「……前から変わったな。」
「は……?」
「前はおどおどしてたのに、今は正々堂々としてる。 人って変わるもんだな。」
「…」
何が言いたいの…?
「七葉さ、ラブレター貰ってただろ?」
「え、なんで知ってんの?!」
「見ちゃったから。」
「は、はぁ…?」
「返事は?」
「え…」
率直にそう聞かれて、私はまたうろたえてしまった。
「返事は?」
もう一度そう聞いた声は、さっきよりも低くて 何だか重く感じた。
『いいえ』と伝えたことを健人くんに言うと、何て言われるだろう?
理由とか聞かれるの…?
というか、健人くんがこれを聞いて意味はあるのだろうか。
そう また深く考えると、一層回答は思いつかない。
そんな私に、健人くんは苛立ち始めてしまった。
「おい。」
「!」
私、怒られてる…?
なんで怒られなきゃいけないの…
でも、ここで答えずにはいられないだろう。
私は、さっきとは違う強い口調で話した。
「…いいえって書いたよ!断った!きっっぱり!!」
「! ……誰から来た手紙?」
「水田くん。」
「それを断ったってわけか… でもそれはなんで?」
「はぁ……」
やっぱり理由を聞いてきた。
健人くん、やけに私の恋愛事情気にしてるような…
元カノの事なんて放っておいてよ……
「なんで健人くんはそれを聞きたいの?」
「えっ…」
「健人くんがそれを知って意味はあるの?」
「それは…っ」
私は深呼吸をし、健人くんの目を見つめた。
そして、言いたかった言葉を吐き出した。
「元カノについてこないでっっ!!!」
「! ご、ごめん______」
「私がどんだけ傷ついたか知らないくせに!!全部健人くんのせいなんだよ? ちょっとは自覚したらどう?!」
「!!」
野球の球のストレートのように、反抗できない言葉を放り投げた。
私の心を傷つけた人が、勝手に私の恋愛事情を聞き出す権利無いよね。
――よく考えれば、健人くん最低だ。
私、なんでこんな人に取り憑いてたんだろ?
本当に私、馬鹿だ。
「今カノとイチャイチャしてたらどう?」
「七葉。」
「何なの?!」
「っ……、ごめん…」
起こり気味に言葉を放ると、健人くんは怯えたらしく、謝罪してきた。
…でも、話ぐらい聞いてあげないとね。
私は、何も言わずに 健人くんの話に耳を傾けた。
「あのさ、俺… 仁菜と付き合ってないんだよな…」
「え……!」
付き合って、ない!?あんなにイチャイチャしてたのに?!
そんなバカな!!
「え、でも…!手繋いだりしてたじゃんっ!あれは…?」
「罰ゲーム。友達とゲームして負けたから、女子とイチャイチャしてる所を撮りたいって言い出して…」
「はぁ、何それ…? でも、私をフった事に変わりは無いからね!」
「っ… それは分かってる…っ ごめん、ごめんなさい…っ。」
「…」
健人くんの今の謝罪、本気で謝っているようにしか聞こえなかったのは私だけだろうか。
その言葉一つ一つに、悲しさや寂しさ… 辛い感情が入り混じっているような気がした。
――今更恋人に戻るなんて無理だし、してくれないだろうし… もうお別れだけど……
けど、最後の年ぐらい、 “友達” として居てあげても良いかな。
そう思えてしまった私はやっぱり、健人くんにはもろいんだなぁ と肌で感じた。
――放課後
「七葉!あ…… 一緒に帰ろ……?」
「あ、うん…」
「あ、七葉!! 一緒に帰ろうぜ〜?」
「あ、春人…」
健人くんが誘ってきたそばから、春人も空気を読まずに話しかけてきた。
春人は、健人くんの事を「最低」って言ってたし、一緒に帰る だなんて言ったら…
“はぁ?絶対健人はダメだろ!!”
なんて言って喧嘩になりそうだし…
こんな時、どうすれば…?
「ん?お前誰?」
「あ、あぁ… えっと、この人は… えぇと……」
――健人くんは春人の事知らないし、友達になれる関係でも無いよね…
「あ、俺、七葉の彼氏。」
「は……?」
「!?(健人くん…?!)」
健人くんの言い方じゃ、『今の彼氏』って勘違いしてしまう。
春人の奥底に眠っている 怒りに火が付きそうだ___
「“元”だろ?お前、健人って奴か。」
「そうだけど?」
「はぁ?今更何してんだよ!」
「…っ」
案の定、春人は今にも口論手前の状態だ。
私はそれを止めるために、ピリピリしている二人の間に入った。
「ちょっと二人!やめようよ…!春人も言い過ぎ!」
「言い過ぎ? いやコイツが悪いんだろっ!」
「…あのね、色々事情があるの。 だから、今日は健人くんとじっくり話させて?」
「……っ、分かった。そこまで言うなら。」
「! ありがと…!」
春人はすぐ怒るけど、優しいし 気遣いも出来る。
こういう場面があれば、空気を読んで譲ってくれる。
こんな幼馴染 ――味方 がいて良かったなと改めて思った。
・・・
――帰り道
私達は、何も言葉を発さずにしばらく歩き進めていた。
気まずい雰囲気の中 足を進めた方向は、あの並木道だった。
――私はあいにく花粉症で、杉が見えてきた頃にはクシャミが連発して止まらず、常に鼻水を垂らしている状態になっていた。
「七葉、花粉症?」
「花粉症… ハクション!ハッ、ハッ… クシュン!」
「…行くのやめるか?」
「うん、無理だ… クシュン!」
「……じゃあ、あっち戻ろう。」
健人くんは、今来た道をたどって歩き出した。
私もそれに続き、早足で戻っていった。
・・・
「あーあ、結局ここまで戻ってきちゃった…」
「そうだな… いつもの道行くぞ。」
「うんっ…」
健人くんはそう言うと、急に私の方を振り向いた。
「ど、どしたの?」
「あのさぁ… 俺が七葉と別れた理由、知ってる?」
「え?そりゃあ、新しく好きな人が出来たからでしょ… 何言ってんの…?」
「うん………」
どこかたまらっている様な雰囲気を匂わせながら、目を泳がせた。
____何か隠し事をしているような気がして、話題を変えようとする健人くんが目立って見えた。