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「久しぶりです。エトワール様。珍しいですね、ポニーテール似合ってますよ」
ニコニコと、いつもの笑顔を向けられたはいいが、ブライトにもポニーテールを誉められるなんて思ってもいなかったため、顔が引きつった。ブライトも、まさかとは思うが、アルベドと重ねている部分があるんじゃないかと、深読みをしてしまった自分を殴りたい。
(うーん、アルベドからブライトに殺意は向けていたかもだけど、ブライトは、アルベドと仲良くしたいとは思っていた感じだったからなあ……)
眼中になかったわけじゃないだろうけど、アルベドよりも、ブライトはリースがあまり好きではないといった感じだったし、とまた一人で考えていた。眉間に皺が寄っていたのか、ブライトに「どうかしましたか?」と顔を覗き込まれてしまって、思わず、ぴぎゃ、なんて変な声を上げてしまった。
「エトワール、変な声」
「うっさいわね。誰でも驚いたらこんな声出すわよ」
「俺は、出さないよ」
「アンタのは聞いてない」
そう返せば、ラヴァインは私が言った言葉が矛盾していると、一人腹を抱えて笑っていた。本当に、兄弟揃ってなんなんだと、殴りたくなったが、ブライトの手前、そんなこと出来ないとグッと拳を握った。
「えっと、立ち話も何ですから上がって下さい」
「ご、ごめん。ブライト、ブライトも忙しいだろうに」
「大丈夫ですよ。僕こそ、伺おうと思っていたので、来て貰えて嬉しいです」
と、ブライトはふわりと花が咲くように笑った。
相変わらずいい人だなあ、何て平凡な感想を抱きながら、私はお言葉に甘えて上がらせて貰う。因みに、今日は護衛にアルバ、侍女としてリュシオル、そしてラヴァインを連れてきている。比率的には女性が多いが、ブライトはレディファースト精神はあっても、女性優位とか、男性優位ではなくて平等に接してくれるので嬉しい。アルバとも仲がいいようで、アルバも快く護衛を頼まれてくれた。
アルバも、まだ傷が完全に癒えきっているわけではないが、返事は「はい」だけだった。迷いもなく、私の護衛であることを誇らしいとでもいうような眩しい顔に、私も、負けずと頑張ろうと思えた。
(いつ如何なる時もしっかりしなきゃだね)
自分にそう言い聞かせるも、何というか、イマイチぴんときていない感じだった。もう、気を抜いても大丈夫だろうと、心の何処かで思っているからかも知れない。災厄という物は去ったわけだし、今の私は聖女として役目を終えたわけで。
だから、聖女様、聖女様と呼ばれる事に違和感を覚えたり覚えなかったりもする。混沌がヌ無理に着いたからといって、聖女の持つ浄化の力がなくなったわけでもないし。
「エトワール様、大丈夫ですか?」
そう、私に聞いてきたのは、アルバだった。私が、少し考え事をしていて眉間に皺が寄ってたからか、心配そうに私を見ているのだ。
私は、すぐに大丈夫だと、首を横に振る。
そんなに真剣になって悩むことじゃないだろうと、私は首をもう一度横に振って、自分の心を落ち着かせる。今日ここに来た理由は、それじゃないから。
ブライトに案内され、客間につくと、ブライトはふぅ……と息を吐いた。彼も彼で、最近忙しかったようだし、向き合うべきか考えていた弟は消えてしまったわけで。ブライトの中でも何か変わったんじゃ無いかと思った。彼は、嘘をつくほど優しい人だから。
「ブライトは、大丈夫?」
「何がですか?」
「ほら、疲れているとか」
「いいえ、僕は大丈夫ですよ。それより、エトワール様の方が疲れているんじゃないですか?ほら、色々ありましたし」
と、ブライトは言葉を濁しつつ言った。
ブライトのいいたいことは、主に私が今抱えている問題についてだろう。
アルベド、グランツ、そして、ラヴァインのこと。
ラヴァインのことは、ヴィと呼ぶようにと、ブライトにもアルバにも言っている。何故かと聞かれたが、彼が何の拍子で記憶を思い出すか分からないから、だと私は伝えた。記憶を戻す手伝いをしているのに、これでいいのかと聞かれたらダメなのかも知れないが、ラヴァインが、記憶を取り戻して、私達の命を狙う可能性がある以上、彼に刺激を与えたくないのだ。
(矛盾しているんだけど、これが最善策なのよねえ……)
ちらりと、ラヴァインを見れば、彼の満月の瞳と目が合った。にこりと微笑んだ彼の顔からは、何を考えているのかさっぱり読み取れない。いつもの事なのだが。
「どうぞ、お好きな席に座って下さい」
ブライトに促され、私達は座る。アルバと、リュシオルは自分たちは従者だからと、私の後ろに立った。貴族とか、階級とか、こういう所で不便だと思う。上下関係という物は多少なりにあった方が良い。でも、壁を作りすぎるのは前世がそういう物がなかった時代に生れた私だからこそ、違和感があるというか。座ってくれても良いのになあ……何て思った。私が許可したからいい、といったところで彼女たちが頷いてくれるとは限らないし……
そんな、二人とは対照的に、「じゃあ、俺となりね?」と自分が座ることは何の違和感もないことだろうという風にラヴァインは、私の横に座った。
「ちょっと」
「あ?狭かった?ごめん。でも、この椅子狭くて」
「じゃなくて、何でアンタが座ってるのって聞いてるの!?何で?」
「何でって、俺は客だし」
「でも!」
「大丈夫ですよ。エトワール様。彼も記憶は無いとは言え、ね?」
と、ブライトが目で大丈夫ですから。と伝えてくれる。
確かに、ラヴァインは貴族だし、客だし座っても可笑しくはないのだが、それにしても遠慮が無いというか、自分中心に世界がまわっているとでも考えているのだろうか。本当に、どうかしている。
「少しぐらい、こういうのは遠慮する物なのよ」
「でも、エトワールは座ってるじゃん?」
「それは、ブライトにいいって言われたから。アンタは言われてない」
そう、私が言えば、心外だなあ何て肩をすくめる。自分は悪くないと言いはるこの男をどうしてやろうかと。締めてやりたいが、私が何か仕掛けても、すぐに交わされてしまうだろう。
落ち着け、と自分にもう一度言い聞かせる。何度、此の男に掻き乱されないといけないのだろうか。
アルベドとはまた違うけど、似たように、いいようにされている感があってちょっと嫌だ。
「そんなさ、眉間に皺寄せないでよ。可愛い顔が台無しじゃん」
「誰のせいだと」
「俺のせい?」
「そうね。アンタのせいね」
私は、プイッと彼から顔を逸らした。これ以上話をしていると可笑しくなりそうだったから。それを見て、ブライトは、ははは……と苦笑いをしていた。痴話げんかのように見えてしまったのだろう。ブライトは、私とリースの関係を知っているから、余計にこんな風に他の人と仲良くしているのを見て、気が気でないのかも。最も、胃に穴が空きそうなほど、リースを押さえているのはルーメンさんなんだけど。
「本当に、エトワール様は人から好かれるんですね」
「そう?嫌われている物だと思ってるんだけど。ほら、ね……一時期あれだったじゃん。偽物聖女だって」
「それは、昔の話です。人は、合う合わないもありますし、あの時は、皆可笑しくなっていた……と、それを理由にするのはあれかも知れませんが、災厄のせいで、皆気が気でなかったんです。ですが、それでも貴方を好きだっていっていた人は少なからずいましたし、僕も貴方に救われた一人です」
「ブライト……」
ブライトは、ふわりと笑ってみせた。もう大丈夫だから、安心して欲しい。信じている。とその目が訴えかけてくる。それをみて、じんわりと心が温かくなるのを感じていた。そんな風に思って貰えるのは、本当にありがたいことで、ブライトのいったとおり、紆余曲折あって、今にいたるわけで、初めから好かれていたわけじゃないけれど、沢山の人達と縁を繋いでいって。
そんな風に、私がじんわりと、過去を回想しながら感傷に浸っていれば、それを邪魔するように、ぶち壊すように、ラヴァインが口を開くのだ。
「へえ、エトワールって、本当に人気者だね」
「アンタのせいで、私の存在が一気に軽くなったんだけど」
「そうかな。でも、エトワールからも信頼を得ている人って羨ましいなって、俺は思う」
「アンタのことは信用していない」
「知ってる。でも……」
と、ラヴァインは言葉を詰まらせた。
何かを言いたげに口を開いたり、閉じたりしていたが、その口から言葉が出てくることはなかった。意気地なしと言えばよかっただろうか、いいや、火に油を注ぐだけだ。
(何を言いたかったんだろう……)
私は、ラヴァインを見ていた。ラヴァインは「俺に惚れた?」何て、ほざいたので、一回げんこつを喰らわせてみる。さすがに手が出た。でも、無意識に。
「いったいなあ……エトワール。そうやって暴力を振るうのはよくないよ」
「アンタに言われたくない」
「だから、何で俺、そんなにエトワールに嫌われてるの?過去の俺が、何かした?」
「思い出したら、分かる事よ」
「えーでも、俺、きっと記憶を失う前の俺も、エトワールのこと好きだったと思うんだけどなあ」
と、ラヴァインはいう。
わざとらしくいうので、また冗談かと流そうとすれば、ラヴァインは「本当に」と付け加える。
「だって、俺、一目惚れしたんだよ?エトワールに」
「は?」