テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
前世ではよくあるゲーム展開、映画やらアニメでも見られたので思わず質問したのだが、声の主は叫んでいた。そんなに意外だっただろうか。
(最悪の展開を想像していたのだけど……これってドン引きされている!?)
『んなもったいないことするわけないだろうが! いいか、聖女候補ってのは、その宿命に抗い、奮闘してきた者だ。それを殺し合わせるなんぞ、面白みも何もないだろうが!』
(面白みとか、もったいないって……)
『…………ごほん、あーあー。人間は相変わらず物騒な思考をする。安心しろ、そういった趣向じゃない』
驚いたことをなかったことにしたいのか、仕切り直しという感じで言い直した。とりあえず最悪の状況は回避出来そうなのでホッとした。
「そうですか。それはよかったです。あ。今のを神前誓約書にもサインしてもらえますか?」
『神や高位種族にソレ出すのか。マジか。マジだな。……あー、わかった…………書類は教会に送っておく』
「ありがとうございます!」
不自然にならないよう視線だけ左手首の数珠に移す。やはり白いままで変わらない。嘘偽りを語られたときに数珠の一つが黒く染まるという魔導具はこういうときに便利だと、内心でほくそ笑む。
少女たちの何人かは質問の意図に気付き、安堵の色を見せていた。
(とりあえず最悪の事態は回避できそうね。もし生き残り戦だとしたら、今ここで全員お亡くなりになっていただくしかないし)
私は見知らぬ誰かのために死ぬほど、お人好しではない。今世は悪役令嬢の役割が終わったら自由に、楽しく生きると決めているのだ。色々予定は狂ったが、話を聞く限り乗ってみるのも悪くない。そう結論づけた。
『それでは、よりよい選択を期待している』
会話は一方的に終了した。開始と言うことだろうか。
ふむ、と顎に手を当てつつ思考を巡らせる。
(第二の人生が早くも想定と違うのは、この際呑み込むとして……とりあえずはこのオーリム国がフォルトゥナ聖王国から見て、どの辺りなのか。そもそも同じ世界かも不明。治安や生活水準、仕事内容を鑑みて問題なければしばらく羽を休める形で住むのは……有りかな。聖女候補の仕事内容が……ネックだけれど。あと聖女になったら面倒そうな気がする。というか悪役令嬢がいきなり聖女候補って正気かとしか思えないし、どうにも引っかかる)
本当に慈善活動こ一環だけなのか、と。
ほんの数分だったと思う。ステータスやアイテムボックスの中を再確認しているところで、再び声が降ってきた。
『おい、お前だけだぞ。さっさと移動しろ』
386
#長編
「ん? ……え」
空からの声に周囲を見渡すと誰もいない。誰も声をかけてくれなかったことに軽くショックを受けつつも「現実なんてそんなもの」と思い直す。
(ふっ、悪役令嬢としてぼっちだったから、今さらだわ。でも叶うのなら今度は心から仲良く出来る友人を作ろう)
『おい、怖じ気づいたのか?』
「いえ。この格好だと動きにくいので、少し待ってください」
『は』
ドレスはさすがに着替える場所がないので、靴だけでもブーツに変えるためアイテムボックスから取り出す。騎士団御用達の靴屋に特注で作って貰ったロングブーツだ。それと片手剣とベルトを出して戦闘準備を整える。
『はぁあ? なんであの子、亜空間ポケットを持っているのよ!?』
『……神々の加護でしょうか。何とも規格外ですね』
『ちょっと魔王、どこでこの子見つけてきたのよ! 欲しいわ』
『教える訳がないだろうが!! 誰がやるか』
今度は複数の声が聞こえてくる。
周囲に誰もいないはずだが、見られているという視線はバシバシ感じられた。複数の神様的な高位の存在なのは察したが、自由すぎないだろうか。
(なんか思って以上に運営側は賑やか……。でもこんなに早く『魔王』という単語が聞こえるなんてね。ラフェドがいるのなら、彼の国の可能性がググッと高くなったわ)
転生して記憶が戻った時に、魔王と名乗った人外のラフェドと、もう一度会いたいとは思っていたのだ。
前世では友達以上恋人未満のような関係だったので、今世では友人ぐらいになれたら良いなとは思っている。すでに16年以上経っていているのだ。見た目も立場も事情も大きく変わった今、あの時の約束を履行してもらう必要もない。
何より非常にモテていた彼が、私を覚えているとも限らない。女癖がすごく悪かったし、そんな男が遊戯と言葉を漏らしたのだ。この聖女候補者なんかも、実は高位な存在の出会いの場なんじゃないかと思い始めてきた。
(まあ、その場合は彼の角から作ったという指輪を熨斗付けて返すだけだわ。今世も私は自由に生きると決めたのだから!)
『用意が出来ていたのならさっさと行け。言っておくが敵なんていないぞ』
早く行けコールが煩いので、迷宮に足を踏み入れた。
次の瞬間には、真っ白な転移回廊に出る。ただ迷宮と言っても地下迷宮と違うようで、声の主の通り敵の姿はないようだ。
(……にしても、アイテムボックスってそんなに貴重なものだったかしら? 祖国の人間なら……うーん、そう言えば持っている人、いたかしら?)
色々考えるもひとまずは進もうと思った矢先、時折空間が歪むような画像の荒さに気付く。グリッチというのか一カ所だけ目に付いたのだ。
(……バグ? それとも仕様?)
ふと足を止めた刹那、空から声が振り落ちる。
『あーあー、よりにもよってそこを選んだかー。死亡確定じゃん』
(ん?)
ヴィィイン!
「!?」
気付けば回廊が消えていて、白に近い若草色の草原の先には、お洒落な洋館のある空間に出た。周囲を見渡すが、聖女候補者の姿はない。暖かな風が白銀の髪を揺らした。
(んん? 空間転移? ここが目的地?)
左右対称のルネサンス調の外観に似た洋館が見え、その後ろには白銀色の森が広がっている。どう見ても薄い灰色の街ではないのは確かだ。
「理想的な屋敷……はっ、私の心象風景?」
安易な考えをしていると、頭上から声が響いた。
『んな訳あるか! いいか、そこは危険区域だ。今すぐに──って、出入り口が消えている!? 誰だ消したの!』
『しらない』
『は? 何でよりにもよって、アイツのいる空間に出ているんだ? 誰だ、ルートを変えたのは?』
唐突に苛立った声が空から聞こえる。先ほど説明をしていた男の声だ。この人神様と言う割には人間くさいというか、感情豊かだなと思う。ラフェドもという人外も、角はあったが人間味が溢れていた。思考回路は意味不明だったが。
『いやいや~、勝手に隠し空間に入り込んだのは、その子だからね~』
『お前の仕業か、ユストゥス!』
『面白そうな子だったけれど、ここでリタイアとはな』
『……ってか、なんでアイツが帰った後に!』
『運がなさ過ぎる』
(不穏な情報ばかりが聞こえてくる。え、なにここヤバい場所なの? 隠れボスとか?)
ふと洋館に目がいっていたので、近づくまでそれに気付かなかった。それは玄関前に体を丸めて眠っていたドラゴンが居たのだ。全長10メートル前後で、銀色の鱗が宝石のように煌めいた。神秘的なその巨体を前にして、息が止まる。
(隠しボスはドラゴンだったのね!)
ごつごつとした鱗に、コウモリのような翼を羽ばたかせ、大型の爬虫類に似たものの、白く長い二本の長い角。白銀に煌めくたてがみは美しい。
グルルル。
ゾッとするほどの威圧に、目を瞠った。
「──っ」
『ああ、精神圧に当てられて終わりかぁ』
『可愛そうに、震えているじゃない』
(わああ! 生きてる。本物だわ!)
かつて無い衝撃に、全身が震えた。冒険者になって戦う魔物の殆どは、狼などの四足獣で獰猛かつ邪悪な感じでもふもふしたいとかハグしたい見た目ではなかったのだ。
しかし今、眼前にいるのは絵本のドラゴンそのものだった。
(夢見たドラゴンにこんな早く会えるなんて、なんて幸運なのかし……ら? ん?)
ふと足に力が入らず、崩れ落ちそうになった。その違和感にすぐさまステータス画面を確認する。
今まではHP、MPだけだったのに、いつのまにか表示内容がバグ状態になってフォントから何もかも変わっていく。
体力、魔力はなんとなく分かるが精神汚染度と精神干渉侵食度、精神耐久度の三つが増えた。しかも現在進行形で不可視の攻撃を受けている。
(隠しラスボスらしい特殊効果と領域支配効果が掛かっているのね……。ますますRPGだわ)
グルグル……。
唸るだけで咆哮を上げることも攻撃もない。それでもこの空間にいるだけで、精神汚染と精神干渉による攻撃を受けている。この場合、眼前のドラゴンに対話する考えを持たせるだけの存在感を示さなければならない。
(それなら、私がすべきことは一つだわ)
一歩前に踏み出し、眼前のドラゴンを前に微笑んだ。こういう時は高らかにけれど気品と気高さを持って──宣言する。
「初めまして、隠しボスのドラゴンさん。私は元悪役令嬢役改め聖女候補者シルヴィア・ローレン、貴方に勝利してペットにして屋敷丸ごと頂くことを宣言しますわ!」