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昆布を噛む。
黒いトレンチコート。
深緑のうねった髪を靡かせ。
ハードボイルドな男は、風を切るように。
歩いていた。
男に、皆目を引かれる。視線が集まる。
「ふん。今日は暖けぇ風が吹いてんな。視線が熱いぜ」
このハードボイルドは、
『出汁 昆布』
昆布を噛みながら、我が道を歩く。
そして、
ひとつのドアの前で止まった。
ビルとビルの間に、小さな小屋。
黒く塗りつぶされた壁に、
『出汁のポイ捨て禁止』の紙が貼られていた。
黒く重い扉を押し込む。
ギギギ、と音がなる。
ドアを開けると、そこは地下へ続く階段だった。
男は階段を降りる。
トン、トンと一定のリズムで。
降りた先にあるのは、茶色のドア。
ドアノブに手をかけ、少し開けると。
中からリズミカルな音楽が漏れ出す。
盛り上がっているようだ。
男は、グッとドアノブを握りしめ引っ張る。
ドアをくぐれば、そこは音が鳴り響くクラブだった。
踊る者、歌う者、飲み合う者。
様々な人が盛り上がっていた。
カツ、カツと、クラブの中を真っ直ぐ歩く。
男を見たひとりが声を出す。
「昆布様が来たぞ!」
その声で、盛り上がっていた観客達は一斉に
男を見た。
昆布は真っ直ぐにステージに登る。
そして、
トレンチコートを脱ぎ捨てた。
漆黒のシャツ。開かれた胸元。
スポットライトが照らす。
口に咥えた昆布を噛み、男は笑った。
乱雑にマイクを取る。キィンと、高い音が鳴る。
「よう、具材共!元気にしてたかい!?」
「「「YEAHー!!!」」」
昆布の掛け声で、観客の歓声は大きくなった。
「今日もぶち上げて行くぜ〜っ!!YEAH!!」
ロックな音楽が歓声をかき消した。
だが、観客も負けじと声を張る。
「uh〜!派手じゃなくても支えてんだ、
迷ったら昆布に決めな〜wow」
昆布の歌が、クラブを揺らす。
「「昆布様〜!」」
観客は、昆布に釘付けになっていた。
「〜〜♪センキュー!!」
「「「「キャアアアア」」」」
パチパチと拍手、歓声が昆布を包む。
「それじゃあ、次の曲行く――」
「おいおいおい、そんな生ぬるい歌、歌ってんじゃねぇぞ。」
#ラブコメ
40
#コミカライズ希望
#七福神
突如として、昆布の声を遮るように、
低い声が飛ぶ。
スポットライトが、部屋の端に移る。
そこには、
帽子を後ろ向きに被る、壁に寄りかかっている者がいた。
銀色のメッシュが入った青髪。
耳には片耳ピアス。
ダボッとしたパーカーの上から、
黒いジャケットを羽織っていた。
首元では、銀色のチェーンネックレスが揺れている。
男は、ニヤリと鋭い歯を見せた。
「なんたって、出汁はおめぇだけじゃないぜ?」
指でリズムを刻みながら、ゆっくり前へ出る。
ガンッ、とスピーカーに足を乗せた。
「俺は、魚介の出汁。――出汁 魚介だ」
歓声が上がる。
「うおおおお!!」
「魚介様ーーっ!!」
「待ってましたァ!!」
魚介はマイクを掴むと、肩を揺らしながら笑った。
「煮干し、鰹、飛魚まで。海の旨味を舐めんなよ?」
ラップの音がクラブに響く。
「Ahー!香りでぶん殴る魚介のパンチ!
一口飲めばお前もランチ!」
「「「huー!!!」」」
突然の参加者に、会場は大盛り上がり。
「俺のかっけぇ、リリックをクリック!
ライムを返せよ、出汁の昆布!」
「「「YEAHーー!!」」」
歓声が、大きくクラブを揺らす。
昆布は、口に咥えていた昆布を噛み切る。
バキッ。
ゆっくりマイクを持ち上げ、低い声で笑った。
「魚介の香りも悪くねぇ。だが――」
スポットライトが、黒いシャツを照らす。
「土台がなけりゃ、旨味は立たねぇだろ?」
「うおおおおお!!」
「昆布様ァァ!!」
昆布はビートに合わせ、指を鳴らした。
「深く染み込む海のソウル
静かな旨味が支配するボウル」
「派手さだけならお前の勝ち?
だが最後に残るのは昆布の価値!」
「「「huー!!!」」」
観客のボルテージがMAXに上がる。
「「wow-wowどっちもいいじゃん」」
「「wow-wowブチ上げてもいいじゃん」」
「「wow-wow食べれば最高じゃん!」」
「「hu〜!!」」
最高に、盛り上がった。
その時だった。
ガコッと、天井が開く。
「うわぁぁ!!手だ!!人間の手だぁあ!!」
「キャアアアア!」
天から大きな手が降りてくる。
先程までの歓声は、悲鳴へと変わっていた。
「みんなーっ!逃げろーっ!!うわっ!?」
昆布が手に掴まれる。
「兄さんっ!!やめろぉ!離せー!」
魚介は大きな手に飛び付き、
鋭い歯でカプっ。
魚の歯は痛い。
一瞬、手が怯み緩くなる。
その隙に、昆布は手から抜け出す。
「ありがとう、弟よ……!」
「兄さん!助けれてよかっ――」
昆布の元へ降りた魚介が、再び手に捕まる。
「にいさーんッ!」
「おとうとーーーっ!!!」
昆布は必死に手を伸ばすも、
その手は届かなかった。
「……あぁ、弟よ……そんな……」
天に消えた魚介を見て、膝から崩れ落ちる。
「うぅ……私の、大切で、唯一無二な弟よ……」
ぼろぼろと、涙が溢れ落ちる。
* * *
――厨房――
「あっれぇ?昆布取ったつもりが魚介取ってた……」
コックの格好をした男は手の中の魚介を見ていた。
「シェフ〜、さっき変更があって、昆布じゃなくて鶏ガラ出汁がいいそうです。」
後ろから声が飛ぶ。
「はぁ!?昨日昆布って言ってたろ!!」
「いや。僕に言われましても……。」
「あんの、クソわがまま王子め……!!ふざけやがって……!」
「それ王子に絶対言わないでくださいね!?!?」
シェフは、魚介を箱に戻した。
* * *
――出汁クラブ――
「……うっうぅ。弟よ……」
昆布は悲しみに暮れていた。
その時だった。
「にいさーーんっ!!」
「弟!?」
天から声が聞こえ、上を見ると。
ゆっくりと天から降ってくる魚介がいた。
「弟!!あぁ、弟!!」
「兄さん!会いたかったよ!」
「あぁ、私も会いたかったよ!今度は絶対離さない」
熱いハグを交わす。
パチ、パチ、と周りから拍手が二人に送られた。
おしまい。