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「体調があまり良くないようだからタクシーを呼んでおくように頼んでおいた」


 席に戻ると|岳紘《たけひろ》さんはそう声をかけてきた。嫌味な感じはない、いつも通りの彼にしか見えないが何かが引っかかるような気がする。

 ネガティブな思考に引きずられて、それすらも悪い事の前兆のようにさえ感じてしまう。


「そう、ありがとう。今日はせっかく誘ってくれたのにごめんなさい」

「いいや、|雫《しずく》の不調にも気付かないまま無理させて悪かった。さあ帰ろうか、君はタクシーの中で少し眠ると良い」


 優しい、本当にこの人はとても優しい。でもそれが自分だけのものにはならないと気付いてから、どうしようもない感情を持て余している。

 ……嫉妬、だけじゃない。寂しさや虚しさ、それが私を酷く悩ませていることに岳紘さんは気付いているのだろうか?


「俺の身体に寄りかかればいい、そのままじゃ眠りにくいだろう」

「え? でも……」


 タクシーに乗り込み窓側に顔を向けた私に、岳紘さんは当然のように言ってくる。

 普段は全くと言っていいほど私に触れないのに、どうしてそんなことを言うの? 互いに溝の出来た私達、それは言うほど簡単な事ではなかった。


「……っ⁉」


 迷う私の肩を彼が大きな手のひらで包んで引き寄せたのは、何かの間違いではないか? ポスンと岳紘さんの腕に自分の頭があたっても、まだ今起きていることが理解出来なかった。


「な、何するの? 別にそんなに眠いわけじゃ……」

「いいから、しずくは昔から他人に甘えるのが苦手なのは分かってるし」


 そう言うのなら何故いつものように放っておいてくれないのか? そうして欲しかった時には言葉以上のものはくれなかったくせに。

 私が岳紘たけひろさんからの愛情を欲しがっていたことくらい、彼だって分かっていたはずだ。それを見てもぬふりをしていたのに、どうして今更……


「苦手なわけじゃないのよ、ただそう言うのは嫌いだと思ってたから」


 昔はもっと無邪気にこの人に甘えていたような気もするが、いつも複雑な表情をする彼を見てそういった行動は我慢するようになった。岳紘さんに嫌われるよりその方がずっと良かったから。


「嫌いなわけじゃない、ただ……」

「ただ?」


 何故今になって、そんな事を言い出すのか? もっと早く教えてくれていれば、私だってもっとありのままの自分で彼のそばに入れたのに。

 なのに……他の男性に目を向けるように言ったその口で、心を揺さぶるような事を言うなんて。


「照れ臭かった、それだけで」

「そうだったのね」


 前の自分なら大喜びして、岳紘さんに甘えて見せたかもしれない。でも、今はそうじゃない。私は両手で岳紘さんの体を押して、彼から距離を取った。

 ……今の自分達に、合っている距離を。


「もう着くから、大丈夫……」

「……」


 私がわざと距離をとろうとしていることに|岳紘《たけひろ》さんにも伝わったのだろう、気まずい空気が二人の間に流れる。タクシーが家の前で停車し、夫が支払いを済ませている間に私は車外へと出る。

 息苦しくて、これ以上二人きりではいたくなかったから。さっさと入浴を済ませて自室で休んでしまえば良い、そう思って急いでお風呂の湯はりボタンを押してバスルームから出た。


「|雫《しずく》、少しだけ話せないか?」


 まさか浴室の外で岳紘さんが待っているとは思わなくて、驚いて後ずさる。そんな私の行動に、彼が傷付いたような表情をした気がして……


「あ、違うの。今のはちょっと驚いて大袈裟な反応をしただけ」

「分かってる、驚かせてしまって悪かった」


 咄嗟に口から出た言葉が言い訳のように聞こえてしまわないか、そんなことを気にする辺り私はまだこの人の事を好きなままなんだと思う。今、話せる余裕なんてなく顔をあげれないまま私は首を振って見せた。


「ごめんなさい、今日はもうすぐに休みたいの。また今度ちゃんと聞くから……」

「……わかった、無理言ってすまなかった」


 そのまま岳紘さんの隣をすり抜け、自室へと走って戻った。今日に限っていつもとは別人のような態度で私に接する、そんな彼の言動に戸惑わされたまま私は眠れない夜を過ごしたのだった。


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