朝の忍術学園はいつも以上に慌ただしかった。廊下を行き交う生徒たちが装備を確認しながら、次々と準備を進めていく。
乱太郎:「えっ!?くないの袋がない!?どこいったんだろう、しんべヱ見た!?」 (焦りながらあたりを探す)
きり丸︰「落ち着けよ乱太郎〜。」
三治郎:「えー!カラクリの歯車が一つ足りない!?」 (慌てて部品を探す)
そんな中、よもぎは静かに毒や薬をまとめて袋に収めながら廊下に出た。朝の騒がしさに囲まれつつも、彼女の動きは落ち着いている。
ふと、角を曲がった瞬間——
よもぎ:「……兄様。」
よもぎと伊作がばったり出くわした。
伊作は装備を整えたまま立ち止まり、よもぎの姿をじっと見つめる。
よもぎ:「お気をつけて。」 (柔らかい声で静かに言う)
伊作は一瞬だけ表情を緩め、静かに頷いた。
伊作:「うん。よもぎも悔いないように。」
そう言い残すと、伊作はゆっくりと歩き出し、出陣へ向かう準備を完了させるのだった——。
校庭には全校生徒が整列し、緊張感が張り詰めていた。朝の光が忍者たちの装備を照らし、どこか厳かな雰囲気を醸し出している。
土井先生が前に立ち、深く息をついてから、生徒たちを見渡した。
土井先生:「では、班編成を発表する。」
静寂が広がる中、土井先生の声が響く。
土井先生:「6年は組、食満留三郎。5年い組、久々知兵助。4年は組、斉藤タカ丸。4年い組、綾部喜八郎。3年は組、浦風藤内。2年は組、羽丹羽石人。1年は組、夢前三治郎、加藤団蔵。そして……くノ一教室、善法寺蓬。」
一呼吸置いて、土井先生は続ける。
土井先生:「以上、2班編成とする。」
生徒たちは互いに視線を交わしながら、それぞれの覚悟を決めていく。よもぎは静かに息をつき、自分が呼ばれたことを受け止めた。隣に立つ三治郎と団蔵は緊張しながらも、決意を固めるような表情をしていた。
こうして、忍術学園の者たちは、それぞれの班に分かれ、いよいよ出陣の時を迎える。
森の中へと踏み出した忍術学園の生徒たちは、班ごとに整列し、静かに息を合わせながら疾走した。
木々が生い茂る中、葉擦れの音がわずかに響く。朝の冷たい空気を切るように、彼らの足音が地面を駆け抜けた。
食満:「遅れるな。速度を一定に保て。」 (低い声で全員に指示を出す)
久々知:「距離を詰めるな。間隔を維持して。」 (冷静に隊列のバランスを確認する)
よもぎは静かに息を整えながら、仲間たちと同じ歩調を保って走った。袋に収めた毒薬の重みを指先で感じながら、その効力と用途を頭の中で整理していく。
班の先頭を走る浦風藤内は、目を細めながら周囲を警戒していた。
浦風:「……風が乱れてる。気を抜くなよ。」 (鋭い声で注意を促す)
全員が無言で頷き、さらに速度を上げた。
食満は軽く息をつきながら、走る勢いのままよもぎを背に乗せた。
食満:「お前は俺の後ろに乗ってろ。伊作の妹なら、不運に巻き込まれるかもしんねぇからな。」 (淡々と言いつつも、気遣うような口調)
しかし、よもぎは躊躇うことなくすぐに背中から飛び降り、冷静な口調で言い返した。
よもぎ:「兄様と一緒にしないでください。一度も不運になったことはありません。」 (真顔だが、どこか不満を滲ませる)
食満は「はぁ?」と驚いた顔をしながら、よもぎを見下ろした。
食満:「お前、マジか……。」
よもぎは静かに頷く。
よもぎ:「ええ。そのような災難に遭ったことはございません。」
食満はしばらく黙っていたが、すぐに苦笑しながら肩をすくめた。
食満:「……まぁいいか。お前がそう言うなら、その運の良さで最後まで走り切れよ。」
こうして、班の隊列は乱れることなく、森を駆け抜けていった——。
7キロの距離を走り抜けた森の中へと到着した忍術学園の者たちは、周囲の環境を確認しながら慎重に動いた。
そんな中、綾部喜八郎はのんびりと周囲を眺めながら、ぽつりと呟くように言った。
綾部:「……ここに穴を掘って、基地にしちゃえばいいんじゃない?」 (ゆっくりした口調で、どこか気楽に提案する)
食満は腕を組みながら、綾部を見やった。
食満:「基地にする?それで安全は確保できるのか?」
綾部はふわっと肩をすくめ、適当に地面を蹴りながら言葉を続ける。
綾部:「うんー……地面、しっかりしてるし、隠れるにはいいんじゃない?」 (特に力を込めるでもなく、淡々と話す)
よもぎは綾部の提案を聞きながら、冷静に分析した。
よもぎ:「地面を利用するのはいい考えです。敵に見つかりにくくなるし、調合の作業も静かに行えます。」
食満は考え込むようにうなり、班の仲間たちを見渡した。
食満:「……まぁ、悪くないか。時間をかけすぎるな、一気に掘るぞ。」
こうして、忍術学園の者たちは、それぞれの役目を果たしながら基地づくりに取り掛かるのだった。
基地づくりが順調に進み、気づけば夕暮れが森を染め始めていた。
地面に掘られた穴は十分な広さを持ち、簡易的な支柱と覆いを設けたことで、しっかりとした隠れ家として機能するようになっていた。
食満:「……これならしばらくは使えるな。」 (腕を組みながら完成した基地を見渡す)
綾部:「うんー、けっこういい感じに仕上がったねぇ。」 (マイペースに眺めながら満足げに頷く)
仲間たちはそれぞれの役目を終え、ほっと一息つきながら基地内の整備を続けていた。
よもぎは静かに袋を開き、調合済みの毒薬を並べながら、戦への備えを再確認する。
森の奥へと沈む夕陽が、彼らの覚悟を照らすように燃えていた。
森に静寂が訪れ、基地の中では皆がすでに寝息を立てていた。夜の冷たい空気があたりを包む中、よもぎと綾部喜八郎は静かに外へ出た。
二人は穏やかな月光の下に立ち、しばらく沈黙が続いた。やがて、綾部がのんびりとした口調で問いかける。
綾部:「ねぇ、蓬ちゃん。なんで穴を掘ることをすすめたのぉ?」
よもぎは月を見上げながら、静かに答えた。
よもぎ:「うん。綾部くんの穴掘りは悪いことばかりじゃなくて、良いところもあるって証明したかったからかな?」
その言葉に、綾部はゆっくりと目を瞬かせる。そして、驚いたように小さく呟いた。
綾部:「おやまぁ。」
月光が彼の目に反射し、柔らかな光を帯びたその瞳がよもぎをじっと見つめた。
よもぎはそんな綾部の様子を見ながら、静かに微笑んだ。
夜の静けさの中、二人の影は月の下でそっと揺らめいていた——。
つづく
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!