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洗面台。そこにはいつものように26歳独身女の顔が映る。すっぴんと言うおまけ付きで。誰も付近を通りかかったりはしていない。なので、この先誰かに見られる可能性も少ない。こんな変顔かもしれない顔をしているような人に遭遇した人が非常に可哀想だ。だから最善の注意を払って行おう。
手順はあの時と同じだ。楽しい事考えてその時の顔を見る!理論上は簡単!!しかし私の表情筋が言うことを聞いて鏡を見てる間にもその表情になってくれているか、そこが勝負だ。では、検証レッツゴー!
心で叫び、鏡に再び向き合う。
前回、妄想のやりやすさのために目を閉じたけど、そのせいで無駄な思考が生まれたし別に目開けたままでも良いんじゃないか。そのアイデアを採用して目を開けたまま、鏡を向いたまま、自分が思う楽しい思考を巡らせる。
想像は得意。昔を思い出す事もだ。想像した事は様々。そんな自慢は置いておこう。
何度も挑戦したので事細かに内容を言うのは長くなるのでアレだが、子供の様な純粋で可愛らしい物だと信じて欲しい。誰に向けてかとかなんてどうでもいいが私は健全な思考の持ち主だ。
しかし、そんな事はどうでもいいし、結果も発表するべきだろう。予想通り全敗である。私の表情筋は手強かった、私は自分の表情筋に勝てなかったのだ。なんと言う悔しさだろう。例えるならばセール商品のラストひとつを目の前で取られた位の悔しさ。それと同じくらいどうも出来ない問題でもある。仕方ないので、今日は撤収する事にしよう。
よろよろとトイレから出て、廊下に足を進める。ああ、モヤモヤする、安眠は出来るだろうか?表情筋だけでなく親友にまで裏切られたら私は泣くかもしれない。そう考えながら、どうせ誰もいないだろうと信じ込んで歩いていた。私の欠点は何かに集中をしている時、他が疎かになる事だろう。
ドン。
少し鈍い衝撃が、体の前面を覆う。視界が暗く染まる。誰かとぶつかったんだ。そうすぐに悟った。焦りと申し訳なさですぐに後退する。
「すみません!!本当にすみません!怪我無いですか!?」
「無い。ちゃんと前見て歩け。」
聞き慣れた声。どうやら私は上司にぶつかってしまったらしい。まずい。恐らく怒ってないと思うので、ここは穏便に済ませ____
_____待て。絵心さんはあの顔を目撃してたんだよな?ビックチャンスじゃないか。自分の顔面を知れる。こんなチャンス訪れないかもしれないじゃないか、聞くかないと。 私は口を開く
「あのー絵心さん。ぶつかってしまった身ではあるんですが、すこーしだけお時間頂いても?」
「君のメンタルどうなってんの?」
「図太いとは自覚してます。お願いしますどうしても聞きたいことが!!ほんとに!!死んでもいいので!」
「あーあー分かった分かった。だからもう騒ぐな。あと簡潔にね。」
多少強引だが成功だ。もう私の勝利は確実したようなものだ、さあ早くと聞くぞ。
「確認なんですけど…昨日、私いつもと違う感じの顔してました?」
「うん、そんな事聞きたかったの?」
あっさり肯定が入った。まあここは想定の範囲内だ。これで終わりでは無い。
「えーと…例えるならどんな感じの……」
これは完全に絵心さんのセンスにが問われる。絵心さんの表し方により私の理解度が変わる。さあどんな物が来るだろう。そもそも答えてくれるだろうか。
「……そうだな、人殺したみたいな顔と数日ぶりに獲物を見つけた目を足した感じ」
……おっと、私がとてつもなくやばい顔していた可能性が浮上した。そんな顔をしていたら体調とか色々と疑われるのも当たり前だろう。「ちょっと怖い」って言われるのも。何ならちょっとというレベルを超えていないか?そんな顔を上司の前で晒したか。最低だな私は。
「あーっと…見苦しい顔を見せて本当ごめんなさい、気をつけるんでー…」
「後さ。さっき言った顔、今もしてるんだけど」
「へっ!?」
しまった、気が緩んでいたかもしれない。しかし、今は、あの時のような事を考えてはいない、説明と考察に夢中だ。仮説が崩れてしまった。ならばどのような条件なんだろう。
「俺はいつもの灯菜ちゃんとは違うそういう顔好きだけど、他の奴らは違うだろうし、気をつけとけよ。」
「あ、えっと、はい…これで終わりです…ありがとうございました……」
絵心さんってそういうの好きなんだ、受け入れてくれるんだ。少しその事に驚いてしまった。気をつけるに越したことは無いが、そうか、好きなのか_____
絵心さんと別れ、また1人で寂しく廊下を歩く。何故だかさっきの言葉を反芻し続ける。絵心さんはそんな表情が好きだとか、そもそもサッカー以外で好きとかあるんだ、と、その事が非常に意外に感じた。後私の事、ちゃん付けて呼んでいたな。アンリさんもそう呼んで居るので彼にとっては普通なのは分かっているが、何故だかそれら全て、私の心が湧き上がる原因になっていた。
高ぶる思考と共に、心臓も鼓動を増す。いつの間に他人に聞こえるのではないかと思うほど激しく脈打っていた。とにかく、この変な姿を誰かに見られたくない、部屋に戻ってしまおう。
親友に裏切られる覚悟はもうしておいた。
スクロールお疲れ様です……今回少し長めになったかもしれません。そろそろいい展開になって来ました。次回もぜひ見てください。