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「大河、あけおめー」


年が明けた1月3日。


年末年始で休館中のミュージアムで、明日からの再開に備えて映像の入れ替え作業をしていると、洋平が現れた。


「洋平?!どうしたんだ?わざわざ来なくても、俺一人で良かったのに」


「ん?まあ、なんとなく暇でさ。今年もよろしくな、大河」


「ああ、こちらこそよろしく」


静まり帰った館内で、二人で映像の確認作業をする。


『新年明けましておめでとうございます』の文字と干支を入れ、館内の装飾も正月向けに変えた。


最後に二人はミュージアムショップを覗く。


「こうして見ると、ほんとにいいラインナップだな。さすがは瞳子ちゃんのセンスだ。売り上げもすごい数字だぞ」


「ああ、そうだな」


「バレンタインに向けて、新商品も追加しないか?リピーターも呼び込めるしな。瞳子ちゃんなら、また良いアイデアで喜ばれそうなグッズを考えてくれると思う」


すると大河は、何かをじっと考えるように押し黙った。


洋平は大きなため息をつく。


「やっぱりか。お前は瞳子ちゃんの話題となると急に塞ぎ込む。どうしてだ?」


大河は何も答えない。


いや、答えられなかった。


「ひょっとしてお前…、瞳子ちゃんが好きなのか?」


大河はゆっくりと首を振る。


「そういう訳じゃない」


「そうだよな。好きなら、こんな暗い顔して瞳子ちゃんを遠ざけたりしないよな。もっとこう明るく、好きだー!って陽気になるよな。透みたいに。ま、あいつは小学生並みに分かりやす過ぎるけど」


ははは!と笑ってみるが、大河の表情は暗いままだ。


「どうしたもんかなあ。ブツブツ愚痴を言う透はさておき、お前がこんな状態なのは心配になる。俺に出来ることはないのか?」


「ああ。すまん、洋平」


「そっか。まあ、何かあればいつでも相談してくれ」


「分かった。ありがとう」


洋平はポンと大河の肩に手を置いてから、ミュージアムを出て行った。




年明けのおめでたい雰囲気はあまりないまま、アートプラネッツのオフィスでは、変わらず4人がそれぞれの仕事をこなしていた。


表参道のミュージアムは好調で、バレンタインデーが近づくにつれて客足も伸びていく。


最終日のクロージングセレモニー。


その司会は、やはり瞳子と千秋に任されていた。


事前打ち合わせの為、3日前に二人はアートプラネッツのオフィスを訪れる。


「アリシア!久しぶり!元気だったかい?」


ドアを開けるなり、透は満面の笑みで瞳子を出迎える。


「まるで留守番してた子犬だな」と吾郎が呆れた声で言う。


「透さん、皆さん、お久しぶりです。今年もよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくね。さ、入って」


「はい」


オフィスに足を踏み入れた瞳子は、懐かしそうに辺りを見渡す。


「今、コーヒー淹れるね」


「いえ、私がやります。透さんは座っててください」


思わずキッチンに行こうとすると、洋平が笑った。


「瞳子ちゃん、今日はお客様だよ」


「あ、そうか」


照れたように笑う瞳子に、洋平も吾郎も笑みを浮かべる。


ただ一人、大河だけは固い表情のままだった。





「それで、これがセレモニーのタイムスケジュールね。特にいつもと大きな違いはないかな?強いて言うなら…」


そう言って洋平は、資料をめくって見せた。


「次回のミュージアムの予告映像。実は次のミュージアムは、海外で開催する予定なんだ」


ええー?!と、瞳子は千秋と共に仰け反って驚く。


「海外ですか?!」


「そう。パリで新進気鋭のアーティスト達を集めて開く、期間限定の催しがあってね。そこに招かれたんだ」


「パリ?!すごい!」


思わず瞳子は千秋と手を握り合って喜ぶ。


「やっぱりね!近々海外にも進出するんじゃないかと思ってたのよ」


「そうですよね。千秋さん、前にそう言ってましたものね。わー、本当にすごい!おめでとうございます!」


興奮気味の二人に、洋平達も笑顔で礼を言う。


「ありがとう。お二人のサポートのおかげです。そういう訳で、次回のミュージアムの予告映像は、ほんの少しだけ流すことになるんだ。その点がいつもと違うかな?」


「分かりました。わあ、楽しみですね!」


「うん。まあ、俺達は作品作りに必死で、あまり手放しで喜んでる暇はないんだけどね」


「そうか、そうですよね。パリで開催なんて、世界中から注目集めますものね」


「うっ…、瞳子ちゃん。あんまりプレッシャーかけないでね」


「あっ、ごめんなさい!でも皆さんなら、絶対に成功しますよ。アートプラネッツの作品は、日本が誇る技術ですから。海外でも必ず称賛されます」


「と、瞳子ちゃん。それもプレッシャーだよ」


「ああっ!ごめんなさい!」


瞳子が慌てて謝り、皆は、あはは!と笑い合う。


その中心で誰よりも嬉しそうに笑う瞳子に、大河は胸が締めつけられた。




3日後。


【六花〜雪の芸術〜】をテーマにした表参道のミュージアムは、大盛況のまま幕を下ろすことになった。


クロージングセレモニーの最後に、次回の予告として流れた映像は、桜や富士山、京都の風景など、日本らしさを感じられるもの。


それらを次々と映し出し、最後に

『 in Paris 』

の文字が浮かび上がった。


「アートプラネッツの世界観は、遂に海外へと羽ばたきます。どうぞご期待ください!」


瞳子のセリフで締めると、マスコミは一斉に質問を始めた。


「詳細は?」


「いつですか?」


「パリのどこで?」


大河がゆっくりと前に歩み出て、マイクを握る。


「オフィシャルサイトで随時お知らせしていきますので、更新をお待ちいただければ幸いです」


カメラのフラッシュが瞬く中、「冴島さん、意気込みをひと言!」と声がかかった。


大河は小さく頷いてマイクを握り直す。


「アートプラネッツの作品を、日本が誇る技術として自信を持ってお届け出来るよう、精一杯取り組んでまいります。国を超え、言葉や文化の違いを超えて『良いものは良い』と思っていただけるよう、全力で挑みます」


力強い宣言に、おおっ!とどよめきが起こり、またフラッシュが眩く光る。


大河の精悍な横顔を見ながら、瞳子は心の中で大河のセリフを思い出していた。


(良いものは良い)


いつかの自分の言葉を口にしてくれた大河。


まるで心が繋がっているような気がして、瞳子はじっと大河から目を離せずにいた。

極上の彼女と最愛の彼

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