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『いやその選択肢はおかしいだろうが! 良いか今から使いを送るから、それまで生き残れ!』
ぎゃあぎゃあと空から声が聞こえたと思ったらブツリと切れてしまった。なんとも忙しい人だ。
(……そういえばラフェドもアドリブが弱かったような)
ステータス画面の状況を見て、『待つ』という選択肢は、自身の死あるいは状態異常になる可能性が高い。ここでドラゴンに認められるにあたって、できることがまだ残っている。
(ここでなら魔法が使えるかもしれない……!)
せっかくこの国に来たらMP表記があるのだ、ここで使わずにいつ使う。緊張半分、好奇心半分。声が裏返らないように呪文を口にする。
「……こほん。光魔法術式展開、光の・鎖レベルMAX」
金色の魔法陣がドラゴンの頭上に展開し、幾何学模様が崩れ光へと還元される。
その金色の光を纏って紡がれた鎖はじゃらじゃらと音を立ててドラゴンの首と羽根、脇腹に前肢、尻尾を拘束していく。
ギャ!?
ドラゴンは突如現れた光の拘束に虚を突かれたのか、大きな目を見開いていた。
「やった! フォルトゥナ聖王国と違って使えたわ!!」
ぐおおおおん!!
ドラゴンは激しく抵抗するもドラゴン自身の魔力を吸い取って鎖が太くなる。魔力吸収によって拘束力を強める厄介な魔法を駆使して、動きを封じることに成功した。
「貴方の魔力が尽きるまでその鎖は消えないわ!」
ギャギャ!?
初めてにしては、上手く魔法が発動してくれたようだ。MPがごっそり奪われたけれど、これなら強化魔法も使えるはずだ。未だ不可視の攻撃は受けている。ドラゴン的には私を認めてはいないということだのろう。
「魔法術式展開、肉体強化、超肉体強化《ブーストプラス》、加速!」
全体への強化魔法を行い、両足と右腕に更に重ねた。ドラゴンは未知なる脅威に身に危険を感じたのか、咆吼ではなく伊吹で抵抗する。
ぐぉおおおおおおおんんん!!
それを合図に、駆け出した。
ステップを踏むように軽やかな足取りで、躊躇いなくドラゴンに突っ込んでいく。蛮勇、無謀とは異なり光の拘束と計算された最短距離を駆け抜け、五体満足のままドラゴンの頭上へと飛び上がる。
「ふっ! 一撃必殺正拳突き!」
そして渾身の一撃を見舞った。普通の少女であれば、ドラゴンの頑丈な鱗を前に骨が折れただろう。だが強化魔法をレベルMAX +重力魔法によって速度と重量を底上げした一撃は重く、ドラゴンを地面に叩きつけるだけの威力となった。
ギャッ!!
どごっ、と倒れ込む音と土煙が舞う。ドラゴンの体が地面の叩きつけた。
(あ。…………ちょっとやり過ぎたかも)
庭先の芝生はメチャクチャだし、ドラゴンの倒れた場所には大きなクレーターができあがっていた。隠れボスのドラゴンを制圧したことで精神汚染度と精神干渉侵食度などのメーターは停止したようだ。
(精神干渉って目に見えない攻撃は厄介だなぁ。今後なんらかの対策をとらないと……)
そんなことを思い改めてステータス画面を覗くと、ポップアップ画面に新たな文言が浮かび上がった。
竜王と絆を結びますか?
→はい*
いいえ
保留*
(絆? 《使い魔契約》とか《隷属契約》、ペットってこと? それとも家族になる的な??)
*注釈には「聖職者一人の立ち会いが必須」と書かれていた。
386
#長編
(聖職者。居るわけないし、しょうがないわ。ドラゴンさんが起きるまで先に洋館を見て回ろう)
ドラゴンの拘束はそのままにして、洋館に向かった。しかしドアノブに手を掛けた途端、弾かれてしまう。
「!?」
『入出不可』と新たなポップが出た。注意書きもあるので目を通す。
「ふむふむ。入出は洋館を購入のみ……なのね。うーーん。金額的には出せないことはないけれど……」
それは冒険者として自分で働いた金銭であり、逃走資金でもあった。その三分の一を失うのは正直痛い。でも今後聖女候補者として、教会での共同生活から解放される。何より外観のセンスが素晴らしい。元から一人暮らしに憧れていたのもあり、手に届く金額で手に入るのなら、安い物ではないかと考えに至る。
「……うん、買おう。そしてバリバリ仕事をしてまたお金を貯めればいいわ!」
「随分と楽しそうだな」
「ん?」
屋敷を購入し、所有権を得た直後に声をかけられた。声に振り返ると見知らぬ聖職者が佇んでいるではないか。いつの間に。
(……あ)
鳶色の短い髪に、切れ長の眼の色はヴィオレ色で、目鼻立ちがと整った美しい男だ。黒のカソック姿で、金の刺繍には柊と幾何学模様が施されていた。
聖職者でありつつも、どうも淫蕩な雰囲気がある。外見は二十代とかなり若いが、人ではないのだろう。
そう判断したのは眼前の男の雰囲気に、前世で見覚えがあったからだ。髪の色や外見はやや異なるが、目の色は同じだったのですぐに分かった。
(ラフェド。あの人と同じ瞳の色……!)
こちらを値踏みするヴィオレ色の瞳には、新しい玩具を得たような目をしていた。シルヴィアが愛した、春待ちを慈しんだ眼差しではない。
あっさりと出会えたことの喜びよりも、自分自身のことを欠片も覚えていなかったことに、少しだけチクリと胸が痛んだ。
ほんの少しだけ。
「俺はこのオーリム領教会を預かる最高責任者のアルベルトだ。お前が聖女候補の一人なのはわかっている」
(アル……ベルト……。そう名前さえ違うのね……。そして彼は私が聖女だと言うことは──知っている)
聖女候補。
カケラも気づいてはいない。この結末も分かっていたことだと気持ちを切り替えて、相手を真っ直ぐに見つめ返す。「初めまして」そう言うつもりだった。けれど口から零れた言葉は、彼との約束の言葉だった。
もし、もう一度、出会ったのなら──。
「シルヴィアです。……あの……“貴方にとって白と赤の特別なケーキの取り分は?”」
それはずっと前に決めていた合言葉。16年も前のことだけれど、彼は覚えているだろうか。
「!?」