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巳琴side



無言で縞模様の人の後を歩く。



今からどこへ連れていかれるのだろう。



次は手をあげない主人の元へ行けるといいな。



伊黒『そういえば名乗っていなかったな』



沈黙が破られる。



伊黒『伊黒小芭内だ。こいつは鏑丸。好きに呼ぶといい』



“好きに”と言われると困る。



今まで自分の意見など言う機会もなかったし考えようとも思ったことがないから。



巳琴『………………伊黒様』



結局、長く考えて無難に苗字で呼ぶことにした。




伊黒『ここだ』



着いた場所は大きな屋敷。



甘露寺『その子が巳琴ちゃんね!可愛いわ〜!』



奇抜な髪の女の人が出てきた。



大きな声に体が固まる。



甘露寺『あっ、ごめんなさい怖がらせちゃったかしら』



ころころと表情の変わる人だ。



甘露寺『甘露寺蜜璃です、よろしくね』



甘露寺と名乗る女性が目線を合わせて優しく微笑む。



巳琴『甘露寺様、よろしくお願い致します。』



甘露寺『蜜璃でいいわよ〜!』



巳琴『蜜璃、さま』



甘露寺『んー、』



まだ納得できないらしい。



甘露寺『蜜璃ちゃん』



巳琴『蜜璃………………』



巳琴『……さん』



流石にちゃん付けは抵抗がある。



甘露寺『まぁいっか!』



満足そうに微笑む蜜璃さん。



伊黒『俺の同僚だ』



伊黒『俺は女の好みが分からないから服を買うのを手伝ってもらう』



服なんて着られればなんでもいいのに。



甘露寺『おいで』



手を差し出されるも、どうすればいいのか分からない。



巳琴『…………』



暫く固まっていると、困った顔をして私の手を取った。



甘露寺『さぁ、可愛いお洋服たくさん買いましょうね! 』





甘露寺『これはどう?』



巳琴『………………素敵ですね』



甘露寺『これなんて可愛いんじゃない?』



巳琴『…………………………素敵です』



蜜璃さんが困ってる。



でも好きなものなんて分からない。



自分で考えられない。



どれが綺麗かなんて分からない。



私に聞かないで。



甘露寺『んー、どれも似合ってて素敵よね』



伊黒『なら全部買おう』



全部?



全部って言った?



試着したのは少なくとも10着。



洋風の服もあるしどれも高そうだ。



巳琴『1着で十分です、!』



伊黒『気にしなくていい』



甘露寺『大丈夫よ〜!私たちお給料たくさん貰えるのよ!』



どんな仕事してるの? この人たち。



甘露寺『次は髪飾り買いに行きましょう!』



甘露寺『髪が長いと大変だものね!』



巳琴『は、はい』




in髪飾り屋



甘露寺『どれか気に入ったものはある?』



そんなこと聞かれても……



巳琴『……!』



蛇の簪。



白く塗られて瞳は紅。



鏑丸くんと一緒。



巳琴『きれい、』



伊黒『蛇の簪か』



甘露寺『木彫りね!素敵!』



甘露寺『どう?』



巳琴『…えっと、』



甘露寺『ふふっ、これにしましょうか』



また、伝えられなかった。



さっきだって嬉しかった。



自分のために何か買ってもらうことなんてなかったから。



巳琴『っあ、ありがとうございます、っ』



伊黒『気にするな』



巳琴『…………っ』



心が暖かい。



初めてこんな気持ちになった。



無意識に頬がほころぶ。



甘露寺『笑顔も可愛いわ〜!』



蜜璃さんに抱きつかれる。



また、暖かい。



“しあわせ”ってこんな感じかな。


きゃぁぁあッッ!!!!


突然、誰かが叫ぶ。



『泥棒!!誰か捕まえて!!!』



驚いて体が固まる。



動けない。



目の前から大きな男が走ってくる。



父親の姿と重なる。



巳琴『ぃやッ、』



男『どけッ!!』



突き飛ばされる。



怖い。



息が上手く吸えない。



目の前が暗くなる。



巳琴『くらい、こわッ、ぁ、ひゅっ』



甘露寺『大丈夫よ〜、今私がぎゅってしてるの。』



甘露寺『今悪い人は伊黒さんが捕まえてくれたからね』



恐怖でもがく私を優しく抱きしめてるくれる蜜璃さん。



甘露寺『怖かったね。ゆっくり深呼吸しましょうね』



優しい声色が心に染み込んでくるみたい。



伊黒『大丈夫か』



甘露寺『少し驚いちゃったみたい』



優しく頭を撫でながら伝える蜜璃さん。



少しずつ呼吸が落ち着くと、段々と周りの状況もわかってきた。



伊黒様がすぐに男を取り押さえて盗まれた商品も返されたらしい。



巳琴『申し訳ありません。もう大丈夫です』



甘露寺『無理しないで、おぶってあげるわ!』



巳琴『ですが、』



甘露寺『いいのいいの!』



甘露寺『子供はいっぱい甘えるものよ』



巳琴『では、』



こんな華奢な女性で大丈夫かと思ったけど、案外余裕なようだ。



そんなことを考えていると、瞼が重くなってくる。



甘露寺『眠い?』



巳琴『いえ、っ』



甘露寺『ふふっ』



甘露寺『か〜ら〜す』



甘露寺『なぜ鳴くの〜』



優しい声が心地好い。



甘露寺『ね、伊黒さん』



甘露寺『なんだか妹ができたみたいで嬉しいわ』



伊黒『君が良ければまた……』



蜜璃さん。



また、会いたい。



心地好い2人の会話を聞き乍、私の意識は眠りに落ちた。





























大正コソコソ噂話


両親からの愛を受けたことのない巳琴は手を繋いだことも母の手に抱かれたこともありませんでした。甘露寺に抱きしめられ、初めて感じた温もりは冷えた巳琴の心に深く刻まれます。

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