私達は、家の近くまでまた無言で戻ってきた。
これでは、一緒に帰ってきた意味が無いように感じる。
結局大した話もしてないし…
そんな空気を感じたのか、健人くんが話し始めた。
「俺、別れようかと思ってるんだよな。」
「え?! なんで!?」
「いや…… その…」
「(何?ってか なんでよ!?)」
せっかく私と別れて新しく彼女を作ったのに、また別れるだって?!
まさか そんな馬鹿な事しないよね…?
――でも、理由は…
「俺さ、やっぱ今の彼女の事、好きじゃない。」
「は…?」
「あっちから告白してきて、付き合ってみたけど… やっぱり好きになれなかった。」
「は?それじゃあ、私と一緒じゃん!!」
「…」
私から告白してきたから、どうしても断れずに “仕方なく付き合った”。
そして、それは今の彼女も同じのようだ。
フラレる側の気持ち、本当に何も考えてない。
健人くんが好きだからこそ、彼女としての立場に戻りたくなるんだよ…っ!
「無理して付き合うぐらいなら断れよ!!」
「!」
私は、怒りと悲しみの混じった感情の詰まった 大声を荒げた。
たった一文でも、全ての心情が目に見えて分かるように…
そして、健人くんの応答を待った。
それは意外に早く訪れた。
「無理してないよ……っ」
「はぁ____」
「本当なんだって… 嘘じゃないッ……!!」
「嘘ばっかついてきて、よくそんな事言えるね!?」
「……っ!!!!」
健人くんは、涙ぐみながら何とか言葉を続けていた。
もう、そんな演技には騙されないけどねっっっ!
だから私は、覚悟を決めて健人くんに追い打ちをかけることにした。
私と同じ悲しみを味わえば良いんだ!! こんな奴知らないッ!!
「もういいよ。」
「七葉____」
「もういいよ!!!!」
「な……は……っ」
『もういいよ。』
この、残酷な一言に感情を表した私。
これで悔いは無い…… よね。
その後私は家に堂々と歩いて帰り、健人くんは私の足跡を辿ろうとしなかった。
・・・
―――中学3年生の三学期に差し掛かった、桜咲く春頃。
あんなに汗を垂らした思い出の夏も、悲しさに溢れて涙が顔を覆ったあの夏も…
あっという間に過ぎていって、気付けば 春が息吹いていた。
そんな一年間、私は健人くんの事を忘れようと懸命に努力した。
言われて辛くない人は居ないであろう、あの言葉を発した私だけど、何故か健人くんとの思い出はいつも 頭の片隅に残っている。
忘れたくても忘れられないこの感情は、私が健人くんの事を好きでいた時と一緒だった。
――そう言えば今、私は健人くんの事が好きなのだろうか?
いや、あんな最低な奴、好きな訳無い。
健人くんは、私だけでは無く、頑張って告白してくれて付き合った 彼女でさえもを傷つけた。
そんな人、ずっと好きでいても意味が無い物だ。
____人として、元カノとして______
―――そして、とうとう中学校卒業の日がやって来た。
今日、私達は中学校を卒業して、それぞれの新たな道へと突き進む。
これで、健人くんとの生活も最後だ……
思い返せば、これまで沢山の“青春”を肌で感じてきた。
健人くんや春人と一緒に______
――そんな思い出が詰まったこの中学校、そして友達……
「っ……」
これで最後かと思うと、急に惨い事をしたかも、と感じてくる。
あの時こうしておけば良かった、という後悔だけが、目の前を横切っていく。
ただやる事だけが終わっていく卒業式会場に、私はずっと過去を思い返していた。
その私の隣の席で、健人くんが同じ状況に陥っているのが私の視覚にチラッと入った。
「ッ!」
「……」
―――そんな健人くんは、私に『寂しい』と言った時と同じ表情をしているように見えた。
高校、違うもんね…
健人くんがどこの高校に行くかは知らないけど、絶対お互いで違うことは確実。
もう一生、仲直りすら出来ないんだ…
また後悔して、泣いて、辛くなるだけなの……??
全部自分のせいだ。
そう、分かってる。全部、自分の発言が 自分を懲らしめてるだけなんだ。
自覚している、のに……
いざ健人くんの前に立つと、ついキツい発言ばかりしてしまう。
そんな自分が余計に嫌になる___
「(はぁ… )」
声にならないため息が、この卒業式の中で何度零れただろうか。
そんなの誰も気にする訳も無く、どんどん卒業式は進んでいく。
そして、卒業証書授与も無事に終わり、とうとう卒業式が終了した。
もう記念写真等は撮っているから、後は家に帰るだけなんだ。
皆は、誰かと思い出話をして楽しむのかも知れない。
でも、私はそんな気分では居られなかった。
それはもちろん健人くんも同じ。
終わってから教室に帰ると、健人くんを遠目に 春人がズカズカと話しかけてきた。
「なぁ、アイツとはどうなったんだ?」
「ちょ、春人… 本人いるって…!!」
健人くんも 私と春人の会話には勘づいていて、じっとその場に立って次の言葉を待っている様子だった。
私が小声で注意をしたのにも関わらず、春人はさっきよりも大きな声を出した。
「もう後悔は無いんだな? 本当にそれで良いのか?七葉。」
「っ……!!」
「ちゃんと気持ち、伝えた方が良いんじゃないのか?悔い残ってるだろ?
な、健人。」
「____!?」
春人は、その言葉と共に健人くんの方を振り返った。
健人くんは まさかの春人の行動に大きく動揺した。
でも、健人くんは そこで怯みはしなかった。
深呼吸をして、春人に言葉をかけたのだ。
「言いたいことは、七葉を『好き』っていう事だけだ。」
「!?」
「は…!?嘘だろ______」
「嘘じゃねぇよ!!」
「健人くん………?!」