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こちらの茨さん🖌️
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アルタリアの第二王女、シトリンと大の仲良しのソラヤ・アル・カマルがラヴァリン王国から帰郷すると、皆、驚きを持って出迎えた。 元より美しい姫が、およそ一週間ほど留守にしただけなのに、眩しい程に美しく輝いていたからだ。
ラヴァリンに、そんな素晴らしい美容術があったのだろうか?とか、女性は恋をすると美しくなるというが、姫君の心を射止めた者が居るのか?とか、それぞれに想像をたくましくさせた。
王女の変貌ぶりに驚いたのは彼女の両親、アルタリア国王夫妻も同じであった。
「その……ラヴァリンで何かあったのか?」
アルタリア国王にしてソラヤの父・カファム・アル・カマルは、出立した時とは別人の如き娘……否、姿形も声も仕草も間違いなく娘のソラヤなのだが、別人のように美しい。
彼は本来、実に見高な自信家で、いつでも顔に覇気を漲らせ口ぶりもハキハキとしているのだが、娘に何かが起こった事が明らかである今は、らしくもなく言葉に詰まりながら尋ねた。
美男美女の国王夫妻から生まれただけあって元から美しかったのだが、今のソラヤそれを超越した域に達している。
その原因が単にラヴァリンで美容術が発達したというならなんの問題も無いのだが、王女が何処の誰とも知れぬ者に恋情を抱いたとなると、それは由々しき事態だ。
年頃の女の子なのだから、恋の一つくらいはしてもおかしくはないが、王女という立場がある。とはいえ、年頃の娘に恋の話を大っぴらに聞くのもちょっと……などと思っていたが、ソラヤの説明は実に気の抜けた物だった。
「ラヴァリンのグレンヴァル山に湧くお湯が、お肌にものすごく効くの!グレンヴァル山は最近まで禁足地だったんだけど、シトリンが禁を解いて、そのお湯を汲み出して売ってるの」
カファムは、ソラヤの話を聞くと、ひとまず色恋沙汰ではない事に安堵した。
しかし、別の事に思い当たり、次の質問を投げた。
「では………わざわざ馬車を買い足してまで運んできた荷物というのは………」
「うん!ぜーーーーんぶそのお湯!いっぱい買ってきたから、お父様とお母様にもあげるわね!」
国王夫妻は、ソラヤの言葉に酷く驚いていた。
散財をしたことを咎めたのではない。姫が衝動買いした程度で、どうこうなるような国ではないし、もっと高価な宝石や貴金属を買ってきた事もあった。
もちろん、そういうジュエリーを買ったとて傾くような国ではないし、ソラヤは奔放であるが愚かではないから、国の懐事情を理解した上で、その範疇で買い物をしている。
国王夫妻が驚いたのは、ソラヤがそれほどに温泉水を気に入ったという事だ。
豊かなアルタリアであるから、化粧品も良いものを与えているが、これぞ!という物には中々出会えないらしく、アレコレとっかえひっかえしては散財していたのだ。
それなのに、どんな貴重な素材から作られた高級化粧品よりも、ただ汲んだだけの水に執心している。そこが唯一の驚きポイントながら、その一つがとてつもなく大きい。
「お父様もお母様も、手に付けてみて。きっとびっくりするから」
愛しの娘がそれほど気に入った物となると、その効果のほどは国王夫妻も気になるところだ。
ソラヤから渡された小瓶を受け取ると、国王夫妻は蓋を開けて、中の液体を掌に垂らした。
掌に溜まった透明な水。僅かに火山らしい、古くなった卵のような匂いがするものの、全く粘性の無い、ただの水としか見えない。
ソラヤもシトリンからこの水を勧められた時に持った『化粧品とは、粘性があって然るべき物ではないのか?』という感想は、当然のことながら国王夫妻も抱いた。
湿度の低いアルタリアで肌を守るための物と言えば、いかにも水分を蓄えてくれそうなクリームだったりオイルだったりが定番だ。
全身を糊のように重たいクリーム覆う美容法もあるくらいなのだ。そんな国に住む者にとって、このまるっきり水にしか見えない、もとい、ただの水でしかない物が、肌に良いなどとはにわかには信じ難い。
そうは思いつつも、娘が勧めてくれたのだからと、ひとまず手に擦り込んでみると、国王夫妻は揃って目を見開いた。
「これは……!」
「まぁ……」
液体を塗るのだから、本来ならば肌が冷えるはずなのだが、擦り込んだ肌から温もりが広がっていく。
そして、みるみるうちに潤い、艶を増していく肌を見て、夫妻は更に驚いた。
そして、自分の手とソラヤの顔を交互に見るという、ソラヤがやったのと同じリアクションを取った。
「これは本当に、ただの水なのか?」
「シトリンがそう言ってたんだから、間違いないわよ」
水の効能に驚いた後、発した質問もソラヤと同じ。
流石親子であるから、言動がよく似ている。
更にその後、ラヴァリンの温泉水を大量に買い付けようと決めたのも、ソラヤと同じ反応だ。
流石親子であるから、言動がよく似ている。