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北実side
利亜が元気いっぱいに手を挙げ、ぴょんぴょん跳ねながら魔法陣へ向かった。
利亜「次はボクなんね!なんかすごそうでドキドキなんね!」
その場の空気が一気に明るくなる。
緊張感よりも、わくわくが勝っているタイプだ。
エイラ「ふふ、元気ですね。では魔法陣の中央に立ってください。」
利亜「はーいなんね!」
魔法陣が淡く揺らめき、
次の瞬間──利亜の姿が、すっと薄くなった。
北実「……あれ?」
完全に消えたわけではない。
だが、輪郭がぼやけ、視線が自然と滑ってしまう。
さらに魔法陣が強く光る。
──すうっ。
今度こそ、利亜の姿が完全に消えた。
国雲「いないアル!?」
日向「気配も、全然感じませんね……」
水晶柱が透明に近い色へ変化し、
そこに文字が浮かび上がる。
利亜の声だけが響く。
利亜「えへへ! 見えないんねー!」
エイラは驚きながらも、すぐに測定結果をまとめる。
エイラ「これは……とても優秀な隠密系スキルです!利亜さんは、自分を含めて最大10人まで姿を完全に消すことができます!」
米太「10人!? 」
清雨「敵からすれば、集団で消えるのはかなり厄介アルね……」
エイラ「ただし、条件があります。利亜さんと対象があまりにも離れすぎると効果が切れてしまいます。」
日向「つまり、連携が重要ということですね。」
エイラ「はい!ですが、それを理解したうえで使えば、奇襲・潜入・撤退、どれにも向いています!」
ふっと空気が揺れ、
利亜の姿が元に戻る。
利亜「ふぅー! ちょっと集中したんね!」
北実「集中力もちゃんとあるな。」
南実「利亜くん、頼もしいね!」
利亜は胸を張ってにこっと笑った。
利亜「へへ!ボク、みんなの役に立つんね!」
エイラも嬉しそうに頷く。
エイラ「はい!利亜さんの能力は、パーティーの影としてとても重要です。きっと、大きな助けになりますよ!」
利亜の測定が終わったあと、
少し後ろで様子を見ていた琉聖が、そっと一歩前に出た。
琉聖は利亜よりもずっと年下で、
動きも声も穏やかだ。
琉聖「……ぼくもやります。」
零王の息子で、利亜の弟。
歳は離れているが、どこか似た柔らかさを持っている。
エイラ「はい、琉聖さん。大丈夫ですよ、ゆっくりで。」
琉聖は小さく頷き、魔法陣の中央へ立つ。
魔法陣が淡く光ったが、
これまでのような強い発光は起こらなかった。
代わりに、足元から柔らかな波紋が広がる。
レイヴン「……静かだな。」
水晶柱も、派手に色を変えない。
まるで、周囲を観察しているかのように、
ゆっくりと淡い黄色へ染まっていく。
国雲「反応が控えめアルな……?」
そのとき、琉聖の体が、ほんのわずかに動いた。
自然と一歩、横へ。
エイラはその動きを見逃さなかった。
エイラ「……なるほど。」
水晶柱に文字が浮かび上がる。
南実「安全……?」
エイラ「はい。琉聖さんの能力は──」
エイラは静かに説明を続ける。
エイラ「周囲の動物たちが安全だと判断した行動を、琉聖さんの体が自然に選び取る能力です。」
日向「……つまり?」
エイラ「危険な場所でも、動物ならこう動くという判断を無意識に拾い、最短で無事な行動ルートを選べる、ということですね。」
米太「戦わずに生き残るタイプか!」
清雨「探索向き、というわけアルか。」
エイラ「はい。この能力は直接戦う力ではありませんが、罠の回避、危険地帯の突破、迷宮探索などでとても大きな力になります。」
琉聖は自分の足元を見つめ、少し不思議そうに呟いた。
琉聖「ぼく、なんとなくこっちがいいって思うこと、よくあるんです。」
北実「それが、もう能力なんだな。」
利亜「琉聖、すごいんね!」
琉聖は少し照れたように笑う。
琉聖「みんなが無事に進めるならうれしいです。」
エイラは優しく頷いた。
エイラ「琉聖さんの力は、パーティーの道しるべになります。危険な世界を進むうえで、とても大切な能力ですよ。」
次に前へ出てきたのは、
やけに楽しそうな雰囲気をまとった奴だった。
零王「ボクの番なんね!いや〜、なんだかワクワクするんね〜!」
利亜とそっくりな笑顔。
語尾も、声の調子も、ほとんど同じだ。
北実(……うわ、親子そっくりだな…)
零王は利亜と琉聖の父。
脳内お花畑のザ・親バカだ。
エイラ「ふふ、零王さん。では、魔法陣の中央へどうぞ。」
零王「了解なんね!」
魔法陣に立った瞬間、
足元の床に置かれていた鉄製の器具が、かすかに震えた。
日向「鉄が反応してますね。」
水晶柱が、鈍く重たい銀色に染まっていく。
国雲「お、これは分かりやすいアル。」
その瞬間──
鉄器具がふわりと浮き上がり、
ぐにゃり、と形を変え始めた。
零王「おおっ! なんかきたんね!」
鉄は流れるように集まり、
一本の剣のような形を取る。
だが、
刃先が妙に丸くなってくる。
零王「あれ?」
剣、というより──
大きめのピザカッターのような形になっていた。
米太「What!?」
零王「おかしいんね〜!ちゃんと剣をイメージしてみたはずなんね!」
水晶柱に文字が浮かび上がる。
エイラは少し苦笑しつつ、説明を始める。
エイラ「零王さんの能力は、鉄を材料にして、武器や道具を自由に作り出す力です。」
陸斗「……かなり実戦向きなんだな。」
エイラ「ただし条件があります。まず、材料となる鉄が必要なこと。そして──」
エイラは、先ほどのピザカッター剣を見る。
エイラ「作りたいものを、はっきり、正確に想像できないと失敗します。」
南実「あ〜……」
零王は頭をかきながら笑った。
零王「心の中で、『これならピザカッターも作れそうなんね!』とか考えちゃったんね……」
那知「相変わらずだな、お前は。」
日向「ふふ……でも、想像力が安定すれば、とても強力な能力ですね。」
エイラ「はい。剣、槍、防具、工具など、状況に応じて即座に武器を用意できるのは、大きな強みです。」
零王は、鉄の塊をもう一度見つめる。
零王「利亜や琉聖を守れるなら、ちゃんと集中するんね!」
陸斗「まずはそのピザカッター卒業から始めるんだな。」
利亜「でも、それはそれで便利なんね!」
琉聖「切れ味よさそう!」
エイラはくすっと笑った。
エイラ「零王さんの能力は、前線でも後方支援でも活躍できます。とても頼もしい能力ですよ!」
次に前へ出たのは、
背筋を伸ばし、無駄のない動きの青年だった。
太希「……俺だな。」
声も表情も落ち着いている。
生真面目で、仕事人間──そんな印象をそのまま形にしたような人物だ。
那知の息子だが、
本人はそのことをあまり口にしたがらない。
太希「さっさと済ませよう。」
利亜「太希、かっこいいんね〜!」
太希「……静かにしてろ、利亜。」
利亜「ひどいんね!?」
日向は少し苦笑しながら様子を見ていた。
エイラ「太希さん、こちらへどうぞ。」
太希は頷き、魔法陣の中央へ立つ。
魔法陣が起動した瞬間、
空気がきゅっと引き締まった。
派手な光はない。
だが、見えない膜のようなものが、
太希を中心に広がっていくのが、はっきりと分かった。
水晶柱が、透明に近い薄い灰色へ変化する。
そのとき。
エイラが、わざと小さな魔力弾を、
少し離れた位置にいる利亜の方へ飛ばした。
瞬間。
利亜の前に、淡い結界が自動で展開した。
利亜「うわっ!? びっくりしたんね!?」
結界は衝撃を完全に受け止め、
音もなく消える。
南実「今の、太希くんがやったの?」
太希は眉をひそめた。
太希「……無意識だな。」
水晶柱に文字が浮かび上がる。
エイラは静かに説明を始める。
エイラ「太希さんの能力は防御系です。太希さんが仲間として登録した人物が攻撃を受けた瞬間、防御結界が自動で展開されます。」
国雲「自動……反応速度が要らないアルね。」
エイラ「はい。意識せずとも発動するため、奇襲にも強いです。」
だが、とエイラは続ける。
エイラ「ただし制限もあります。太希さんから距離が離れるほど、結界の効果は弱くなります。」
米太「護衛向きか!It’s convenient!」
エイラ「さらに──」
太希の視線が、一瞬だけ那知の方へ向いた。
エイラ「太希さん自身が、『この人は別に守らなくてもいい』と判断した場合……」
エイラは少し言葉を選ぶ。
エイラ「結界は、極端に弱くなります。」
日向「……心の判断が、そのまま防御力になるんですね。」
太希は腕を組み、短く息を吐いた。
太希はちらりと利亜を見る。
太希「……お前は、ちゃんと守っとかないとめんどくさそうだな。」
利亜「えっ!? 」
太希は少しだけ口元を緩めた。
エイラも頷く。
エイラ「太希さんの能力は、パーティーの盾として非常に重要です。信頼関係が、そのまま力になる能力ですね。」
太希は静かに魔法陣を降りた。
太希「まあ、悪くないな。役割ははっきりしてる。」
太希の測定が終わり、
次に前へ出てきたのは那知だった。
那知「次は私が行こう。」
落ち着いた立ち振る舞い。
太希とどこか似た雰囲気を持ちながらも、
自分がどう見られているかを、しっかり意識している。
太希「……」
太希は何も言わず、腕を組んで見ている。
エイラ「那知さん、こちらへどうぞ。」
那知は軽く髪を整え、魔法陣の中央へ立った。
魔法陣が起動する。
だが──
意外にも、光は弱く穏やかだった。
空気が、
ふっと和らぐ。
北実「……あれ?」
水晶柱は、柔らかな桃色に染まっていく。
その周囲に、
ほのかな香りが漂った。
国雲「……いい匂いアル?」
米太「アロマか?」
那知は少し目を細める。
水晶柱に文字が浮かび上がる。
南実「え、回復系なの……?」
エイラは、少し意外そうな表情を浮かべつつ説明する。
エイラ「はい。那知さんの能力は、鍼治療、アロマ、手技などを用いた回復支援系スキルです。」
周囲がざわつく。
日向「……意外ですね。」
零王「那知が回復役なんね!?」
太希も、わずかに目を見開いた。
太希「……マジか。」
那知は肩をすくめた。
那知「失礼だな。一応、昔は医者をしていたんだがな。」
エイラ「この能力は、即座に傷を治すタイプではありません。時間をかけて、疲労や不調を回復させる力です。そのため、戦闘中の使用は困難です。ですが、戦闘後の回復や長期行動のサポートには、非常に優れています。」
清雨「じわじわ効くタイプアルな。」
那知「派手さはないが、身体というのは、丁寧に扱うほど応えてくれるものだ。」
太希は少しだけ視線を逸らした。
太希「……理にかなってる。」
那知は一瞬だけ、満足そうに微笑む。
エイラも頷いた。
エイラ「那知さんの能力はパーティーの持久力を支える力です。長い旅では、欠かせない存在になりますよ。」
那知は魔法陣を降りながら、静かに言った。
那知「意外、という顔は心外だな。」
次に来たのは、
静かな気配をまとった青年だった。
感情を表に出さない、クールな雰囲気。
日本にいた時は、
日本のスナイパー大会のような場で
何度も優勝してきたほどの狙撃の才能を持つ。
エイラ「枢臣さん、こちらへどうぞ。」
枢臣は頷き、魔法陣の中央へ立った。
魔法陣が起動する。
その瞬間、
空気が張り詰めた。
水晶柱が、澄んだ青色へと変化する。
エイラは、小さく金属製の的を用意した。
エイラ「枢臣さん。よろしければ、こちらで能力をご確認ください。弾に火を込めるイメージで。」
枢臣「了解。」
彼は、用意された銃を手に取る。
構える動作に、迷いがない。
銃口に、淡い魔力が集まった。
北実「……弾に?」
引き金が引かれる。
弾丸が的に命中した瞬間、
小さな炎が、弾着点から噴き上がった。
国雲「火アル……!」
水晶柱に文字が浮かび上がる。
エイラはすぐに説明に入る。
エイラ「枢臣さんの能力は、弾丸に魔法を込める力です。」
日向「なるほど。枢臣さんの得意とする狙撃と相性がいいですね。」
エイラ「はい。火、氷、雷などの魔法を弾丸に付与できます。命中した瞬間に、その魔法が発動します。」
米太「遠距離から魔法ぶち込めるってことか!That’s cool!」
ですが、とエイラは続ける。
エイラ「ただし制限があります。一つの弾丸に込められる魔法は、一種類だけです。」
枢臣は淡々と頷いた。
枢臣「十分だ。」
南実「欲張らないタイプだ。」
エイラ「付与する魔法の選択が、戦況を大きく左右します。まさに、狙撃手向きの能力ですね。」
枢臣は的を見つめながら、静かに言った。
枢臣「当てられる距離なら、選択肢はいくらでもある。」
北実(頼もしい…)
エイラも満足そうに頷いた。
エイラ「氷雨さんの能力は、パーティーの遠距離火力の要です。その狙撃技術と組み合わされば、とても心強い存在になりますよ。」
枢臣は銃を下ろし、静かに魔法陣を降りた。
全員の測定がひと段落し、
訓練場の空気も、少しだけ和らいだ。
南実「……そういえばさ。」
南実が、何気ない調子で口を開く。
南実「エイラとレイヴンの能力って、どんなの?」
その瞬間。
エイラとレイヴンが、
ほんの一瞬だけ、視線を交わした。
ほんの刹那。
ほとんどの人は、気づかないほどの短さ。
北実(……今の、気のせいか?)
エイラはすぐに、いつもの柔らかな表情に戻った。
エイラ「ふふ……そうですね。せっかくですし、簡単にお話ししますね。」
エイラは少し照れたように指を組む。
エイラ「私の固有スキルは……魔法と魔法を組み合わせて、新しい魔法を作る能力です。」
南実「新しい魔法?」
エイラ「はいっ!たとえば、火魔法と風魔法を組み合わせたり、回復魔法と防御魔法を混ぜたり……」
日向「……かなり特殊ですね。」
エイラは少し困ったように笑う。
エイラ「ただし、問題もあって……どんな魔法ができるのか、私自身にもほとんど分からないんです。しかも、完成した魔法は魔力をたくさん使うものが多くて……」
南実「それ、エイラらしいね。」
それでも、どこか楽しそうだ。
次に、視線がレイヴンへ向く。
レイヴン「……俺か。」
相変わらず、口数は少ない。
レイヴン「俺の能力は単純だ。魔物を召喚する力だ。」
国雲「従魔召喚みたいなやつアルか……!」
レイヴン「弱い魔物から、強力な魔物まで、種類は様々だ。」
エイラが補足する。
エイラ「ただし、召喚にはかなりの魔力を使います。」
南実「うわ……」
レイヴンは肩をすくめた。
レイヴン「まあ、魔力なら元々多い。問題になることは少ない。」
エイラも小さく頷く。
エイラ「私も、魔力はけっこう多いので!」
2人とも、
その制限をあまり制限として気にしていない。
南実「……なるほどね。」
南実は、どこか納得したように笑った。
南実「みんな、それぞれ違ってて面白いんだね。」
エイラは優しく微笑む。
エイラ「はい。これで、勇者の皆さんの力は一通り分かりました。」
俺は、胸の奥が少しだけ高鳴るのを感じた。
北実(能力は揃った。でも、これをどう使うかだ。)
訓練場に、静かな期待と、
ほんのわずかな不安が残る。
──こうして、
勇者たちの力は、すべて明らかになった。
to be continue