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「ティエラ様。
間もなく、あちらの大陸に入りますね」
「こんな形でまた向かう事になるたぁ、
思ってもいやせんでしたが」
ブラウンのボサボサ髪の男性と、それより
一回り上のアラフィフの赤髪の男が―――
風の強い船上で語りかける。
話しかける先にいるのは彼らの主人である、
パープルの長髪の女性。
『暴風姫』と呼ばれる
ティエラ王女は、船の動力としてその魔法を
いかんなく発揮させていた。
「もう一隻はきちんと付いて来ていますか?」
二人の従者は揃ってそちらへ視線をやり、
「何とかついて来てまさぁね」
「あちらにも相応の風魔法使いが、何人か
乗っているはず何ですが……
お嬢、少し速度を落とした方がよさそうです」
カバーンとセオレムの指摘に、彼女は魔力を
弱くし、帆に当てる風の強さを落とす。
「はあ……仕方ありませんね。
一刻も早く急がねばならないのですが」
ランドルフ帝国武力省所属の、訓練部隊が
全隻未帰還という事態を受け―――
その捜索及び、もし向こうの大陸に漂流者が
たどり着いていた場合を想定し、
ウィンベル王国への救援要請も兼ねて、
わたくしは再び出航する許可を陛下から得て、
全速力で船を動かしていた。
「結局、船団が行方不明になってから、
だいぶ経っちまいましたが……」
「ここに来るまでの間、漂流物らしき物はなく、
魔物や何かの事故で沈んだ、という可能性は
低いでしょう。
となるとやはり、あちらの大陸まで行った
可能性が―――」
彼らの言う通り、訓練船団は向こうの海岸まで
行ってしまったのだろう。
果たしてその結果、どうなったか……
確かにあちらには水上戦力は無いが、
ワイバーンと範囲索敵を連動させた部隊がある。
双方に被害無し、とまで望みはしないけど、
せめて最小限に食い止められていればと、
わたくしは心から願っていた。
『……!
―――!!』
「……?
何か聞こえませんか?」
波と風の音以外を耳が拾い、カバーンと
セオネルに視線を向ける。
「何か声が……」
「どこからでしょうか。
まさか、漂流者が?」
わたくしたちは思わず海面に目を向けるが、
その時頭上から、
『こちら、ウィンベル王国所属航空管制、
ウィンベル王国所属航空管制!
所属不明の船に告ぐ!
我が国の近海に接近しているため、
方向転換を要求します!』
見上げると、そこにはワイバーンが一体、
大きな箱のような物を吊り下げ―――
さらにその左右を、ワイバーンが一体ずつ
護衛するように飛んでいた。
「ウィンベル王国……!」
わたくしは慌てて風魔法を止めて、
上空へ向かって両手を振る。
すると、敵意無しと認めてもらえたのか、
するすると糸にぶら下げた筒のような物が
降りて来た。
『あーあー、聞こえますでしょうか?
応答はこちらにお願いします』
その小さな筒から、女性の声が聞こえ―――
思わずわたくしと従者二人は顔を見合わせる。
「は、はい。
わたくしはランドルフ帝国王女、ティエラです。
こちらに来た理由は、我が国の訓練船団が
未帰還という事態を受け、その捜索と確認に
当たっております」
すると筒の向こうから、何やら話し合う
声が聞かれ、
『そちらの状況はわかりました。
取り敢えず、案内を出しますので―――
指示に従って船の進路を変えて頂けますか?』
「は、はあ。
それはいいのですが、ワイバーンの速度ですと
ゆっくり飛んで頂かねば」
恐らく、自分達についてこい、という事
だろうが……
いくら何でも船でワイバーンを追いかけると
いうのは無謀過ぎる。
すると一体のワイバーンが、上空へ向かって
火球を吐き出し、
『今、合図を出しましたのでしばらく
その場待機でお願いします。
陸地からそれほど離れていないので、
すぐ到着すると思いますが』
そう言うと筒が上空へと戻っていき、
三体のワイバーン編隊は、陸地であろう
方向へと飛んで行った。
「お嬢、どうしやす?」
「待機、との事ですから―――
多分船か何かで案内が来るのでしょう。
それまで待つ事にします。
もう一隻にもそのように伝えてください」
「わ、わかりました」
そして二隻の船は停船し、その時を待つ事にした。
「―――!」
「!?」
三十分も経過した頃だろうか。
何かが急に打ち上げられ上空へと向かい、
その煙に視線が行く。
「今のは海上から……!?」
そして水面に目をやると、そこに複数の人が
手を振っているのを確認する。
「ランドルフ帝国の方々でしょうか?
我々はウィンベル王国及び連合国の水中部隊に
所属する者です。
上陸地点までご案内いたしますので、
ついて来るようお願いします」
一人がそう告げると、次々と上半身を
海上に現す。
その数、およそ二十名ほど。
それがぐるりと二隻の船を囲むようにして―――
「ラ、ラミア族か?」
「い、いやまてカバーン!
半人半魚の亜人もいる!」
確かに、ラミア族は半人半蛇の亜人だが、
下半身が魚の亜人も混じっているように
見える。
そして彼らの案内に従い、わたくしたちは
ある地点に接岸した。
「ウィンベル王国航空管制司令、
アリス・ドーン伯爵です。
初めまして、ティエラ王女様」
「同じく航空管制所属、
ニコル・グレイス伯爵です」
ブラウンのショートカットを持つ女性が
司令と名乗り、
シルバーヘアーの、女性と見紛うほどの
少年が続く。
「は、初めまして。ランドルフ帝国王女、
ティエラ・ランドルフです」
「従者、カバーンです」
「同じくセオレムです。
お見知りおきを―――」
ウィンベル王国の海岸拠点という建物内で、
互いに挨拶を交わし、ひとまず用意された
飲み物を口にする。
「……?
そちらの方は?」
ティエラ王女と従者二人の他、ローブを被った
女性にアリスから質問が行く。
今回、新たに同行した一人……
どう紹介したものかとわたくしが考えていると、
「あー、王女様の従者見習いでーす♪
メリーちゃんと呼んでね♪」
「は、はあ」
と、気の抜けた返事で流され―――
改めて会話を再開させる。
それにしても……
ここには送風の魔導具と氷が置いてあり、
真夏日は過ぎたものの、未だ残暑厳しい
時期にしては、破格の快適さだ。
「こちらに来るのは3度目になりますが……
こんな場所でも、涼しく過ごせるよう
出来ているのですね。
まだまだ驚く事が多いです」
するとアリスという女性はクスッ、と笑い、
「いえ、以前は魔族が氷でこの拠点全体を
覆ってくれたので―――
それに比べればだいぶ暑くなりました」
「あの時は、何千という人数を収容しなければ
なりませんでしたからね」
ニコルという少年も補足するように語る。
そこでわたくしは本題をようやく切り出す。
「そ、そうです!
この海岸にランドルフ帝国の船が停泊して
おりました!
その者たちはどこへ……!」
「この拠点にも確か20名ほど滞在している
はずです。
後で会って頂く事になると思いますが、
まず王女様のご来訪を王都・フォルロワへ
連絡しましたので、しばらくお待ちを」
航空管制司令の彼女の話に、わたくしも
従者二人も首を傾げる。
すでに、ワイバーンを飛ばして連絡したと
言う事だろうか、と思っていると、
「ドーン様!」
「繋がりましたか?
では……」
彼女の後ろから、先ほど応答に使ったような
筒が差し出され―――
それをアリス殿が直接わたくしに手渡してくる。
「あの、これは……」
わたくしが聞き返そうとすると、それより先に
筒から聞きなれた声がした。
『お、王女様!?
ティエラ王女様ですか?』
「えっ!?
ゾ、ゾルタン副将軍……ですか?」
思わずカバーン、セオレムも顔を寄せて来る。
「ゾルタン殿!
わたくしは、訓練船団の未帰還の調査のために
こちらへ参りましたが―――
現状はどうなっておりますか?」
まずは安否をたずねる。すると、
『は、はい。
船と乗組員、全員が無事でございます』
その答えに、安堵の空気が三人で共有される。
「しかし、ここにある船は少ないような気が」
『ああ、それはですな。
あれだけの船を収容出来る施設は、
ウィンベル王国には無いという事で……
この大陸の各国に分散して保護してもらって
いるのです。
人員もそれと同じく―――
え? は、はい!
ティエラ王女様、代わりますがよろしい
ですかな?』
代わるとは、誰かと交代するという事だろうか。
わたくしが理解する前に、向こうから知っている
声が聞こえた。
『お久しぶりです、ティエラ王女殿。
ラーシュ・ウィンベルです』
「……っ!?
へ、陛下!?」
驚きのあまり、思わず聞き返してしまう。
『今回、ランドルフ帝国から来た方々を
『保護』しておりますが―――
四千を超える人員はさすがに一国では
面倒を見れないので、各国に引き受けて
もらっているのです。
詳細についても説明したいので、どうか
王都まで来て頂けませんでしょうか?』
そこでわたくしは、カバーンとセオレムに
交互に視線を交わす。
「はい。
こちらとしても、保護して頂いたお礼を
申し上げたいと思っておりますので」
『ありがとうございます。
それでは、こちらから迎えを寄越しますので、
どうかそれまでお待ちください』
一瞬で王都まで連絡がついた事に、驚きの
色を隠せず―――
しばらく放心してしまう。
魔力通話器……
城内で見た事はあり、ゆくゆくは各国と
繋げる予定と言っていたが―――
「こ、この魔力通話器は」
「ええ。主要各国との通信が可能です。
このおかげで、船団の方々の対応が素早く
出来ましたので」
各国との連絡が一瞬でつく……
帝国ですら、そんな事は想像すら出来ない。
通常、遠い地域ではその意思疎通に時間が
かかるもの。
手紙だろうが何だろうが、物理的な移動を
必要とするのだから当然だ。
だが、今のは―――
王都にいるラーシュ陛下とわたくしとで、
即座に王都行きとそこでの会談が決まった。
つまりこれは、確実に本人に連絡が届き、
謀略や妨害の入る隙が無い事を示している。
わたくしは一人、後ろに離れて距離を取っている
彼女に目をやると……
「おー、なかなかすごいモンがありますねぇ。
こんなの、帝国でも見たこと無いですよぉ?」
すると航空管制所属の若い男女が、
「我が国でも最近実用化されたものですから」
「似たような物も無いんですか?」
わたくしはコホン、と咳払いして、
「金属の管を使った伝声管というものは
ありますが……
とても長距離で使えるものではありません」
「以前、頂いた見本はありますが―――」
「あのように魔力を通し、かつ丈夫な糸と
同じ素材はなかなか」
そこでわたくしたちは王都から迎えが来るまで、
雑談に興じる事となった。
「シン、いるか?」
ライさんの声が扉越しに聞こえる。
王都・フォルロワにある冒険者ギルド本部。
そこの一室に、私たち一家は滞在していた。
「ええ、どうぞ」
私が答えると同時に、グレーの短髪をした
冒険者ギルド本部長が入って来て、
「こんちゃーっす」
「どうかしたのかの?」
メルとアルテリーゼも佇まいを直す。
「予想通りというか予定通りというか……
ランドルフ帝国から使者が来た。
今回は二隻で来訪したらしい。
ティエラ王女様を始め、従者たちが
王都入りしたそうだ」
その言葉に、私は妻二人と共にホッと
一息ついた。
「まーさすがに、また大船団で来るって事は
無かったか」
伸びをするように、人間の方の黒髪セミロングの
アジアンチックな妻が両腕を挙げ、
「一隻も戻って来てないのだからのう。
慎重になるのも当然。
それもシンの読み通りじゃて」
ドラゴンの方の妻も、そのモデルのような
プロポーションのボディを揺らして座り直す。
「これからどうしますか?」
「ラーシュ陛下が直接交渉にあたるだろう。
こっちの方針に変更は無い。
ただ、ランドルフ帝国に出向く各国の代表の
選定が、これからだったからなあ」
ポリポリと頭をかきながら、ライさんが語る。
「まあ、昨日の今日で出向く事になるとは、
私たちも思ってはいませんから」
「向こうに行くにしろ、何日か日程調整とか
入るんじゃない?」
「それより、ラッチは相変わらずあの2人が?」
ふと話題が子供に向き、本部長が苦笑しながら、
「サシャとジェレミエルが可愛がりまくって
いるよ。
女性の職員や冒険者にも大人気でなあ。
それに魔王様も来ているだろ?
あの大人びた……まあ実際に何百年も生きて
いるんだから当然なんだが、あの態度がまた
魅力的だという連中が通って来ている」
魔王様も、見た目は5・6才の少年だし……
それに動物と子供の組み合わせは、ある意味
最強だからなあ。
「まあ一番の理由はシンがいるからだが」
「はい?」
突然自分の名前が出てきて戸惑うが、
「いやだって、噂の万能冒険者にして
『料理神』『農業神』がご滞在中なんだぜ?
それに食堂は冒険者以外お断りってわけじゃ
ないからな。
まあ部外者が来るのを想定してないだけって
いうのもあるけどよ。
今じゃ子連れで入って来る王都民もいる。
ギルド始まって以来だろうよ、こんなの」
要するに、私の料理目当てで一般人まで
入って来るようになったのか。
それを聞いて私の両隣りで―――
メルとアルテリーゼがウンウンとうなずき、
「順調に公都の冒険者ギルドと同じ道を
たどっていますねー」
「もういっそ、冒険者ギルドの直営店でも
出したらどうじゃ?」
その申し出に思わず私は苦笑する。
「いや実際、魔族の連中もここを拠点に
しているしな。
王宮での打ち合わせが終わったら本部へ
直帰だ」
あー……
確かにそうだ。
単に一緒に行動していた方が、意思疎通が
スムーズに行くから、とも思っていたけど。
以前サミットを開いた時は、ちゃんと別々の
宿屋に宿泊していたし。
(■125話 はじめての さみっと参照)
自分の料理目当てだとすると、嬉しいような……
餌付けしているような複雑な心境。
「じゃあ、シン」
「そろそろお昼じゃ。
『また』厨房へ行くのであろう?」
と、二人の妻に背中を押され―――
私は彼女たちの言う通りの場所へと移動する
事にした。
「ええと……
ゾ、ゾルタン副将軍、ですか?」
「はい。
やはり、そんなに見た目が変わりましたで
しょうか?」
王都フォルロワ―――
その王宮にワイバーンで運ばれたわたくしは、
まず訓練船団の責任者である、帝国武力省
副将軍と顔合わせした。
以前、一ヶ月ほど前に会った時は、もっと
お腹がでっぷりと太……
もとい、かなり恰幅の良い体形をしていた
はずだけど。
「何があったんだ……」
「ここでの食事を考えると、体重が増える
事はあっても、減る事は無いはず」
カバーンとセオレムも、信じられないという
表情で彼を見つめる。
「お恥ずかしい話ですが、こちらの大陸の
娯楽にハマッてしまいましてな。
それこそ寝食を忘れるほど―――
部下も付き合わせて、迷惑をかけてしまって
おりますよ」
ハハハ、と快活に笑うゾルタンに、
わたくしたちはあっけに取られるが、
「お前、本当にゾルタンかぁ?
何か毒気抜かれてね?」
わたくしたちの後方で控えていた彼女から、
呆れるような声がかけられる。
その言葉に彼はムッ、と表情をしかめたが、
すぐに平静を取り戻し、
「ティエラ王女様。
そちらの者は?」
と、フードを被った彼女についてたずねる。
わたくしがどう説明しようか迷っていると、
彼女は素顔を出して、
「アタシは帝国軍魔戦団総司令―――
メリッサ・ロンバート……
ではなく、従者見習いのメリーです。
お見知りおきを、ゾルタン副将軍様」
その黄色に近いブロンドの長髪をなびかせ、
役職的には下の副将軍にペコリと挨拶する。
突然の魔戦団の最高責任者の出現に、
彼は体を一瞬硬直させたものの、
「う、うむ……
メリーというのだな、わかった」
正体を隠しているという状況を飲み込み、
ゾルタン殿は口を閉ざした。
そこへ扉をノックする音が聞こえ、
「ティエラ王女様。
ゾルタン副将軍様。
陛下がお会いになられます。
こちらへ」
「は、はい! 今すぐに」
こうしてわたくしは―――
二回目となる、ラーシュ陛下との交渉に
臨む事になった。
「お久しぶりです、ティエラ王女。
以前お会いしたのは……
まだ暑くなる前でしたね」
『陛下の部屋』で、わたくしはあの時とは
異なる同行者と同じ席に着く。
「(し、しかし―――
この部屋、何もございませんな)」
ゾルタン殿が、前回のわたくしたちと同じような
感想を小声で話す。
「(はい。わたくしも当初は驚きましたが、
今となっては、こちらの方がより洗練された
造りに見えてしまいます)」
暗に、我が国の皇帝陛下の謁見の間に対する
批判とも取られかねない言葉だが、彼はただ
黙ってうなずく。
「さて―――
今回の件のあらましは、一通りそこの
ゾルタン副将軍から聞いているでしょうが、
まず現状、彼らの待遇と置かれている状況から
ご説明いたしましょう」
ブロンドの短髪を触りながら、陛下は話を
進め始めた。
「……なるほど。
大半は所縁のある、新生『アノーミア』連邦で
引き受けて頂けたと」
「突然―――
4千人もの人間が来られたわけですから。
我が国の総人口はせいぜい100万弱。
王都でも30万人ほどですから、とても
一国では引き受け切れなかったのです」
船も、海岸を持つ国々に分散して預け―――
その全てが無事だという。
ただ、修理済みだが一隻だけロック・タートルに
『事故で』『ぶつかってしまい』……
それを含めた二十隻をウィンベル王国の
海岸拠点に停泊させているとの事。
まあその船が旗艦で、ゾルタン副将軍が
乗っていたという事から、何があったか
想像はつくけれど。
「い、いやそれは某の不手際でもあり―――」
言い訳のように当人が口を開くが、
「いえ、当初意思疎通に何らかの問題が
起きていた、という事は聞いています。
『正式に国交の無い国の指示に従う
義務は無い』
軍人であれば当然の事と思う」
陛下はゾルタン殿を擁護するように語る。
そして続けて、
「ですから、今後このような事態になる前に、
正式に国交を結ぶ必要があると考えます。
このまま彼らを戻しても、誤解があるままに
してはいろいろと支障があるでしょう。
ちょうど、と言っては何ですが……
今回来られたティエラ王女様が帰国する際、
その船にこちらからの代表を何名か乗せて
頂ければ、と」
言葉使いこそ丁寧だが―――
『正式に国交を結びたい』
『訓練船団の人員を帰すのはその後だ』
そう突き付けられているに等しい。
しかし、あれだけの歓待をこのような形で
返したのだ。
その怒りも当然と思っていると、ラーシュ陛下は
少し困った顔になって、
「というのもですね。
各地に引き取ってもらった船団の方々の
状況を知らせて頂いているのですが……
『現地除隊したい』という要望が彼らの中から
出てきておりまして。
国交の無いまま、それはちょっと難しいと
各国から」
「本当にすいません!!」
思わず立ち上がって直立で頭を下げる。
「は、ははは……
よほどこちらの大陸が気に入ったようで」
苦笑するゾルタン殿に、誰のせいだと
ツッコみたくなるのをガマンして、
わたくしは話を続ける。
「そ、それはそうと―――
以前、こちらの戦力を見せて頂いた事が
ありましたけど。
あの中に水中部隊というのはありません
でしたが」
ラミア族と半人半魚の亜人について切り出す。
「そういえば、戦力は全て見せてもらったと
言っておりましたな」
ゾルタン殿もわたくしに続く。
一見、ただの世間話のように見えるが―――
わたくしもゾルタン殿も国を代表して、という
立場がある。
少しでも帝国を有利にするため、相手の非を
指摘しておく必要があるのだ。
見苦しい事この上無いが、交渉術として
叩き込まれた習性が、この選択をさせた。
「それは、失礼をば。
しかし私は―――
『希望するのであれば全て見せるよう』
命令していたはずです」
「あ……」
そこでわたくしは、ロンバート魔戦団総司令の
かつての言葉を思い出す。
『例えばこの葛餅ちゃん。
アタシはこれが芋から作られている、
という事を聞いて知っていたからその
質問が出来たの。
わからなければその質問すら出来ない。
わかる?』
(■169話
はじめての まーじゃんたいかい参照)
そうだ、わたくしは水中戦力や水中部隊について
質問なんかしていない。
そのような物があると、想像すら
していなかったのだから―――
「ただ、あの時はまだ戦力として正式に
認定していなかったのかも知れません。
そもそも亜人や人外は、規模の上では
人間が指揮を執りますが……
各国に所属するというより、協力関係のような
存在なのです。
ウィンベル王国のみの事でしたらいくらでも
情報公開いたしますが、何せ連合、混合と
なると一国の判断では難しい場合もあります。
その辺りはどうかご理解を」
そして、その事についてフォローまでされ、
わたくしとゾルタン殿はただ、一方的な交渉に
身を任せる事となった。
「あっ、シン殿!
お久しぶりです」
「ティエラ王……ティエラさん。
こちらこそお久しぶりです」
夕食の準備をしていると、思わぬ来訪者が
あった。
来ていた事は知っていたが―――
ランドルフ帝国のティエラ王女様が、
ギルド本部の厨房まで来たのだ。
「お、カバーンさんにセオレムさんも」
「ん? そちらの女性は誰だ?」
メルとアルテリーゼの視線は、前回はいなかった
同性へと向けられ、
「従者見習いにして護衛のメリーでーす♪
あなたが『万能冒険者』、シン殿ですねっ?
一手お相手仕りたく、参上いたしました!!」
まるで魔法少女がポーズを決めるように、
コロコロと姿勢を変えながら宣言してくる。
「いやあの、私はこれから夕食の支度が」
すると、食堂で聞いていたであろう
冒険者たちが、
「おっ? シンが戦うのか?」
「飛び入りが来たらしいぜ」
「こりゃ面白そうだな」
と、なぜか勝手に期待が高まり、
「やっちゃえば? シン」
「さっさと終わらせて食事の支度をしようぞ」
と、急遽本部の訓練場で、その女性と模擬戦を
行う運びとなった。
「では、これより―――
遠方より来る商人の護衛、メリー選手と、
公都『ヤマト』、冒険者ギルド支部所属、
『万能冒険者』……
シン選手との模擬戦を行います!!」
中庭のような場所に設けられた訓練場で、
私とメリーさんが対峙する。
「シン殿の試合を見るのは久しぶりだな」
ベージュの巻き毛の幼い少年に見える、
魔王・マギア様が最前列に席を取り、
「でもあの女性、只者ではありません」
「人間にしては魔力は相当高い方ですよ」
外ハネのミディアムボブの女性と、
ダークブラウンの肌とは対照的なシルバーの
長髪を持つ女性……
イスティールさんとオルディラさんが、彼の
両隣りに座る。
「なかなか面白そうな事をしておるな」
「あの人が戦うんですかー……」
次いで、プラチナの長髪を持つ少女と、
灰色の髪の、丸眼鏡の女性が近くに陣取る。
同じく魔族である魔界王フィリシュタさんと、
ミッチーさんだ。
ただ、魔族特有の角や羽は隠している。
「さて、どれくらい持つかな?」
「まあ1分持てば上等じゃない?」
「ピュウ」
金髪を腰まで伸ばした童顔と、もう一人は眼鏡を
かけた秘書ふうのミドルショートの黒髪の女性。
サシャさんとジェレミエルさんが、ラッチを
挟むように観戦に興じ、
「シンー、がんばってねー」
「ケガだけはするでないぞー」
そして妻二人の声援を受け、彼女と対峙する。
「さて、どっちからイクぅ?」
「はぁ。いつでもどうぞ」
どちらからともなく互いに距離を取り、
模擬戦が始まった。
「(……なるほど。
『暴風姫』、ティエラ王女様から
聞いた通り―――
ほとんど魔力を感じない。
それだけ、魔力制御に長けているって事か……
確かに厄介な相手だわ)」
以前、ラドが身分と能力を隠して王女様に
同行したけど、アタシがそれを真似たのには
理由がある。
今回の件、どう考えても非があるのは、
いきなり攻め入った帝国の方だ。
しかも全隻未帰還とあっては、相手の実力が
わからない。
それに全滅させられたのであれば、勢いに乗って
帝国まで攻め込んで来てもおかしくは無い。
だから最善はアタシの実力を見せつけて、
『帝国にもこれだけの魔法を持つ人間がいる』
と相手が知れば、慎重にならざるを得ないはず。
もう一つは、全滅させられるほどの実力差を
相手が持っていた場合、少なくともそれを
この目で確認出来る。
戦バカどもの目を覚まさせるのに―――
魔戦団総司令の地位と肩書は無視出来ない
だろう。
アタシが手も足も無く敗れ、少なくとも
その情報を持ち帰る事が出来れば……
「(まあ、大人しく負けるつもりも
無いけどね)」
アタシは両手を掲げ、魔法を使う準備に
入った。
「聞いているよ、アンタ。
ティエラ様に勝ったんだって?」
「勝ったというか、まあ……
私は『抵抗魔法』の使い手ですので。
たいていの魔法なら無効化出来ますので、
はい」
天に祈るように両手を掲げながら話す彼女に、
私は自分の設定を語る。
中二病のようで痛々しいのだが、私の能力は
トップシークレットなので仕方なく―――
「じゃあ、これも『抵抗魔法』で消せる?」
遠距離魔法だろうか、と思っていると、
地響きのような振動が足元から伝わる。
地震系のものか? と身構えていると、
「お、おい!! 上を見ろ!!」
「な、何だありゃあ……!」
上空を見上げると、複数の光る何かが接近して
来るのがわかる。
石弾……?
いや、それにしてはかなり大きい。
あれは―――
「出やしたね、お嬢」
「帝国でも随一の範囲魔法を誇る、
彼女ならではのもの」
カバーンとセオレムが、主人に視線を
向ける事なく話す。
「『星を降らせる者』……
わたくしの『暴風姫』の異名など、
比べるべくもない超範囲攻撃魔法。
いかにシン殿といえど、これでは―――」
と、そこへ本部長が姿を現し、
「隕石魔法か。
土魔法の最上級―――
まさかこの目で拝めるたぁな」
「だ、大丈夫です。
多分彼女も、直前で解除するでしょうから」
わたくしが安心するように声をかけるも、
彼は少しも戸惑っていないようで、
「ま、アレくらいならシンの敵じゃねーよ。
見てなって」
その答えに、思わずわたくしは戦っている
二人へと目を向けた。
「隕石、ですか。
これはまた無茶苦茶な」
私は思わず感想を声に出してしまう。
「落としている隕石も魔法で作って
いるんですか?
直接、上空から星を落としているわけじゃ
なくて」
「……は?
いや、ウン。
まさか本当に空にある星々を落としている
わけじゃないと思うよ?」
律儀に私の質問にメリーさんは返してくる。
まあ魔法だし、『出来るから』としか
答えられない部分もあるだろう。
それに、本当に大気圏を突入してくる隕石なら、
よほどの遠距離じゃないと自分まで危ない。
だとするならば、隕石そのものに至るまで
全て魔法・魔力で作られている、というのが
妥当か。
私は上空を見上げて、
「上空に巨大な土の塊を作る―――
もしくは隕石を模した物理的な物体を
何の物質的媒体を使わずに作るなど、
・・・・・
あり得ない」
その瞬間、落ちて来た隕石の姿はかき消され、
「……は?
……は?」
ポカンとするメリーさんは上を見上げたまま
固まって、
「さて、夕食の支度の続きをしますか」
私が彼女に背中を向けると同時に―――
「それまで!!
勝者、シン選手!!」
その後いったん間を置いてから、歓声が
沸き起こった。