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「どうしたんだ?二人揃って険しい顔をして、僕はこれから出かけるから手短に・・・」
クローゼットから紺色のジャケットを羽織り、出かける支度をしている浩二を良平と大谷警部が睨んでいた、鏡の前でネクタイを締めながら、浩二はちらりと時計を見る
鈴子が予約した中華料理店での待ち合わせまであと三十分、食事をした後に彼女は浩二の「良い弁護士事務所になるテナント」を見せたいと言っているのだ
新たに人生の目標ができた浩二は早く事務所を開設したくてうずうずしていた、ジャケットの袖を通す手が、久しぶりに軽やかだった
その時ソファーに座っていた大谷警部が口を開いた
「この街だけで年間何千件という傷害事件が発生します、警察も人手不足で対応しきれていませんでね、しかしうちの署長が姫野候補を応援していましてね、なにせ現知事と署長は倦厭の仲ですから―」
「・・・それはありがとうございます」
浩二はネクタイピンを留めながら軽く微笑んだ、その時大谷警部の隣に座っている、良平が口を開いた
「お前を襲った犯人が捕まったぞ!」
「なんだって!」
浩二の手が止まった、ネクタイピンが床に落ちて金属音が静かに鳴った、大谷警部が続ける
「先日、国道42号線の検問にひっかかった男がいましてね、『村田秀治』という大柄の男なんですが、車のトランクに大ぶりの刃物がありました、その刃物についていた血痕のDNAが姫野候補のモノと一致しました」
浩二はハッと息を呑み、ジャケットの肩を震わせた
「そっ・・・そうか・・・」
浩二はホッと息を吐いた、胸の奥に溜まっていた重石が音を立てて落ちる気がした
「それでお前を襲ったのは、あくまで単独だと言ってるんだがな、おかしなことに別にお前に恨みはないとも言ってるんだ」
と良平、浩二は眉をひそめる
「僕に恨みはないのに僕を刺したのか?薬中なのか?」
「兵庫県警がヤツの家宅捜査で調べた所、ヤツの口座に最近不審な送金が300万入ってるんですよ」
大谷の目が怪しく光る、その目はまるで獲物を見つけた鷹のようだった
「送金元は『伊藤ホールディングス』」
「・・・どういうことだ?」
浩二の声が掠れる、部屋の空気が急に冷えた
「犯人は誰かに雇われてあなたを襲撃したんです、姫野さん」
そして次に良平が口を開いた
「ここから俺に説明させてくれ、お前がコイツに襲われる数週間前、俺は伊藤鈴子に呼び出されてるんだ、お前の講演会を減らせてくれとな」
「な・・・なんだって?そんな事は聞いていないぞ」
浩二の声が裏返る、良平は目を逸らさず続ける
「彼女はお前が落選した後の事を考えていたぞ」
「そんな・・・信じられない」
浩二は囁く声でつぶやいた、それから二人が言った言葉と今朝の浩二の弁護士事務所に良い場所を見つけたと嬉しそうに話す鈴子の顔を浮かべた
あの笑顔が、急に歪んで見える・・・・
胸の奥で何かが音を立てて崩れていく
さらに良平が最後に言った
「お前を襲撃した犯人を雇ったのは伊藤鈴子だ」