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佐久間くんを抱きしめて少しだけ眠って、早めに起きて朝食を作った。食べてもらうのは最後かもしれないから、丁寧に手の込んだものを。
美味しそうに食べる佐久間くんを見て、幸せを噛み締めてた。
この後俺は、この幸せを手放さないといけない。そう思ったら、何だか泣きそうになった。
「『契約恋人』を解消したい」
俺がそう伝えると、佐久間くんは穏やかな表情で目を伏せた。それがどんな感情からなのかは、分からないけど。
解消を申し出た後も話を続けようとすると、ちょっとびっくりしてた。
取り繕ったところで意味はないから、自分が思ったままを正直に打ち明ける。
佐久間くんと『契約恋人』になって楽しかったこと。
これまでの人達とは出来なかったことも佐久間くんとなら出来たこと。
ずっと、幸せだったこと。
自分の気持ちを素直に伝えていくけど、本音は怖くて堪らなかった。
そんなつもりなかったって戸惑わせたらどうしよう。勝手なことを言ってるって怒らせるかもしれない。
何より、俺の気持ちを否定されたら。
でも、言わずにこのままではいられない。
「…本当は、ずっとこのままでいいかなって思ったんだ。偽物だけど幸せだから、それでいいんじゃないかって。でもやっぱりそれじゃ駄目だから。佐久間くんの気持ちを置き去りにしたままじゃ、俺が嫌だから。だから、ねえ、佐久間くん」
戸惑いに揺れる佐久間くんの瞳を真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりと口を開く。
「佐久間くんが、好きです。本当の恋人になってくれませんか…?」
佐久間くんの大きな目が、驚きで見開かれる。
胸元の服をぎゅうっと握りしめて、小さく「…え…」と呟いたきり言葉も出ない様子だった。
そんなの当たり前だ。だって俺は『契約上の恋人』でしかないんだから。そんな奴が本気になるなんて、きっと考えてすらいなかったよね。
「佐久間くんにその気がないなら、ちゃんと振って。中途半端に優しくされたら諦められないから。そのくらいもう、すごく好きなんだ」
ごめんね。好きになっちゃってごめん。伝えずにはいられなくて、自分勝手でごめんなさい。
それでももう、佐久間くんを好きな気持ちは消せないから。
だから、お願い。ちゃんと振って、諦めさせて。これ以上佐久間くんに迷惑かけなくて済むように。
祈るような気持ちでその時を待っていると、不意に佐久間くんの瞳が揺れた。前触れもなく、ぽとりぽとりと次々に大粒の涙が頬を滑り落ちていく。
その涙があまりに儚くて綺麗で、触れて抱きしめようと手を伸ばしかけて…止めた。
『契約恋人』ですらなくなった俺に抱きしめる資格なんてあるのか。それでも泣いている佐久間くんをそのままにはしておけなくて迷っていると、佐久間くんが震える声で呟いた。
「…ちゃんと、抱きしめて」
「え…?」
今、何て言ったの?
言われた言葉の意味がすぐには理解出来なくて。戸惑いながら佐久間くんを見つめると、溢れる涙をそのままに言葉を続けていく。
「躊躇わないで。手を止めないで。恋人なら、ちゃんと俺のことぎゅうって抱きしめてくれよ」
「佐久間、くん…?」
俺を見上げる佐久間くんの目が段々と熱を帯びてくる。それは俺のよく知るもののように見えて、でもやっぱりそんな都合のいいことあるかよって思った。
そんな俺に、佐久間くんが一生懸命伝えてくれる。
「好き。蓮、好き。もうずっと好きだった。契約でもいいから恋人になれて幸せだって、そう思えるくらいずーっと好きなんだよ」
後から後から溢れ出る佐久間くんの涙が、本当だよって言ってるようで。ようやく事態が飲み込めた俺の目尻から、一筋だけ涙がこぼれ落ちたのが分かった。
我慢出来ずに佐久間くんの方に腕を伸ばして、強く強く抱きしめる。心地好い佐久間くんの温もりと優しい匂いに、胸がいっぱいになった。
「佐久間くん、佐久間くん…好きだよ、大好き」
加減が出来なくてきつく抱きしめてしまう俺の背に佐久間くんの腕が回される。同じくらい強くしがみついてくれるのが嬉しくて、頬を摺り寄せた。
「俺も好き。ずっとずっと好きだった…っ」
そう囁いて声を上げて泣き始める佐久間くんに、愛おしさが募っていく。俺はもう、この人を手放せない。どんな事があっても。
抱きしめたままでも見える髪やこめかみや耳に、何度もキスを降らせていく。こみ上げる愛しさのまま、合間に「好き」と囁きながら。
こんなに誰かを好きだって、愛おしいって思えるんだ。恋ってすごいな。
コメント
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し、心臓が止まりそうっす…。 好きすぎる! もうときめきしかないっす。