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「死んでない?」
「生きてはいるんですよ、コレ。
ただ動けなくなっているようでして」
地下下水道で―――
学者や研究者らしき集団が、眼下の魔物を
前にして戸惑う。
帝都・グランドールの下水道施設、そこで
超巨大なスカベンジャースライムが出現したと
報告が入り、彼らが派遣されたのだが、
すでに危険は無い、また死んではいないとの
情報を確認し……
その対応に頭を痛めていた。
「案内人であるサビクや奴隷たちの話では、
海の向こうの大陸から来た使者の1人で
冒険者でもある中年男性が―――
動きを封じた、との事です」
「冒険者が、ねえ。
まあ使者に選ばれるくらいなんだから、
それなりの腕前だったんだろうが……」
下水内に横たわるスカベンジャースライムを
見下ろしながら、リーダー格と思われる学者の
一人がつぶやくように語る。
「下水道内で奴隷が行方不明になったのは、
コイツが絡んでいるのかも知れんな。
しかし、何をどうすればこうなる?」
「何でも、すさまじい『抵抗魔法』の使い手だと
言われており―――
スライムの魔力を限りなくゼロに抑えたの
では、と」
「攻撃魔法への抵抗ならわかるが、
魔物が持っている魔力そのものを抑えたのか?
そんな事が可能なのだろうか。
……現にこうして弱体化している以上、
認めるしかないのだが」
議論とも諦めとも取れない会話が続く中、
外野で聞いていた研究者の一人が、
「もしかして『万能冒険者』ですかね」
「何だそれは」
話していた一方が聞き返すと、
「今、我が帝国に来ている使者の中に―――
そういう人がいるとの噂を聞きまして。
平民の冒険者ながらドラゴンを妻とし、
人外や亜人とも平気で接していると。
そういう人なら、まあ……
威圧とか威嚇で魔物を大人しくさせる事も
可能なんじゃないかと」
「そんなバカな、と言いたいところだが、
こうして実物があるわけだし―――
まあいい。
とにかく一通り調査した後、一部を
サンプルとして保存。
周辺の残留物も採取しておいてくれ。
残った物は下流まで流して廃棄するように」
「わかりました」
こうして、現場検証と確認は終わり……
スカベンジャースライムは処分された。
「ほーん、そういう事があったんだ」
「しかしどこにでもいるのう。
スライムは……」
「ピュイッ」
下水道施設の見学を終えた私は―――
一同が会する待機部屋で情報共有を兼ねて、
夕食を取っていた。
「シン、メル、アルテリーゼ。
そういやお前たちの会談というか会見が
決まったぞ」
「おー、やっと」
「待ちくたびれたわい」
「ピュー」
ライさんの言葉に……
アジアンチックな童顔の人間の方の嫁と、
掘りの深い欧米風のドラゴンの妻が反応する。
「まあシンさんですし―――」
「仕方の無い事かと……」
ラミア族のエイミさんと魔狼のリリィさんが
感想を口にし、その恋人・夫がたしなめるように
あたふたする。
「ずいぶんと時間がかかったような」
「それで、どなたが会うんですか?」
人魚族のスクエーアさんとロック・タートルの
オトヒメさんがやり取りを継ぎ、
「ん~……
さすがに皇帝陛下に謁見する事は無いが、
料理や技術的な分野は官民問わず、
リバースや麻雀などで帝国の有力商会が―――
他、政治的な分野では個人的に会いたいという
貴族や軍人がいるらしいが……
こっちは丁重にお断りした」
ライさんの最後の言葉にホッとする。
さすがにティエラ王女様よりも身分の高い人の、
『先祖返り』に関わったばかりなのだ。
これ以上帝国の中枢に関わるのは、
私には荷が重過ぎる。
「それがいいでしょう。
誼を通す、というより―――
関わる事で影響力を拡大しようとする意図が
透けて見えます」
「人間の、それも平民という事で簡単に
取り込めるとでも思っているのでしょう。
人の世界は煩わしくてたまりません」
新生『アノーミア』連邦の宗主国……
マルズの代表として来たエンレイン王子様と、
将来の妻であるヒミコ様がうなずく。
「後は大使館の創設についてだが、
大規模な物になるらしい。
当初は帝都・グランドール内にある、
高級宿か豪邸を買い取って、そこを
大使館とする予定だったらしいんだけどよ。
マームード陛下直々に、皇族の施設に
勝るとも劣らない物にしろ、という
命令があったそうだ」
「へえ、何かあったんでしょうか」
私が首を傾げると、ライさんがガクッと
片方の肩を落とし―――
「何無関係みたいな事言ってんだ。
多分お前さんが原因だよ。
『先祖返り』を治したって言ってただろ?
そしてその相手、赤ん坊と両親は……
ティエラ王女様よりも身分の高い皇族。
となると皇帝の孫かひ孫の可能性が高い。
そりゃおじいちゃんとしてはいろいろと
頑張っちゃうだろうさ」
う~ん……
お互い、何も知らないという事にしたし、
それでお礼は辞退したんだけど。
まあ何かしらの形でお礼をしたいという
気持ちは、わからないでもない。
「そんなわけで、大使館については
あと5日ほど待っていてくれとの事だ。
建物としては1つだが、そこを各国・各種族の
集合大使館とするらしい。
それとボーロさん。
これは要請ではないが、あのボーロライスに
使えるような香辛料を一緒に探してもらえ
ないかと話が来ている」
「俺……
い、いえ私にですか?
それは構いませんが、嗅覚の効く獣人族の
手伝いが欲しいだべ……です」
熊タイプの獣人がライオネル様に答え、
「ではそのように伝えておこう。
で、後は―――
マギア様、土精霊様」
「む? 余にか?」
「な、何でしょうか?」
巻き毛の五・六才くらいに見える少年と、
エメラルドグリーンの瞳を持つ同性の子供が
顔を上げる。
「お二人には……
顔合わせという名の縁談が多数来て
おりますが、どーしましょ?」
くだけた感じで呆れつつ話すライさん。
それを聞いた魔王の護衛兼側近の二人、
イスティールさんとオルディラさんが苦笑し、
「付き添い付きで良ければ」
「下手に断っても角が立つでしょうし」
二人の魔族の言葉に魔王はふぅ、と
ため息をついて、
「面倒だがそうするか。
ならば土精霊よ、一緒にその『面談』とやらを
済ませてしまおう」
「よ、よろしくお願いします」
そこで二人の少年は同意し、
話が一段落した、と思ったその時―――
「スイマセンスイマセン。
私にも何か話来てませんか?
こっちにも独り身ピチピチの若いのが
いるんですけどっ」
そう言ってスクエーアさんは、移動式水槽の中で
尾びれをバシャッと揺らす。
「いやあ、それが……
水中というのは難易度が高いようで」
白髪交じりのグレーの短髪と共に、
彼は視線を明後日の方向に向ける。
「さすがに自分には来ていませんよね?」
長身の女性、オトヒメさんも期待しないという
顔で聞くが、
「ああ、オトヒメさんにはいくつか話が
あったけどよ」
あったんだ、と思いつつ―――
周囲も興味津々で聞き入る。
「子供33人と言うと、考える時間が欲しいと
言って来てな。
というわけで今のところ保留しているが」
「その程度で引くのなら要りませんね。
断っておいてくださいませ」
「わ、わかった」
すました顔で答えるオトヒメさん以外、
苦笑したり困惑したような顔になる。
「他は何かありますか?」
私が念のため、ライさんに話を振ると、
「後はまあ、俺とエンレイン殿下、それに
魔王マギア様で……
帝国の重鎮どもと改めて会談が行われる
くらいだな」
いわゆる首脳陣クラスの会談という事か。
それはさすがにこっちには関係無さそう。
こうして情報共有を終えると―――
雑談を交えての食事が再開された。
「なるほど。
確かに、風を起こすという機能だけ考えれば、
風魔法の魔導具が無くとも、この羽を回す物で
代用が可能です」
「物理的に魔法と同じ現象を再現させる……
帝国とはまた異なった概念です。
ですが、安価で大量供給するという事を
意図するのであれば、合理的な考えで
ありましょう」
翌日―――
帝都のとある商館と思われる屋敷で、
呼ばれた商人や技術者たちを前に、
私は持ってきた各商品の応答に追われていた。
「微弱な雷魔法で浄化水が……
当初、何が起きているのかわかりません
でしたが」
「これがあれば、卵もナマで食べられるように
なるからねー。
作って置いて損はないよ」
「海藻を燃やした灰を、薪を燃やした火の上で
炙ると、重曹というものになるんでしたっけ」
「パンや麺類、サイダーを作るのに必要な
ものじゃ。
もはやこれ無しでは、あちらの食文化は
成り立たぬ」
「ピューイ」
家族もそれぞれ、料理関係を中心に
対応してくれる。
私も担当している方に向き直り、
対応を再開させ、
「しかし、これより前にもティエラ王女様を
経由して―――
いくつか同じ物を送っていたと思うのですが」
「確かに、現物やレシピは以前から目にして
おりましたが……
やはり、こうして実際に経験者に教えて
頂く方が、とても参考になります」
まあそれもそうか。
王宮の厨房にいた料理人たちも、
それこそ目を皿のようにして私やメル、
アルテリーゼの調理手順を見ていたし。
「逆にお聞きしたいのですが、我が帝国で
そちらが欲する物はあるのでしょうか……?」
言いにくそうに質問する彼に対し、
「ええ。
先日は下水道施設を見せて頂きましたし、
その前は農作物を見せてもらって―――
いくつか、帝国産のものを持ち帰らせて
もらう予定です。
他、技術や魔導具など、見繕って頂いている
最中ですので」
帝国にも規制やご禁制品などがあるだろう。
そこで許可の出た物を選別してもらい……
後で届けてもらう事になっている。
今のところ、珍しい食材や調味料―――
映像や音声を記録する魔導具もあった。
実際、声や音を出すような魔導具はこちらの
大陸にもあったのだが……
録音ではなく、音を組み合わせてそれっぽく
再生する玩具みたいなもので、
(■120話 はじめての ぼーなす参照)
こちらのように記録用として開発しているのは
初めてで―――
かなり高価だが、最優先要望として希望を
出している。
ちなみに用途だが、皇族などのお偉いさんの姿や
宗教関係、言い伝えを残すいわばモニュメントの
ような位置付けらしい。
まあ金額を考えれば……
子供の成長日記や日常記録などに、おいそれと
使えるシロモノではないのだろう。
「ですが、不思議ですなあ。
商売人のわたくしから見れば、どれも
宝の山に見えます。
独占販売すればどれほどの利益が
見込めますやら」
基本的にこちらの商品や技術は、
フルオープンというか野放しというか。
商人の立場からすれば―――
オイシイ儲け話を吹聴し回って、ダメにしている
ように見えているに違いない。
「さすがに私も、国が禁じたり非公開に
している物は出してはいませんよ。
ただ、例えば味噌の作り方を提供しましたが、
あれは作る場所によって味が変わるんです」
「ミソが? アレがですか?」
商人の彼は首を傾げ、
「はい。
味噌を作るには麹という物が必要であり、
これ自体はたいていどこにでも存在します。
ですが、その土地によって麹は異なり、
味も風味も香りも違ってくる。
作り方は同じでもその土地その土地によって、
いろいろな味噌になるんです」
ふむふむ、と聞く姿勢の彼の前で私は続けて、
「あちらの大陸でも、私は出来る限り
技術や料理を広げましたが―――
それに伴い、各地で新しい技術、新しい
料理が作られました。
同じ人間、生き物なんですから、着想さえ
あればみんなそれを元に新しい物を作り出して
いきます。
それを見るのが楽しみ、と言いましょうか」
半分は本音だが……
こちらの文化を普及させれば市場開拓にもなる、
という本来の狙いを隠し、ご立派な理由を語る。
すると周囲で聞いていたであろう、メルと
アルテリーゼが相手していた人たちが、
「ああいう人も世の中にいなくちゃいけないん
だろうけど―――
旦那さん、変わっているねぇ」
「商人としちゃ、この上なく有難いお人
ですけど」
それを聞いた妻たちはニッコリ微笑んで、
「まーねー。
でもそんなところに惚れたっていうのも
あるしー」
「変人と見るか器が違うと見るか―――
ま、それはお主らに任せようぞ」
「ピュッピュッ」
家族もすっかり手慣れた感じで対応し、
私は引き続き、商品や技術のプレゼンに
あたった。
「やれやれ。
どうして私まで呼ばれたのかと思いましたが」
帝国武力省司令室で……
グリーンの短髪をした、長身の30代後半
くらいと思える男が眼鏡をかけ直す。
「あちらさんの各国の代表と―――
帝国の頭脳とも呼べるお歴々の
会談だもんねぇ」
「マルズ国代表、エンレイン殿下のご指名で
あったのだ。
断るわけにはいくまい?」
ブロンドの長髪の女性に、大柄の鎧に身を包んだ
半開きの目をした男性……
魔戦団総司令、メリッサ・ロンバートと、
帝国武力省将軍、ロッソ・アルヘンが答える。
「おかげさまで、新機軸技術部門主任としては
肩身の狭い思いをしましたよ。
おまけに、散々脅かされて」
言葉とは裏腹に、アストル・ムラトは
口元を歪めながら話す。
シンが各担当者と会っている裏で―――
トップクラスの会談が行われ、
帝国側からはさきほどの三名の他、
ダーリマ・トジモフ外務大臣と、
公聖女教大司教、リンドゥ。
あちらの大陸側からは……
ウィンベル王国、マルズ国、魔族領の代表が
それぞれ参加し―――
およその情報共有と今後の関係について
話し合いが行われたのだが、
その終盤で、アストルはエンレイン王子に
名指しされた。
―――アストル回想中―――
『私ですか?
今さら、マルズに戻れとでも?』
『境外の民』の記録を持ち出した事は
当然知られているだろうし、危機感を持つのも
無理は無い。
しかし元はと言えば、私を冷遇し……
意見をことごとく拒否したのが原因ではないか。
危機感を持つのであれば、もっと早くに
して欲しかったですな、と思っていると、
『いえ、立場上それは難しいでしょう。
ランドルフ帝国がそれを認めるとも
思えない。
だから提案させて頂きます』
『……何かな』
マルズの代表に、マームード皇帝がたずねる。
『彼を帝国で引き続き重用して頂きたい。
もしそうするつもりが無ければ―――
必ず処分を』
処分、という言葉に……
同席していた帝国の面々の顔色が変わる。
それはエンレイン王子側であるワイバーンの
女王や、ウィンベル王国の使者と魔王も同様で、
『こちらで、内政干渉は行わないと決めて
いたはず』
『人材の扱いもそれに含まれるであろう。
今の発言は取り消しを』
即座にライオネル・ウィンベルと、
魔王・マギアの二人が気色ばんで声を発し、
『あなた、今のは』
婚約者であるヒミコまでが不安気に彼を見つめ、
『……失礼しました。
今の言葉はどうかお忘れください』
エンレイン王子は発言を撤回し―――
会談に静けさが戻ってきた。
―――アストル回想終了―――
「よっぽど嫌われたみたいですねぇ」
そう言って私が飲み物に手を伸ばすと、
「それだけお前の事を……
脅威に感じている、という事だろう」
「裏を返せば、あなたの頭脳流出を恐れている、
って事ね。
だから帝国がガッチリつかんで見張っていて
くださいよーって」
帝国武力省将軍と魔戦団総司令の所見に
私は苦笑し、
「ずいぶんと過大評価されたもので」
私の言葉に、目を半開きにしたアルヘン将軍は
表情を変えず、
「お前がいなければ帝国の兵器開発―――
それに伴う戦略が立てられん。
これは事実だ」
「水中戦力への対抗兵器だって、すでに
開発中なんでしょ?
つまりあなたが帝国にいる以上、
あちらさんも手を出してこない。これない。
ましてやヨソになんて出せないわよ」
「私が抑止力というわけですか。
何ともはや」
続けての魔戦団総司令の言葉に、私は
目を閉じる。
思っていたものとは異なるが……
それだけ価値が認められるというのは、
存外悪くない。
「まあこの流れなら、海の向こうの大陸各国との
戦端は避ける方向になるだろう。
それより帝国に取っては、陸続きの連中への
対応が先だ」
「そうね。
周辺の小国はほぼ制圧したけど―――
この大陸クアートル全土には、まだ複数の
国家がある。
距離的に離れているから今は小康状態だけど、
いつ衝突してもおかしくない。
そっちの対応も頼むわよ、ムラトさん♪」
軍部のトップ二人がプレッシャーを
かけてくるが、むしろそれを心地よく感じる
私がいて、
「全力を尽くさせて頂く所存にございます」
官僚的な答弁に、彼らは苦笑で返した。
「いや、もうこんな時間とは……
本日は本当にありがとうございました」
「あのトランプといい麻雀といい、
時が経つのを忘れてしまいますな。
それに『万能冒険者』殿自らによる、
手料理は噂に違わぬ絶品でした!」
一通り、商談やら技術移転やらの話を済ませた
私と家族は―――
夕暮れを前に、商館の入口で各担当者から
挨拶を受けていた。
「いえ、私としても実入りのある商談でした。
海を挟んでになりますが、今後帝国との
交易がいっそう盛んになる事を願っています」
話をする中で、いくらか新情報も入手出来た。
こちらの大陸はクアートルというらしいのだが、
その中でランドルフ帝国というのは、その西側で
最も大きな国家だそうで、
次いで北方、東側、南側と……
帝国に勝るとも劣らない規模の国があるとの事。
ただどの国ともかなりの距離があるらしい。
なので軍事的な脅威は今のところなく、交易等で
情報がちらほらと入るだけの関係だという。
交易で何が手に入るのかは、うまく
はぐらかされて聞けなかったが―――
また大陸中央は手付かずというか未開拓地
みたいなもので……
魔物も多い事から敬遠され、ほとんど
情報も無いそうだ。
「シンー、馬車が待っているよ」
「そろそろ乗らねば」
「ピュウ」
家族に促され、私は一礼すると王宮が
用意してくれた馬車の方へと歩き出す。
「……?」
そこで石畳の地面から振動が伝わってきた。
「な、なんだ?」
「地震か!?」
周囲の人たちも困惑し始める。
地響きは段々と強くなっていき―――
そしてどこからか、
『魔物が出たぞ!!』『魔物が暴れている!!』
という声が聞こえてきて、
「メル! アルテリーゼ!」
私の呼びかけに、すでにドラゴンの方の妻は
その巨体の翼を大きく広げており、
「おっちゃん、ラッチお願い!」
人間の方の妻は商館にいた担当者の一人に
ラッチを預かってもらうと、
私と一緒にアルテリーゼの背に飛び乗り、
帝都上空へと舞い上がった。
「どこに……って、探すまでもなかったか」
空の上からその騒ぎの元はすぐに見つかった。
何かが周囲の人や物を跳ね飛ばし、
ともすれば建物を破壊しつつ突進している。
「ジャイアント・ボーアかな?」
「どちらかというと、牛に近いような
気がするのう」
ここからでは詳細まで確認出来ないが、
四足歩行、哺乳類系であるのは間違いない
だろう。
「とにかく無効化して止まらせよう。
メル、あの上に私を抱えて飛び降りる事は
出来るか?」
「りょー!」
そう言うと人間の方の妻は、私と肩を組むような
体勢になる。
「よし。
アルテリーゼ、頼んだぞ」
「うむ!」
ドラゴンの方の妻は私たちを乗せたまま、
高度を下げて『目標』へと突っ込む。
「シン、つかまって!」
「任せた!」
そこで私はメルと一緒に空中へ放たれ、
重力に従い落下していき、アルテリーゼは
反転して高度を上げる。
そこで『目標物』もハッキリと視認出来てきて、
角が三本ある巨大な牛だと判明。
全長、六メートル以上はあるだろうか。
それだけでも私の常識外の生き物なのだが、
念を入れ条件をつぶやく。
「3本も角があり―――
四足歩行で、その巨体でそこまで走る事の
出来る動物など、
・・・・・
あり得ない」
そう私が言い終えるのと同時に、
「ちぇすとー!!」
メルのキックが『目標物』の魔物の背中に
ヒット。さらにその反動でまた空中高く
舞い上がり、
彼女が私をお姫様抱っこのような形で
抱いてくれたまま、地面に着地。
魔物はというと、自らの速度の余波で
十数メートル先まで転がったが……
そこで完全停止した。
「や、やっと止まった……」
「ありゃあ、クレイジー・ブルじゃないか!
何で帝都に」
「それより、誰が止めてくれたんだ?
空から誰かが降ってきたように見えたが」
野次馬たちが集まり、私はメルに降ろして
もらったところで、
「シン、メルっち。
大丈夫か?」
アルテリーゼが合流し、三人で魔物の元へと
向かった。
「はい、はい……
ご協力ありがとうございました」
その後、駆け付けて来た衛兵や治安関係者から
事情聴取のようなものを受け、私とメル、
アルテリーゼと一緒に『対応』したと説明。
クレイジー・ブルとやらはまだ生きていたが、
彼らの手で止めを刺され―――
私たちの身元確認と一通りの現場検証が
終わった後、改めて馬車が呼ばれ、それで
王宮まで戻る事になった。
「でも、どうして帝都内に魔物なんて」
去り際に、私は振り向いて衛兵の一人に
たずねると、
「どうせ闇闘技場で使おうとしていた魔物が、
逃げ出してきたんでしょう。
年に1・2回ほどあるんですよ、
こういうの……」
呆れるように話す彼に同僚らしき男が近付き、
「オイ、余計な事をしゃべるなよ。
外国の使者様だぞ」
「わ、悪い」
どうもタブーの話のようで、私もそれ以上は
聞けず、家族と共に車中の人となったが、
闇闘技場―――
その言葉は、私の頭の中に残り続けた。