テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
103
30
瑠璃マリコ
62,300
苡 咒 。
100
優しいキスなんて、しないでよ……
涙の跡をなぞるように降り注ぐキスの雨に、冷え切った心が溶かされていく。闇に包まれた室内と、滲んだ視界では、橘の顔すらはっきりとは見えない。しかし、シーツから香るグリーンノートと石鹸の香りが、この場所が橘のベッドだということを知らしめていた。
クラブから連れ出されて、タクシーに乗ってなお涙が止まらない私の背を、橘はずっと撫で続けていた。安心させるかのように撫で続ける奴の手に、ますます涙は止まらなくなった。
全て、橘が悪いのに……
今さら、優しくなんてしないで欲しい。
心をかき乱さないで。
そんな私の想いは、啄むような口づけを繰り返す奴の唇に、唇を塞がれ霧散していく。スッと忍び込んできた舌に軽く歯列をノックされ、反射的に迎え入れてしまう。その行為が、あまりに優しくて、凍えきった心が熱くなる。
これ以上、私の心を乱さないで……
思考がまとまらず、混乱していく頭に涙が溢れて止まらない。そんな私をなだめるように髪に触れる橘の手の優しさが辛かった。
口腔内を這う舌が、震える私の舌を捉え、吸う。痺れるような快感が背筋を駆け抜け、心に火を灯す。含みきれなかった唾液があふれ、首筋を落ちていく感触でさえ、新たな快感を生み、灯火が大きくなる。
わからない、わからない。なぜなの――――
無理矢理、身体を重ねた時のような性急な愛撫を施されているわけではないのに、身体が疼いて仕方がない。緩慢とも思えるほど優しい手つきで煽られる官能は、身体の奥底の炎をも燃え上がらせた。
「……ふぅ…あぁぁ……」
唇から首筋へ、そして胸へと落ちていく口づけ。静けさに包まれた部屋には、甘ったるい喘ぎ声と、ピチャピチャと猫がミルクを舐めるような水音だけが響く。淫雛な音に耳をも犯され、二つの花弁に包まれた秘裂がうるみ、下着を濡らしていく。
いつの間にか、ワンピースは剥ぎ取られ、デートの日だろうと容赦なく着た『おばブラ』ですら、どこかへと消え去った。
優しく緩慢だった愛撫が徐々に力強く、熱さを増していく。左の乳房の頂をねっとりと舐められたかと思えば、スッと伸ばされた指先で反対側の頂をクリクリと弄られる。口に含まれ舌で転がされ、時折り与えられるピリッとした痛みに、背がしなる。急速に高められていく官能に、秘裂からあふれた愛液が、下着のシミを広げていく。
「ひっ――――っ、やぁぁ……」
悪戯な指先が、下着のクロッチをなぞる。下に上にとクニクニと動く指が時折り、秘豆をつぶし強烈な快感が背筋を駆け抜け、その刺激を耐えるため足の爪先がピンっと伸びる。しかし、そんなことでは待ちわびた快楽をやり過ごすことなど到底出来なかった。
ジュクジュクとひっきりなしに上がる淫雛な音に脳が犯され、それに呼応するかのように愛液が秘裂からあふれ出す。ぐしょぐしょに濡れたショーツは、どこかへと消え去り、絶え間なく流れ続ける愛液がシーツに大きなシミを作っていった。
快感を煽るように秘裂への愛撫を繰り返す指の動きに、脳は酩酊状態へと陥る。そして、快楽を告げる甲高い叫声を上げることしか出来なくなった私の様子を目ざとく察知した橘が動いた。緩み始めた二つの花弁を分け入り、節ばった指が入り込んだ痛みで、悲鳴が口からこぼれた。
「いっ、あぁぁ……、やめ、て……」
痛みが嫌な記憶を呼び起こす。貞操の危機に陥ったクラブでの出来事は、私の心に大きな傷を残していた。知らない男に襲われそうになった恐怖が、喉元を競り上がり、恐怖でガチガチと歯が鳴る。
「やめて……、やめて……」
うわ言のように拒絶の言葉を繰り返す私の身体が強い力で抱きしめられる。そして、錯乱した私を宥めるように頭を撫でられ、徐々に落ち着きを取り戻した私の耳に、切なく震える橘の声が届いた。
「――――ごめん。怖い思いさせた……」
絞り出すように言われた謝罪の言葉が、私の心を震わす。
今さら謝られたところで、許せるものではない。それなのに、震える声で謝罪を口にする橘は、まるで小さな子供のように頼りなく、弱々しく見える。傍若無人な態度で、私を振り回す暴君は、もうそこにはいなかった。
背中へと回された腕が、すがりつくようにキュッと強まる。それに呼応するかのように、私の心が切なさでキュッと痛んだ。
母性本能だったのか、無意識に奴の背をポンポンとあやすように叩いていた。
そんな私の態度にわずかに顔をあげた橘と目が合う。
「……鈴香、ごめん」
まるで道端に捨てられた子犬のような不安げな瞳に私が写る。
腹黒い橘の事だ。こんな弱々しい態度でさえ、演技なのかもしれない。頭の片隅では、『奴を信じるな』と警報が鳴っている。でも、もう抗えない。蜜口に当てがわれた切っ先に橘の意図を察し、わずかにうなづいた。
まだ固く閉ざされた蜜道を押し開き、固くたぎった屹立がゆっくりと進む。引き攣れるような痛みに、うめき声をあげれば、それを労わるように屹立の進みは遅くなった。痛みで萎縮した身体を和らげるためか、二つの花弁に包まれ震える蜜芽を暴かれ、強制的に快感を引き出された。
まるで、飴と鞭を交互に使われているような性技を繰り広げられれば、否応なしに快感は大きくなっていく。
「ふぅ…あぁ……、あぁぁ…………」
痛みを凌駕する快感。快感が大きくなればなるほど、私の口から漏れる快感を告げる声も甘くなっていく。しかし、橘は決して己の欲を優先することはしなかった。気遣うようにゆっくりと動く屹立と、奴の口から漏れる苦しそうなうめき声が、奴が限界ギリギリまで己の欲を我慢していることを知らしめていた。いつもの橘とのSexとは明らかに違う気遣いに、私の心を支配していた恐怖が霧散して消える。そして、恐怖が消え去れば、心の中で膨らみ続ける温かな想いを無視することも出来なくなった。
頭が混乱する。
――なんで、優しくなんてするのよ。
いつもみたいに、弄んで、飽きたら捨てられるおもちゃみたいに扱えばいい。橘の優しすぎる気遣いなんていらない。
酷くされた方が、よっぽど楽……
「……もう、い、いから……、きて――――」
息を飲んだ橘は、私の最後の言葉を奪った。かぶりつくように唇を重ねられた次の瞬間には、私の口内を縦横無尽に舌が動き回っていた。歯列をこじ開け、舌を絡め、吸われる。呼吸まで奪われるかのような激しい口淫に、脳は酩酊し、何も考えられなくなる。
あぁぁ、これでいい。これで、いいのよ……
もう、何も考えたくない……
「――――どうして、上手く行か、ない……、くそっ……、鈴香……」
先ほどまでの優しさが嘘だったかのようにガツガツと最奥に打ち込まれる楔に、蜜道を穿たれ、その荒々しさに、身体が跳ねる。ジュブジュブ、グチュグチュとひっきりなしに響く淫雛な音が耳を犯し、私の意識を混濁させていく。痛いくらいの快感を逃すため、橘の背に爪を立てれば、奴の口からも激しいうめき声が上がった。
お互いに限界が近いことはわかっていた。
激しくなる抽送に、飛び散る汗。凶悪なまでに固く膨らんだ屹立が限界を迎え、それを離しまいとうねった蜜道がキュッと締まる。それに呼応して、打ち込まれた飛沫を最奥へと感じた時、激しい快感に支配された身体は昇天し、落ちた。
「――――鈴香、好きだ……、好きなんだ……」
陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと口を広げ激しい呼吸を繰り返す私の耳に、橘の言葉は届かない。顔中に降り注ぐ啄むようなキスの雨を感じながら、瞳を閉じた私の意識は深淵へと落ちた。
コメント
1件
第19話「優しいキス」、読み終えました……。タイトルに込められた皮肉というか、優しいからこそ鈴香さんの心がもっと乱される、その描き方が本当に繊細で切なかったです。「酷くされた方が、よっぽど楽」という台詞に、彼女の複雑な心情が全部詰まっていて胸が痛みました。怖さと抗えない想いの間で揺れる鈴香さん、そして弱さを見せた橘さんのギャップ……感情の波が丁寧で、引き込まれました。続きも楽しみにしていますね🌷