
だからそうなる前に……
相手の首根っこを何としてでも、
抑えておかなければならないんです」
日露戦争の日本海海戦と同じだ。
一方的に相手のバルチック艦隊を沈め―――
日本側の艦隊主力は全て残した。
ほぼ無傷の勝利と言っていい、圧倒的戦果。
ただ国力を総合的に見ると、厳しい現実が
垣間見えてくる。
ロシアにしてみればこの被害は、極東に向けた
一艦隊の消滅に過ぎず、第二第三の艦隊を
送り込んでくる可能性があった。
それに対し日本が用意出来る艦隊は一つだけ。
例え一度撃退したとしても被害が大きければ、
何度も送り込まれてくるうちに敗北する。
さらにこの時日本に来るバルチック艦隊は、
太平洋側か対馬海峡に来るかわからず、
そして日本に艦隊主力を二つに分ける余裕など
無い状況でもあった。
(現にバルチック艦隊は囮として、仮装巡洋艦を
二隻、太平洋側へ送り込んでいる)
だから撃退するだけではダメで―――
再び艦隊を送り込まれても戦えるだけの戦力を
温存して勝つ必要があった。
つまり日本海海戦は結果的に圧倒的勝利に
終わったわけではなく、最初から
・ロシア艦隊の進行ルートを読み、
・ロシア側の主力を全滅させ、
・日本側の主力は全て残す
というのが絶対にして最低の
勝利条件だったのである。
無理の上に無茶を重ねたような条件だが、
戦争というのは往々にしてこんなものだろう。
だからこそ、今回……
撃退に成功した上、戦力温存も出来たからこそ
次の手が考えられるし、また打たなければ
ならないのだ。
「ま、その辺りは各国が全部お前さんに
丸投げ……
もとい信頼しているからなあ」
「本音が隠れていないですよジャンさん!」
ギルド長の言葉に思わず反発するが、
「まーまー。
だって各国の上層部って、シンが
異世界人だって知っているんでしょ?」
「しかも神様公認なのだ。
そりゃ全て任せたくなる気持ちも、
わからないでもないのう」
「ピューイッ」
家族から、フォローともトドメとも取れる
言葉をもらい―――
翌日、王都へ飛び立つ準備のため、いったん
自宅の屋敷へと戻る事にした。
「……それでゾルタン副将軍。
その料理は」
「うむ。大変美味であった。
ご飯こそ温かかったが、味噌汁は冷まされて
いてな。
何より、油で揚げられている料理が
サッパリしているのだぞ!?
おろしとかいう、辛みの効いたソースが
また絶品でな」
「あー、確か麺類の付け合わせで食べた事が
あるかも知れません。
ていうか、あの麺という料理だけでも……
ソバにウドン、ラーメン、パスタ、ソーメンと
種類が豊富で―――」
その日の夜、王都・フォルロワ……
王宮の一室でゾルタンと彼の部下たちは、
会議と言う名の雀卓を囲んでいた。
「知れば知るほど、こことの敵対なんて
考えられませんね」
「そういえば『釣り』をご存知ですか?」
「ツリ?」
発言した人物に残り三人の注目が集まり、
「魚を捕まえる魔導具で、人工的に作られた
河川に放流された魚を狩る娯楽があるんです。
狩った魚をその場で調理してくれる店が
ありましてね」
「そういえば王都で食されている魚の
一部は、卵から大きくなるまで管理・
育成されているものと聞いたな」
「魔物鳥だけでなく、魚まで安定生産
しているという事ですか……」
カチャカチャと牌を動かす音が室内に響き、
「しかし面白そうだ。
明日にでも皆で行ってみるか」
副将軍が提案すると、三人がうなずく。
「そういえばゾルタン様。
お話は変わりますが―――
……その、お痩せになっていませんか?
ここでの食事が合わないという事でも
なさそうですけれど」
確かに、彼の言う通り―――
副将軍のお腹はやや引っ込み、顔もいくぶんか
スマートになっていた。
「確かにここの料理は極上だ。
だがそれだけに、よく味わって食べるように
なったからかも知れん。
今考えると帝国での私の食事は、
腹を満たすためだけにエサを食う、
動物か魔物に等しかったと思う」
いつも威張りまくっている上司が、そこまで
自分を卑下して語るのを聞いた部下たちは、
思わず黙り込む。
「あとはコイツかな。
こうまで熱中する娯楽があると、
時々食事が二の次になる。
それで、ここの使用人やメイドによく
注意されておるよ」
牌を持ち上げてニヤリと笑うと、部下たちも
それに苦笑で答えた。
「おっひさー♪
シン殿!」
「し、しばらくぶりにございます。
シン殿」
翌日、午前中―――
公都『ヤマト』の中央区で、
17・8才に見える白と金の中間色の
長髪をした少女と、
灰色の髪をした、ミリアさんと同じような
タヌキ顔の女性……
魔界王フィリシュタさんと、その秘書官である
ミッチーさんと合流していた。
「相も変わらず軽いな、お前は」
5・6才くらいの少年のような、薄い黄色の
短い巻き毛の魔王、マギア様が呆れるように
口を開き、
「まあ今に始まった事ではありませんから」
「遊びに行くんじゃないんですから、
ふざけないように……」
やや外ハネしたミディアムボブの、パープルの
髪の女性と、ダークブラウンの肌と純白の長髪を
持つ女性―――
イスティールさんとオルディラさんが、
マギア様の護衛として同行していた。
正確には魔族領へ魔力通信を通して連絡が行き、
またゲートは魔界を通して繋がっているので、
ウィンベル王国から連絡を受けた彼らが、
魔界でフィリシュタさん、ミッチーさんと合流、
そして公都にやって来たという流れだ。
「話は聞いたぞ。
今回の主役はミッチーだという事も。
優秀な秘書官を持って私も鼻が高いわ」
「あれやるとすごく疲れるんですけどぉ~……
まぁ、とにかく行きましょうか」
丸眼鏡を直しながら、ため息混じりに答える
ミッチーさんだが、何だかフラフラしていて、
「ひとまず『乗客箱』の中に入ってください。
氷柱も設置してありますので―――」
真夏日は過ぎたとはいえ、まだまだ残暑は
厳しい。
避難するように私たちは、用意された
移動用の箱へと入った。
「しかし、やはり魔族といえど……
『ゲート』の設置は疲れますか?」
飛行中の『乗客箱』の中、私は世間話のように
ミッチーさんに話しかける。
「魔力もたくさん使いますし、制御も大変
なんですよぉ~……
一度設置してしまえば、後はそれほどでも
無いんですけど」
ネズミのような丸耳をピクピク動かし、
ラッチがそれにじゃれつく。
「でも意外だねー。
魔族ってその名の通り、魔力が人間とは
比べ物にならないくらいあるんだと思って
いたから」
「その認識で合っておる。
だからどちらかというと、制御に神経を
費やしておるのではないか?」
メルの疑問に魔王様が受け答えるが、
「何でですかねー……
もともと魔族の中では魔力が弱い方
なんですけど……
昔っからちょっと魔力を使っただけで、
すぐ疲れてしまうような体質なんですよ」
それを聞いて、私はどこか引っ掛かり、
「魔力の循環がうまく出来ていないんですかね?
ていうか、どこかで聞いたような」
私が眉間を親指と人差し指でつまんで
悩んでいると、
「ナイアータ殿下?」
「! それだ!」
以前私は、人間にしては異常な魔力量を持ち、
常に魔導具で魔力を吸収して対外へ放出し続け
なければならない彼を―――
能力を使って『無効化』し、治した事があった。
(■76話 はじめての りはーさる参照)
「メル、ちょっと彼女を見てみてくれないか?」
「りょー」
私がラッチをミッチーさんの頭から引き離し、
そしてメルが凝視して彼女を見つめると、
「おぅわ!
何コレ魔族スゲー!
あちこちから噴出してるって魔力!!
てかホントに大丈夫!?
ミッちゃん!?」
「ミッチャン?
え、ええと……そうは言われましても」
彼女はおろおろとするが、
「多分、魔族は人間とは比較にならないほどの
魔力を持つので―――」
「多少魔力の巡りが悪くなったり、暴走しても
疲れる程度で済んでいるのではないかと」
イスティールさんとオルディラさんの説明に、
私とメルはうなずく。
つまり許容範囲が広いという事か。
しかしミッチーさんは今回の計画の要。
なるべく万全の状態でいて欲しいのだが……
「シン、治しちゃえば?
ナイアータ殿下の時と同じように」
『この際、そうしておいた方がよかろう』
人間の方の妻に続き、伝声管を通して
ドラゴンの方の妻も私に促す。
「そうだな。
あまり汎用性の無い前例を作りたくはないけど、
今回ばかりは」
何が何だかわからない、という表情の
ミッチーさんを、フィリシュタさん始め
魔族の方々は微笑むように見つめ―――
「自分自身を苦しめる、疲れさせる、または……
自身に害を及ぼす魔法・魔力など
・・・・・
あり得ない」
私がそうつぶやくと、
「……??
い、今何かしたのですか?」
ミッチーさんは目をパチクリさせていたが、
やがて手をグーやパーに閉じたり開いたりして、
「う、うわ!?
首や肩がすっごく軽い!!
それに魔力が体中をすごくスムーズに
通っている事がわかる……!
わ、私スゴイ事になっています今、
フィリシュタ様!
こ、こんな事って……!」
興奮気味に話すミッチーさんに対し、
魔界王は、
「あー、シン殿はな。
神によって異世界からこちらへ来た人間だ。
その能力でまあ何だ、いろいろと出来る。
あ、あとこの事は一応各国でも上層部しか
知らないから―――
他言無用だぞ?」
「……ほへ?」
ポカン、と口を開ける彼女の除き―――
周囲は苦笑に包まれた。